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まちのかたち・まちのすがた
〜ファサードデザインの可能性〜

大阪大学 小浦久子

 

営みが都市を変えてきた

 遷都のたびに、そのときの都は棄てられた。今、人口縮小時代をむかえ、村が消えるというだけでなく、ニュータウンを計画的に整理する時代が来ることが話題になる。その場所に人が集まり、住み続ける、そこで何らかの活動を続ける、多様な人々が集まり生産・創造を続けるという必要がなくなったとき、まちであることの意味を失い、まちは消える。

 そのなかで近世城下町の多くは、今も現役の都市として生き続けている。しかし、先行きが危惧される村やニュータウンと比べれば、都市は生きるために、大きくそのすがたを変えた。近世の都市空間をつくっていたプロトタイプである町家にかわり、近代建築から高層ビルへと建て替えられ、都市のかたちは大きく変わった。新しい業務機能や職住の分離といった暮らし方の変化が新たな空間を求めた。

 近代化以前も、都市での営みは変化を続けたが、町家という都市建築のプロトタイプで対応できていた。それが近代化の過程では、対応しきれない変化となり、都市の姿を変えた。機能や暮らし方が新たなデザインを求める。


都市がかたちを見失う

 大阪の歴史的都心でみれば、近代化の過程で、時代の先端デザインであった近代建築が町家の市街地に建ち始めたが、それは建築レベルの変化であった。個々の町家のビル化が少しずつ進んだものの、町家が建て替わって新たな都市のかたちができる前に戦災をうけ、都市はかたちを失った。

 そして戦災復興から高度成長期において、商業業務機能集積が進み、気がつくと近世のまちの姿は跡形もなく、近代建築が創り得たかもしれないまちのかたちを見ることもなく、都市はそのかたちを見失ったかのようである。

 都市はかたちを見失ったまま、個々の敷地の経済活動がまちの姿に現れるようになる。小さな近代建築の横に超高層マンションがたち、ビルの低層部がオフィスから店舗に変わることで構えのデザインが変わり、ビルの建て替えで狭い敷地でも高層化するなど、まちの姿は変化を続けている。


ファサードデザインとは何なのか

 まちの姿には、本来、都市空間のかたち、都市機能や住まい方が求めるかたちが現れてくる。その総体を道空間の構成要素となるまちのファサードととらえることにしてみよう。

 町家の市街地では、個別敷地での建て方にプロトタイプがあり、これにより都市空間のかたちの枠組が安定していた。そこでは、屋根や格子、店先の賑わいなど、建築レベルの構成要素のデザインの多様性がまちのファサードをつくる。

 これにくらべると、現在の大阪都心には多様な規模と建て方の建築が混在している。また最近の開発では、隣接地との関係や通りのコンテクストとは全く無関係に、集団規定という制度の枠組のなかで最大規模を実現することがまず優先される建て方が選択される。このため、敷地条件と用途によって選択される建て方は多様となり、都市空間のかたちは安定しない。このとき、個々の敷地のデザインはまちのファサードをつくる力を持ち得るのだろうか。


ファサードの表現力とデザイン

 都市空間のかたちが安定しないことは、現在のまちは、「かたちを見失っている」「かたちを決める都市建築の型を持っていない」といった状況による。そうしたまちでは、個々の建築がファサードをつくるという意味において、「1つの敷地のデザインによって、まちのかたちを提案できますか?そのデザインによって、敷地をつなぐことができますか?」という問いに応えたい。

 この問いの応えるデザインは、ときには最大規模を実現するという経済合理性からの要求にあわないかもしれないし、必ずしも既存制度の枠組に合うとも限らない。それでも、アートであれ、建築であれ、空間デザインであれ、制度や経済合理性からの要求を超える構想力を、これまでも、これからも、示しうることが、デザインの社会性といえる。

 建築のファサード、低層部の演出、店の賑わい、通りにあふれる緑や花、道の使い方、敷地際のあいまいな空間など、敷地レベルのデザインがまちのファサードをつくる。これらまちのファサードの構成要素は、都市の営みや生活空間と連動し、それは、敷地の使い方や建築の建て方とつながるという意味において、そのデザインもまた、まちのかたちを提案しうるはずである。

     
     小浦久子(こうら ひさこ)。
     大阪大学大学院助教授。1981年大阪大学人間科学部卒。民間建設コンサルタント勤務等を経て1998年より現職。工学博士。技術士(都市および地方計画)。専門は都市計画。著書に『職住共存の都心再生』(共著、学芸出版社)、『まちづくり教科書第8巻・景観まちづくり』(共著、丸善)など。
 
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