都市観光の新しい形
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5。岸和田への提言

 

金澤

 最後に、岸和田への提言をパネラーの方々から一言ずつお願いします。

 私も一言申し上げますと、今、昭和レトロとか言って昭和30年代を懐かしがる風潮があります。おそらく、団塊の世代が退職し始めることとだぶっていることが背景にあると思います。日本人が高度経済成長で失った故郷やまちの原風景を、みんな求めているんですね。岸和田にはそうした懐かしい原風景を感じさせるものがあります。それだけのポテンシャルがあると感じた次第です。

中村

 岸和田には限らないことですが、自分のまちには観光コンテンツが十分あると自信を持っていいのではないでしょうか。「何もない」と不安がる必要はない。自分で語り始めることが都市観光の第一歩です。あえて言うとすれば、使い古されたネタだけで満足してはいけないということです。

 行政は、動き始めた「芽」をどう育てるかを考えていただきたい。地域によっては「これだけ頑張っているから、よその人にも見て欲しい。お祭りをしたい」という所も出てくるかもしれません。そんなとき、行政がうまくサポートできるかどうか。まちづくり観光は、そういう図式に変わっていくべきだと思っております。

 コンテンツは行政が押しつけてはいけないし、今の暮らしや文化を大事にするとか、住民が発見するようにすべきです。行政は個別の小さな動きをトータルにプロデュースする力や対外的に発信する力を持つべきでしょう。小さなお祭や町歩きでも、市全体でまとめれば年間通じてバラエティのあるプログラムを組んで発信することができる。長崎市がやったような全体的な仕掛けをする能力が求められると思います。

吉野

 岸和田のタウンマネジメント構想を作ってから5年が経ちました。その当時、かじや町のレトロモールや寺町との連携によるまちづくりということを考えました。

 しかし、現実問題としては空き店舗が多いし、商店街を歩く人も少ない。プロとして絵を描くだけではアカンと反省しています。私自身は個々のお店の経営コンサルタントではないのですが、有償の本物のプロを連れてきて、店を動かしていく所まで伴走しないとダメかなと思っているところです。

 個々のお店一軒一軒が努力しても、うまくいかないことが多いのです。つまり、かじや町だけで動いてもダメで、もっと広域で岸和田の都市観光をとらえ、町歩きできるだけの物語を作っていく必要があると思います。我々専門家が机上で書いたものを押しつけるのではなく、地域の人が立ち上がり自分たちの物語をいくつ出してこれるか、それがポイントになるのではないでしょうか。長崎さるくの成功のポイントを、岸和田でもぜひ生かしていただきたいと思います。

茶谷

 正直言うと私は岸和田のことはよく存じ上げないのですが、だんじりはすごいですよね。あれだけの素晴らしい観光資源があるのだから、もっと活用されるといいと思います。ただ、だんじりの季節だけ岸和田の情報はメディアにどっと出てくるのですが、それ以外の季節、冬なんかにも岸和田の情報が出るよう、もっと生かしていけばいいのにと考えました。

 また、一般的なことを言うと、地元の人を元気にする決め技なんてありません。ですから、小さなことをチョコチョコと継続してやっていくのもひとつのあり方だと思います。ですから商店街の大売り出しや春の桜、地元の美味しいもの、何でもいいからやってみることです。しかし、小さいことだからと手抜きをするとダメなんですね。小さいことでも熱心に楽しくやっていると、関わる人も増えてくる、それがエネルギーなんですよ。

 今日は長崎だけでなく、大阪の大正区、高槻、尼崎、いろんな例で学んでいただきましたが、自分がいいと思ったことをしつこくやっていかれることです。その時、私がお薦めする手法は、地元の人たちの中から動けそうな人をひっぱってくることです。地元にはデザイナーの人もいれば、おしゃべり好きな人と、様々な人が住んでいる。それを生かさない手はありません。私はこれを「民族主義」と呼んでいますが、みなさんもぜひ「岸和田民族主義」でやっていただきたい。

 地元だけでやって実はそんなにいいものは出来ないかもしれない、出来るかもしれない。でもパワーをつけるとは、地元の力を引き出すことなんです。

 愛知万博ではキャラクターのモリゾーとキッコロが大変よく売れたという話ですが、これは商社の扱いで製造は中国でした。こんなやり方では、地元には何のパワーにもなっていない。そんなのはダメです。全部「岸和田製でやる」ぐらいの迫力を出すことも必要だし、また都市観光におけるソフト部分もそれで生かされてくるのではないかと思います。

金澤

 みなさんありがとうございました。

 今回のテーマは大変多岐に渡っています。今日一つ思ったことは「我々の豊かさとは何だろう」ということです。便利さや物の豊富さはありますが、場所や人との絆がどうも薄い。豊かさの中にはそれがもっとあったはずです。今日の都市観光で提示された「地元主体の都市観光」という概念は、失われてしまった場所や人との絆を再度確認し、新しい豊かさを作っていくための出発点になったのではないでしょうか。とても希望的な観測ですが、少なくとも私の中ではとても収穫になったと思っております。では、このまとめでパネルディスカッションを終わらせていただきます。

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