都市観光の新しい形
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都市観光と都市デザイン

まちのホスピタリティーの醸成

大阪ガス(株) 篠原祥

 

 

まちのホスピタリティーについての私的体験

行ってみたい大阪・船場(2000年1月)

 産官学による、大阪の未来とそこへ至るべき道を考える場である「都市大阪創生研究会」(以下創生研)に参加し、大阪の都心・船場の魅力アップ策を検討する機会を得た。そこでのキーワードとして、「行ってみたい大阪」「訪れて楽しいまち」というものが提示され、その実現のためには「まちのホスピタリティの醸成」が大切であり、まちの「ホスト役」を生み出す必要があるというひとつの結論を得た。筆者が都市観光的な視点でまちを見るきっかけとなり、その後、まちのホスピタリティって何?まちのホストってどんな人?と考え始めたのである。

船場ホストクラブ(2001年9月)

 船場の活性化策を募集するアイデアコンペがあり、筆者は前述の創生研メンバーのひとりと一緒に「船場ホストクラブ」という提案を考えた。船場に思いを持つ店主、ワーカー、市民が参加するまちの案内役(ホスト)の組織(クラブ)を構築しようという内容だったが、時間切れで応募は実現しなかった。

ホストとゲストの共鳴(2001年10月)

 創生研メンバーで賢島に研修に行った帰りに、ちょっとまちを散策してみようとの思いから「松阪」に立ち寄った。まずはまちの歴史や見どころの情報収集をして散策マップを入手しようとまちづくりセンターへ行くと、所長さんらしき人が丁寧にまちの説明をしてくれた。とても興味深い話だったので1時間ほど聞き、帰り際にまちづくり倶楽部の会員登録をさせてもらった。そしてそこを離れてまちを散策し始めた時、館長が駆け寄ってきて「ご案内します。こちらへどうぞ」とおっしゃるのだ。そして館長の案内でおよそ1時間半、御城番屋敷や松阪城跡などの魅力スポットを訪れた。システムではない手づくり感覚のオーダーメイドのガイドツアーに感銘を受けた。今改めて考えると訪れる側の姿勢もホスト側の行動に影響を与えたのかもしれない。

クオリティーの追求(2003年10月)

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社会実験「リバーカフェ」
 
 創生研で社会実験「リバーカフェ」をおこなうことになり、筆者もお手伝いをすることになった。研究会メンバーとその友人、同僚、家族という素人集団が、正規の手続きを踏んで川の上に台船を浮かべ、期間限定のカフェを営業しようという試みである。通常そのような企画では「やることに意味がある」という考えで、行き届かないところの多い素人感覚満載の運営になるケースが多いが、リバーカフェは違っていた。お店の設え、従業員のユニフォーム、料理、ライブ演奏など、すべてにこだわった企画運営をおこなった結果、多くのメディアに取り上げられ、連日満員の成果を上げることができた。質の高さもホスピタリティーを考える上で大切なことであると感じた。

企画から運営まで一気通貫のかかわり(2005年9月)

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タレルの部屋(金沢21世紀美術館)
 
 15人ほどの視察団の一員として金沢21世紀美術館を訪れた。館長(蓑豊氏)ご自身が約1時間案内してくれ、美術館づくりに込めた思い、ひとつひとつの作品の魅力を熱く語ってくださった。そして見学を終えて会議室に戻ると金沢市長が「ようこそ金沢へ!」ともてなしてくれたのである。メンバーにとって忘れられない出来事となったのは言うまでもない。誰しもがキーマンと認める人がいて、その人が企画から運営まで深くかかわり、自ら来訪者を手厚くもてなすという当たり前のことの大切さを改めて感じた。

行き届いた演出(2006年6月)

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オールドアルジェ地区のまちづくりセンター
 
 ニューオーリンズを訪れた時のことである。「オールドアルジェ」という地区の見学ツアーがあり、およそ50名の来訪者をタウンマネジャーが案内してくれた。彼は往年のジャズミュージシャンの生家などについて熱く語る。たぶん彼自身が発掘した魅力でありその情熱は強く伝わってくるのだが、まちとしての魅力をそれほど感じたわけではなかった。2時間ほど彼の説明を聞き、まちを歩き、暑さと疲労のピークに達した時、彼らの「まちづくりセンター」にたどり着いた。そして古い倉庫を改装した施設に入ってみて驚いた。冷房のよく効いた、内装にこだわったホールがあり、そこにBGM的にニューオーリンズらしいライブ演奏のジャズが流れ、食べきれないほどのサンドイッチ、フルーツとワイン!まるで彼流のお礼の表現のように思えた。この行き届いた演出のすばらしさと、もてなしのレベルの高さに感銘を受けて、このオールドアルジェ地区がとても印象に残っている。

 

まちのホスピタリティーを醸成するには

 ここで都市観光とまちづくりについて整理してみる。まちの魅力を見つけてそれを手がかりにまちに人を呼び込み、まちの魅力アップ(まちづくり)につなげていくという手法は、図のように整理できる。このような図式は少し考えれば描けるが、前述の事例から筆者が言いたいことは、このAEのひとつひとつの行動をいかにつくり込んでいくかがポイントであるということである。

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まちの魅力発見からまちづくりに
 
 A 発掘する:自ら歩き、オリジナルの文献を調べ、生の人の話に耳を傾けることによって、潜在的魅力を顕在化できるのではないか。

 B 磨く:魅力の理解を深め、自らの考えで魅力アップしていくことが大切。

 C 繋げる:訪れる人の視点で複数の魅力をつなぎ、魅力の集合体(エリア)としての魅力付けが重要。

 D 発信する:まちの個性をいかにうまく発信できるか、個々の魅力だけでなく集合体(エリア)としての魅力をどのように発信するかがポイント。

 E 呼び込む:案内ツールの開発も必要だが、オーダーメイドを感じさせることも大切。

 「ホスピタリティーの醸成」というと、Eの「呼び込む」場面だけに注目しがちであるが、AEすべてで「ホスピタリティーの醸成」の視点が必要ということではないだろうか。訪れる人、利用する人の立場に立って発掘し、磨き…ということである。そして効率化とは相反する方向であるが、オーダーメイドの色合いが濃く、ルーティンワーク化されず常に更新され変化しており、拡大し深まっていくという状況が望ましいと考える。

 

自らの行動を省みて

 最後にこれまでに述べたことを自分の行動に照らし合わせて整理してみる。筆者は7年前から船場・三休橋筋の活動に関わっており、三休橋筋の知名度アップ、魅力アップを目指して、イベント開催、コンペ応募、まち歩きなどを企画実施してきた。またメディアの取材、シンポジウムでのパネリスト、まち歩きツアーのガイド役なども積極的に引き受けてきた。そこで意識していることは「三休橋筋の名前の露出」「不特定多数への魅力の発信」といった供給サイドの視点であり、メディア、行政、まちづくり団体などの間接的利用者あるいは専門家向けの「手厚いオーダーメイドの情報提供」であった。つまり直接まちを利用する来訪者、ワーカー、市民といったレベルでのホスピタリティという点では不十分であったように思う。

 三休橋筋では今、プロムナード整備が進行中であり、数年後には電線が地中化され、ガス燈が灯る道に変貌する。また知名度も確実にアップしている。真に「行ってみたい三休橋筋」にしていくために、多面的なホスピタリティの醸成に注力していきたい。

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