都市観光の新しい形
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事例報告

あまけん:わがまちをオモシロがる方法

尼崎南部再生研究室、(株)地域環境計画研究所 若狭健作

 

 

かつて工都と呼ばれたまち

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図1 尼崎南部の工業地域
 
 尼崎市は兵庫県東南端に位置し、大阪市に隣接する人口約46万人の都市である。近代には東洋一の火力発電所や製鉄所を中心に、日本の産業を支えてきた。阪神工業地帯の中核を担ってきた「工都」は70年代以降かげりを見せはじめる。日本経済の構造変化や地価の上昇にともない、地方や海外への工場の移転が相次いだ(図1)。

 

あまけん設立の経緯

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図2 会議風景
 
 工都としての繁栄の裏側で、大気汚染という公害問題も生み出された。30年以上も続いた運動から発展した尼崎大気汚染公害訴訟は1999年に歴史的和解を迎える。2001年には、この和解金の一部を活用して「尼崎南部再生研究室」(通称・あまけん)が設立された。疲弊した尼崎市南部地域の活性化を目指す市民組織として、片寄俊秀教授(まちづくり・当時関西学院大学)を顧問にむかえ、研究者、大学生、行政職員、マスコミ、地元商業者、金融機関、コンサルタントなど多彩な顔ぶれが集まった(図2)。

 「工業都市=大気汚染・公害」といったネガティブなイメージに隠れてしまった、地域の魅力を見直そうと、まちへの好奇心と遊び心を大切にしながら活動を展開している。

 

運河クルージング〜産業遺産の観光活用

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図3 運河クルージング2004年4月
 
 工業の衰退により、本来の役割を終えつつある運河網やその景観を「産業遺産」「テクノスケープ」といった観点で再評価しようと、同研究室では、01年の設立以来、航路や水深の調査、カヤック、花見屋形船などを実践してきた。04年4月からは一般市民を対象としたガイドクルージングをスタート。毎年の春秋の数日間の開催だが、反響は大きく、市外からも家族連れやかつての工場労働者などが乗船している(図3)。

 クルージングでは、日本のチタン製造発祥の工場、明石海峡のハンガーケーブル、北海油田の掘削用パイプ、プラズマディスプレイ…、塀のなかに隠れた工業地帯の魅力を一つ一つ丁寧に説明する。運河沿いの工場群や、閘門、可動橋といったダイナミックな景観を観光として活用する実験は今年で6年目を迎える。2007年には国土交通省による運河の再生協議会が設立され、官民一体となった取り組みへと期待が高まる。

 

尼いも〜伝統野菜の復活

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図4 半世紀ぶりに復活した尼いも(四十日藷) 図5 絵本「僕はアマイモ」
 
 「昔食べたおイモが甘くてなあ…」とかつての特産「尼いも」の思い出を語る地域のお年寄り。その昔、海辺の畑で作られていたサツマイモは、尼いもと呼ばれ京都の料亭へも出荷されていたという。しかし、50年前に台風で絶滅…したと思われていたが、聞き取りを重ね、茨城県にある現・独立行政法人農業技術研究機構作物研究所で、原種と思われる「四十日藷(しじゅうにちいも)」を発見。地元農家の協力を得て栽培が復活した(図4)。

 2001年春には尼いもクラブを結成。毎年8月には試食会「イモコレ」を開き、尼いもを通じた人の輪は広がりつつある。昔ながらの栽培方法にこだわり、種芋の保存から育苗、栽培までに取り組んでいる。当面の課題は苗の増産と栽培地の拡大。市も尼いもブランドを生かした焼酎の開発に着手するなど、各方面での展開が広がってきた。

 一般の希望者への苗を配布に加えて、小中学生へのPR活動にも取り組んでいる。歴史をまとめた小冊子「尼いもの本(全2巻)」や絵本「僕はアマイモ」といった発行物は市内の小中学校に配られ、総合学習の現場で、栽培学習のプログラムにも活用されている(図5)。

