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時間・自然・空間(empty space)との応答
〜生活と風景のデザイン〜

関西大学/現代計画研究所・大阪 江川直樹

 

すき間

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広島市営庚午南住宅
 
 集合住宅の上層階にあるセットバックテラス。天空に開いて気持ちよい。2軒の家の間に路地型通り抜け階段をはさみこみ、隙間をつくっている。天気のよい朝、すき間を介して隣り合うテラスでは、住民が洗濯物を干す。すき間を介することによって、ちょっとした空間の「間合い」が生じ、オープンに隣り合うテラス同士で会話が生まれる。ダイレクトに隣り合うバルコニーでは、こういう風景は生まれないし、いわゆる「隔て板」が隣同士のコミュニティを貧しくする。デザインは、こういった風景を意図的に創り出す。レイヤーとは、重なり合うだけでなく、隔てることから重なる風景を生み出すことか。


すき間

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芦屋市営若宮町住宅
 
 集合住宅のエントランス、階段ではあるが、それを口実に、すき間をデザインした。階段を上って行き、左に折れて半階上がり、折れ曲がって上る先には我が町の東の風景がみえる。エレベーターで降りたとたん、我が町の西の風景が見える。階段の踊り場からは、六甲山が見える。階段のシークエンスだけでなく、通り抜け通路は、間に影を挟みこみ、向こうに明るい通路が見え、人が行き来する。さらに奥には別の階段の影。このすき間を気持ちのよい風も吹き抜けていく。デザインは、こういった風景を意図的に創り出す。


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三田市アルカディア21(住宅街区)
 
 影をデザインする。影は、図面には描かれていないし、時間とともに動いていく。その美しく動いていく影の風景を意図的に創り出す。影が美しく映るための石畳。影が、道路から擁壁に美しく駆け上がるためのデザイン。夏の空気ではくっきりとした影が、冬の曇天ではかすかな影が。雨の溜まった石畳に、美しく映る影。そのために、どのような石を使い、どのようにこちら側に木を植えるのか。平面図でもなく、断面図でもなく、3次元的な、空間のデザイン。なにもない空間を介するデザイン。


こけ(苔)

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三田市アルカディア21(住宅街区)
 
 ピンコロ石を斜めに積み上げる。影を美しくするために、道路から連続して有機的な連続した曲面で積み上げる。斜めに積み上げたピンコロ石の目地は、深目地にする。こけの菌を含んだ土ほこりがこの目地にたまり、雨が降り、湿気がたまり、いつしかこの深目地は、緑のコケで埋められる。堅い石の擁壁が、やわらかい目地のせいで、人にやさしい壁になる。住民は、その擁壁の上に花を植える。道路(公共)と擁壁(私)が、境界線を失くしたかのように連続し、美しく気持ちのよい風景となる。デザインは、こういった風景を意図的に創り出す。


夕陽に映える

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西舞鶴駅前緑地広場
 
 かすかな「むくり」を持って貼上げられた「いぶし瓦」の壁面。夕陽をあびて、美しくしっとりと輝く。 いかに美しく映しこむ壁を創るのか、われわれはものとしての壁をつくるのではなく、自然と応答する壁面を、表面を考える。空間は、素材と素材の間にあると言ったのはライトだが、素材をどう壁とするのか。デザインは、こういった風景を意図的に創りだす。


偶然を意図する

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青石を骨材としたスプリットンブロック 神戸市藤原台
 
 スプリットンブロックは、間違いなく工場で生産される工業製品だ。しかし、二つとして同じものはない。工場で整形に作られたものを最後に二つに割るときの、その割れ方の詳細は予測できない。偶然のたまものである。ただひとつ見たときに、あるいは数個だけ見たときに、決して人を感動させはしない。物として見ているからである。しかし、まちの中で連続的に使われて、樹木や家々や、花々や、人々の背景として見たときに、なかなかに良い。デザインは、こういった風景を意図的に創りだす。


ピロティ

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芦屋市南芦屋浜震災復興公営住宅
 
 比較的天井の低いピロティ。コミュニティアートでは「ヒーリング」と名付け、道路際に、だがしかし、住棟で囲まれた中庭をはさむように配置した。話題になった「だんだん畑」だが、その前で無心に遊ぶ子供達。彼らを見守るように、日射を避けた影のなかに座る老婦人がひとり。抜ける風は気持ちよい。だんだん畑も写真に撮れば、ものとしての畑が映り、背後にコミュニティの葛藤や喜びが映るのだが、こういった生活の風景を想像しながら創りだすのがデザインの力だろう。

     
     江川直樹(えがわ なおき)。
     1951年三重県生まれ。早稲田大学大学院修士課程建築学専攻終了。現代計画研究所・大阪を拠点に、「集まって住む環境」のデザイン、設計の実践活動を継続中。2004年からは、関西大学工学部建築学科に建築環境デザイン研究室を開設、「集まって住む環境」の研究を、次代を担う若者とともに開始。現在は、カンボジアの浸水域の集落(増水期は水上集落に、渇水期は高床式の空中集落と季節移住水上仮説住居集落とに変容する)カンポン・プロックの実測調査・研究を研究室のメンバーらとともに実践中。
     主な作品に、御坊市営島団地再生(日本都市計画学会賞・計画設計賞他)、今田町の家(日本建築士会連合会賞・作品賞他)、芦屋市若宮町震災復興(都市住宅学会賞・業績賞他)など、主な著作に『住まいと街の仕掛人』(都市住宅学会賞・著作賞)など。
 
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