都市観光の新しい形
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都市観光の新しい形〜「まち」を訪ねる

大阪・九条下町おもしろウォーク体験記

(株)URサポート 川本知恵子

 

 

下町の大阪のええとこてんこ盛りツアーでっせ!

 近年、地元ボランティアガイドの案内で、通常の観光スポットでない下町人情やご当地グルメを体験するツーリズムや昭和レトロを懐かしむ旅が各地で盛んですが、大阪ではその奔り的な存在が、この『九条下町ツアー』ではないかと感じ、今回ご紹介させていただきます。

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難波の歴史紙芝居 ジョーズお好み焼き
 
 このツアーを知るきっかけになったのは、当社が事務局を努める研究会「西大阪線あこがれぷらっとホーム楽会」で、神戸から奈良までのエリアを直結する阪神なんば線建設に伴い、結節点となる西九条〜難波間の地域資源調査を行ったことでした。

 既に10年近くの実績を誇る、地元出身の大学教授による下町観光ツアーがあるとのことで、年2期の一般募集を待ちわび、ようやく今秋の回に参加することができました。

 「参加費千円で、おじさん・おばさんガイドと一緒に下町のシンボル、懐かしい市場をのぞいたり、うまいもんをつまみ食いしながら歩く、デパート食品売場のノリで〜す!」と書かれたチラシを手に、期待と不安入り交じる心地で集合場所の西九条駅改札に向かうと、主宰の谷口教授自らが約束通り青い風船を手にお出迎え下さいました。

 「おばさんガイドが夏バテでダウンしてますねん」とのことで、総勢29名の参加者と谷口夫妻、おじさんガイド1名での旅の出発です。ここで、今回の旅の見所を整理しておきましょう。

     
     ・安治川河底トンネル(沈埋工法で昭和19年完成)
     ・なんば線工事現場でクイズ大会&六甲おろしの大合唱
     ・粟おこし製造直売の「とらや」で試食
     ・鉄工所をコンバージョンした癒し空間「みゅーらしあ」
     ・鮫粉入りジョーズの顔のお好み焼きで有名な「かんえい堂」で試食
     ・鉄の町のシンボル「末永興業SL館」
     ・出征兵士を見送った「八紘一宇の碑」
     ・多くの有名人を輩出した九条南小学校
     ・九条南公園にて大阪の歴史紙芝居とタコヤキ試食
     ・下町市場で黄身3個入幸運縁起タマゴ見学&対面販売を楽しむ
     ・紹記の手づくり豚まんの試食
     ・商店街にて巨大スイカの目方当てクイズ
     ・阪神なんば線新駅幻の出入口(延伸計画時に新駅出入口にするためビル内に設置されるも計画変更で無用に)
     ・劇団維新派が建設した個性派映画館「シネ・ヌーヴォ」
     ・ドーム型巨大シュークリームの「ブルンネン」で試食
     ・遊郭の名残を留める松島新地を遠くから眺める
     ・難波八十島にゆかりの深い茨住吉神社
     ・大阪市電発祥の地(市電花園駅)
     ・天満宮御旅所跡(千代崎天満宮)
     ・京セラドーム前にて六甲おろしの大合唱・解散式
 
 「絶対に損せえへん」の言葉通り、20箇所もの見所を巡り、それぞれの場所で地元の人々の話を聞き、5品のご当地グルメの試食を楽しみ、昔懐かしい真桑瓜や菓子を買い物し、クイズあり、紙芝居あり、法被姿で六甲おろしの大合唱ありの盛りだくさんな2時間半の旅でした。(総歩行数約1万歩とのこと)

 途中一行に出くわした地元のおじさんが、「ガイドが足らん!」の声に応えて合流参加したり、常連さんがガイド補助を行ったりといういい加減さも、下町の居酒屋で飲んでいるようなノリで楽しめました。

 

都市観光はハード(hard)よりハート(heart)で!

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八紘一宇の碑を懐かしむ参加者を祈願 ドームで日本シリーズ阪神vsオリックス戦の実現
 
 ツアーを主宰する谷口さんは、大阪芸術大学短期大学部経営デザイン学科でフィールドワークを主体とした観光研究を行ううちに、実際の観光商品を開発・運営する所に行き着いたのだそうです。

 「ドームやUSJもいいけれど、素顔の大阪も見て欲しい。都市観光はハードよりハートですわ。これまで修学旅行生に大阪のイメージを聞いたところ、“こわいまち”という意見が大半であって、本当にがっかりしました」の言葉通り、素朴で温かい下町の魅力に光をあて、交流を育んでいくために必要であったのが「観光ツアー」というツールであったのでしょう。

 今回の下町ツアーをはじめ、まる1日かけたミステリーツアー、渡船巡り、修学旅行生の案内等々様々なツアーを実施し、10年で3千人を超える人をガイドした実績があり、その活動が大阪市「大阪魅力百貨」で優秀賞を受賞するなどの表彰歴も持っておられます。

 「さすが大学の先生だけあって、本物のツアコン並みに話し上手や」との参加者のきついツッコミを受けつつコテコテ大阪流の交流も楽しませてくれるツアーでありました。

 最後に参加者の方数人にも感想を聞くと、「昔このあたりに住んでいたけれど、戦災やジェーン台風の水難で他の区に引っ越さざるを得なかった。今日は懐かしい故郷を見に来れてよかったわ」という年配の方が何名もおられました。

 よく「観光」とは「国の光を見る」意を語源とすると言われますが、「これ見よがしに作った光を見せる」のではなく、「地域の日常生活の中で当たり前にあるもの」の中にも人によっては輝きが見出されることがあるのだ。そして、そんな輝きを見出すための指南役がこれからのタウンツーリズムに待望されているのだと実感した1日でありました。

 しかもその指南役が地元で生まれ育ち地元に精通した人物であることが肝心です。今回のツアーでも、生活者の通行や日常的利用、プライバシーに支障を来さないよう、さりげない配慮のもとに一行が誘導されていたことに感心したしだいです。(観光地出身という自身の経験からも、地元としては、マップとカメラ片手に遠慮無く生活の場に踏み込んでくる来訪者を忌み嫌うものですからね)。

 そういう意味でも、都市観光をデザインするには多方面への配慮が求められる、まさに「ハードよりハートが大事」な行為といえるはずです。

 最後に、手前味噌ですが、私が編集役を務めます『西大阪線あこがれぷらっとホーム楽会』ホームページにも、阪神なんば線によってつながる沿線地域の魅力を多数とりあげ、地域交流を育むシカケとして活用していただきたいという願いのもとに運営しておりますので、どうぞご覧になって下さい。

 http://hanshin-now.com/nishiosaka/
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