 

フリーペーパー「南部再生」

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図6 尼崎南部地域の情報誌『南部再生』 図7 第1回コンペ応募チラシ
 
 大阪・神戸の影に隠れているのか、尼崎がメジャーなタウン誌に登場することは極めて少ない。設立以来、同研究室が発行する情報誌「南部再生」では、尼崎南部というエリアに限定し、隠れたまちの魅力を地元住民向けに発信している。フリーペーパー発行の目的は、地元の人に自らの地域のよさを知ってもらうことだ(図6)。

 「アマのウチナー(沖縄)」「オール阪神阪急」「尼崎的建築ガイド」といった尼崎ならではのトピックを特集企画に、「アート」「まつり」「町並み」「B級グルメ」などメンバーそれぞれの専門性や視点を活かした連載記事などを織り交ぜ、季刊発行を続けている。通巻第26号をかぞえ、400人を超える会員への定期購読をはじめ、取材協力店、地元信用金庫や郵便局、駅、公共施設といった市内各所で配布し、発行部数は1万部に達した。発行のための印刷資金は尼崎信用金庫や会員からの寄付でまかなう。

 取材活動を通して見つけた地域情報を通して、市内の人的なネットワークも広がりつつある。A5判24ページの小冊子ながら、まちの人材をつなぐコミュニケーションツールとしての可能性も感じている。

 

メイドインアマガサキ

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図8 メイドイン尼崎本
 
 「ものづくりのまち」と尼崎のことを言う。しかし、このまちに住んでいる人たちは「何を作っているのか」を意外と知らない。尼崎ならではの商品や製品を再発見するため、03年、地元商店街・TMOと連携して「メイドインアマガサキコンペ」を開催した(図7)。

 コンペには庶民的な食べ物から最先端の工業製品まで、応募者の愛着や想いが込められた品々が集まった。商店主、製造業者、大学教授、作家、PRプロデューサーといった審査委員が選んだ二つのグランプリは、国内で高い生産シェアを誇り工都を感じさせる「金属製の湯たんぽ」と、尼崎が漁港だった歴史を物語る「天ぷら(揚げかまぼこ)」。どちらも地域性の強い逸品であるとともに、独特のノリと遊び心で注目を集めた。

 商店街の空き店舗には「メイドインアマガサキショップ」がオープン。コンペに寄せられた品々を展示、販売する地元アンテナショップが誕生した。商店街を中心とした(株)TMO尼崎では「メイドインアマガサキ」をコンセプトに、ギフトセットやオリジナル商品の開発に取り組んでいる。

 さらに、2006年には過去3回のコンペで選ばれた品々をまとめ「メイドイン尼崎本」として出版。地元愛の高まりか、1万5000部にまで増刷を重ねた。書店や出版関係者はご当地本としては異例のヒットだという(図8)。

 

地域のブランド力

 地域の魅力を見直し、地域資源として活用するまちづくりは全国各地で活発に取り組まれている。同研究室でのすべての活動は、自分たちがオモシロいと思えるものを、思い切り楽しんでみることからスタートする。そうして見出したまちの魅力だからこそ、人に伝わる熱を持つのだろう。「わがまちにはコレがある」と胸を張って自慢できるものを掘り起こし、今年で活動7年目をむかえるあまけん。磨けば光る地域資源をいかに魅せるか。今後はさらに具体的な企画を実現していきたい。

     
     若狭健作(わかさけんさく)
     1977年大阪で生まれた男ながら尼崎に魅せられ、関西学院大学総合政策学部を卒業後、同研究室研究員に。超地域密着の情報誌や工場ツアー「運河クルージング」の企画をするかたわら、まちづくりコンサルタントとしても他都市で地元に愛される地域づくりを提案する。(株)地域環境計画研究所取締役、商店街事務局強化アドバイザー(中小企業基盤整備機構)、関西学院大学「地域・まち・環境総合政策研究センター」客員研究員など、履けるわらじは何足でも履く。
 
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