都市観光の新しい形
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

都市観光の新しい形〜「まち」を訪ねる

地蔵盆調査から生まれた地蔵盆ツアー

(有)ランドデザイン 中村伸之

 

 

地蔵盆調査の実施

 私たち、歩いて暮せるまちづくり推進会議は01年、02年の夏に京都市中京区の東部の活動エリア(歴史的中心市街地)で、地蔵盆の開催実態を調査した。会員が手分けして町内会へのヒヤリング・撮影を行ない、126ヶ所(133ヵ町)のデータが集まった。このように大規模な調査はかつてなく、その成果をパネルやビデオにまとめた展覧会を開き、好評を博した。

 

地蔵盆ツアーの企画

 私たちは、03年から修学旅行(高校生)の町歩きや地域訪問を企画運営してきたが、社会人の京都リピーターにもターゲットを広げたいと考え、夏と冬のモニターツアーを実験的に開催することにした。

 そこで、しばらく中断していた地蔵盆に関する活動を、地蔵盆ツアーとして再開することになった(06年夏)。

 地蔵盆は、京都の年中行事の中で最も広範囲で行なわれ、最も身近なコミュニティに密着したお祭である。そのような性格ゆえ、これまで観光の対象には成り得なかったのであるが、「まちづくり」を観光の対象にするというのが私たちのコンセプトであり、今後も地蔵盆に関わってゆく良いきっかけと思われた。

 

地蔵盆の奥深さ

 ツアーに先立って、企画メンバーが各々の京都論・エッセイを書き、ガイドブックとして編集した。その中から、坂本佳也さんが書いた「地蔵盆・点描」を引用する。

 『地蔵盆は子どもの健やかな成長を願う行事ですから、主役は子どもたちです。町内の大人たちが前日までの下準備、当日の飾りつけ、その他一切の世話を引き受けます。少子化や過疎化でまちなかから子どもが減ったので、子ども不在の地蔵盆というのもありますが、町内の親睦も兼ねる大切な行事ですから、ほとんどの町内では続けられています』。

 『朝8時ころから、世話方となる町内の役員は、飾り付けを始めます。飾り付けが終わるころになると、町内の人たちが「お供え」を持ってお参りに来ます』。

 『10時には1回目の「おやつ」が子どもたちに配られます。「おやつ」は午後にも配ります。そのあと、最寄りの寺の住職による読経があります。子どもたちだけでなく、町内の善男善女が一緒におまいりします。「数珠回し」が行われる町内もあります。子どもたちが一堂に会して昼食会という例もあります。お地蔵さんの前で、子どもたちが集まって、金魚すくい、ヨーヨー吊り、輪投げ、スマートボールなどで遊びます。西瓜割りは人気のプログラムです』。

 『福引は地蔵盆のメインイベントです。子どもたちだけでなく、家庭を対象とした福引も行われ、一気に盛り上がります。やがて夜になると、子どもの名前入りの赤い提灯に灯が入れられ、風情のある雰囲気を醸します。かつては町内の道路を通行止めにして、盆踊りが盛大に行われたりしましたが、最近は交通事情もあり、姿を消しました』。

 『みんなであと片付けをするころには、残暑の京都でも冷んやりとした涼風を感じることができるのです』このように生き生きと(時にはしみじみと)地域の記憶を語ることのできる人たちが案内人となるのが、私たちのプログラムの強みである。

 

当日のプログラム

画像5801 画像5901
西瓜割りは人気のプログラム 矢田寺でおまいり
 
画像5902 画像5903
町の人と数珠回し 車の来ないコミュニティ空間が生まれる
 
 地蔵盆ツアーは2泊3日の行程で9名が参加した。

 1日目は宿舎(本能寺会館)に集合し、京都文化博物館で学芸員からレクチャーを受け、普段は入ることのできない収蔵庫で発掘された遺物を手にとって見学した。

 その後、繁華街の中にある矢田寺で和尚さんから、地蔵盆の由来を聞き、数珠回しを体験。鴨川納涼床で夕食をいただき、涼風と風景を楽しんだ。

 2日目は2つのコースに分かれて町歩きをしながら、お町内の地蔵盆を回った。当然ながら、お町内の皆さんにはあらかじめ了解を得て参加させていただき、お供えもした。

 提灯の飾りつけや床机の据付けを手伝い、数珠廻しや歓談を楽しんだ。車を通行止めした通りで西瓜割りや焼肉パテーィが行なわれ、運動場では盆踊りが行なわれた。

 景色や人が変わっても、地蔵盆が醸し出す地域の温もりみたいなものは変わらない。ツアー参加者にもそのことは伝わったのではないか。

 夜は、宿舎で各コースの参加者が撮影したスライドを見ながら、交流会を行なった。

 そこで語られた参加者やスタッフの感想。

     
     ・地蔵盆告知のポスターから、町内の個性や人のネットワークがわかる 、地蔵盆だけでなく、まちなかの様々な姿を発見するツアーだ 、地蔵盆の風景が、家族のようだと感じた 、まちなかで、まだこれほど地蔵盆をやっているとは思わなかった 、まちの人は地蔵盆か、運動会くらいしか集まる機会がないと言っていたが、その場を利用して消防訓練をしており、面白いと思った 、子供が集まり、大人が集まってくる。子はカスガイというが、コミュニティにとっても、子はカスガイだと感じた 、ホストとゲストの関係があいまいになって、ゲストをダシにして、ホストも自分の地域の普段見られないところや、さわらせてもらえない部分に触れることができた…。
 
 

まちづくりから観光へ

 地蔵盆調査を行い、その成果を今回のツアーの形で活かすことができたが、この5年間の変化を見ると、開催日が2日間から1日になっている町内が多く、一方でマンションの建設によって子ども人口は増えている。地蔵盆は新しいコミュニティに対応した形を模索することになるだろう。そのような町の現在形をツアーの対象にしたいし、地蔵盆を元気にする「ささやかなきっかけ」になればと考えている。

 

今後の課題

 今回は実験的なモニターツアーであったが、地域の行事や普段の町を、見て、参加して、十分楽しめることが確信できた。

 ただ、ツアーを持続的な事業とするには、多様な地域団体が四季折々のプログラムを提供することが不可欠である。市内各地域での伝統行事やまちづくりイベントは豊富にあるし、普段の町を地元の人と歩くだけでもいい。

 ネタには事欠かないのだが、全体を統括する戦略と組織づくりが必要だし、行政の協力も得たい。

 また、自らの地域を楽しみ、活動を盛り上げる、コミュニティビジネスとしての「まちづくり観光」というスタイルを確立して、地域の皆さんの理解と協力を得たいと考えている。

(地蔵盆ツアーは、京都市中京区役所の「にぎわいのあるまちづくり支援事業」の助成金を受けました。また、京都市景観・まちづくりセンターの皆さんの、温かいご支援を受けました。)
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