京都の景観はよくなるか!?
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4つの問題提起

 

●1)京都市全体の理念

 これは、「和風をどう捉えるか」という課題です。これについては、榊原さんが、言葉の使い方をレントゲン映像を分析するように細かく分析されています。

 ここで問題にしたいのは、和風という言葉の使い方についてです。景観計画とデザイン基準の中に多く使われているんですが、その共通の枠組みがプロの中でもできていないのです。今日も午前中の議論の中で「和調」とか「和洋折衷」という言葉が出てきました。こういう言葉だけでは、やっぱり共通の認識はできません。つまり、それは具体的な話になっていかないということです。いくら京都の景観政策を変えようと言っても、具体的な話がないと変化できないと思います。具体的にビジュアルで示されたもので語っていく必要があるということです。

 そして、そもそも京都全体の理念を「和風理念」で貫いていいのかという話があります。もちろん、京都市さんは「全部を和風にしろとは言っていない」とおっしゃるでしょう。その通りです。じゃあ、全体ではどんな理念を持てばいいのかという疑問がわいてきます。

 そして、景観形成の規準にどこまで伝統建築の要素を具体的に持ち込めばいいのか。伝統建築の要素はいくつかありますが、そういうものがなんとなく今の規準に入っているように思います。それをもともと伝統建築がないような所にもちこんでもいいのかということです。例えば、そういう言葉をストレートに設計者が受け取ったとするとどうなるか。よく見かける例としては、「中高層のビルに軒庇を付けねばならない」ということになっていくわけですね。こういうことで、本当に京都の景観は良くなるのかという問題です。

 午前中のメンバーによる議論でも、エリアに分けて考えました。特に取り上げるべき歴史的な景観というものがない地域は、どのような理念で規準を設けたらいいのか。井口さんから「歴史がないところは別になくてもいいじゃないか」という発言も出ていましたが、やはり何かよりどころとなるものがいると思います。そして、「和風」が周辺に調和する所とは思えない場所でも、京都らしさ=和風を景観形成規準の中に持ち込んでいるのはおかしいという指摘がされています。また、住民活動との関連で、総合的に景観政策の中で考えていく課題であると私たちは捉えました。

 京都市全体のテーマとして京都らしさ=和風を選ぶのであれば、やはり普通の市民の人たちがそのテーマが自分たちの地域や生活にどういう意味を持つのかという共通の認識が持てるような議論がないと、市民を説得できないと思います。そのためには、我われ専門家や事業者が市民を説得できるよう、議論を深めていかないといけないでしょう。もちろん、それは今日、明日に解決できる話ではないのですが、今日はこの辺についてもディスカッションしていきたいところです。


●2)市民参加、ボトムアップ

 先ほど言いましたように、今回の景観政策はトップダウンの様相が見られます。それを進化させるためには、やはりボトムアップ、つまり市民参画ではないかと思うのです。しかし、それはどのようにしたら進むのかという課題です。

 京都の景観を整えていく必要があると言いましたが、なぜそうしないといけないの?というところで、やはり多くの市民のコンセンサスを得る必要があるでしょう。

 一方、すでに京都市のいくつかの学区では「京都市景観まちづくりセンター」などの啓発事業を通して、市民参加の活動が始まっています。こういったことも、今日は報告していただきます。

 市民参画の単位はどうあるべきかについては、京都の中心部にあります歴史的コミュニティが参考になるのではないかと考えます。どんなコミュニティかと言うと、道路を挟んだ町で作られる「両側町」や元学区の住民で作られている組織です。元学区とは、昔、小学校を作った単位なのですが、この頃は単に「学区」と呼ぶようになっているそうです。新しい学校の範囲は、「校区」として呼び分けます。京都の歴史的な所では、こういうコミュニティが今でもまちづくりの単位として活動しています。

 もちろんみなさん本業がある中での活動ですから、お仕事も忙しいしプライベートも忙しい。そんな中で、日常の生活に密着した景観の重要性をどれだけ認識して頂けるのだろうか。昔からの景観を伝えていけるのだろうか。そういう課題があります。

 そして、先ほどから出ていますが、そうした景観の問題を共通の言葉で語り合えるかという問題があります。それがこのボトムアップの景観づくりの広がりに大きく関わってくると思います。

 住民は「デザイン基準」を進化させる主体になれるのかどうか。これについては、住民活動に対する専門家の支援制度をもっと活用できるように整備しようじゃないかという意見も出ています。例えば、まちづくり協議会を作って地域住民の合意に基づく地域テーマ、例えば「ウチのまちは和風で行こう」というテーマの設定、そして景観ルールの設定が行われていって、それぞれの地域でも独自の進化ができるよう、ルールに見直しがかけられる仕組みが必要ではないかという意見がありました。

 先ほども午前中の議論で大景観、小景観という言葉が出ていましたが、中景、遠景と地域との関係性があるわけですから、地域、地域で勝手気ままに規準を決めるというわけにはいきませんが、結果的には地域全体の景観コントロールのなかでの地域独自の基準づくりをしてもらえないかと思います。


●3)情報共有の新たな仕組み

 今私たちが京都の景観政策について知っていることは限られているのが現状です。現在の問題解決と今後の動向において最も重要なことは、情報の共有であるとみなさんの意見がまとまっています。

 今は、景観政策がスタートしてから作られた建築や町並みを検証していこうという時期になっているという意見や、常に進行している日常の設計の現場で問題の情報を共有していく必要があるなどの意見が出ています。

 やはり、一般市民や施主に向けては、現在の景観政策とデザイン基準にあげられている内容についてもっと分かりやすく説明してもらう必要があるでしょう。特に「京都らしさ」「地域らしさ」「和風」「優良事例」など言葉ではなかなか伝わらないと思われることについては、ビジュアル情報として冊子やガイドブックで情報を共有していけばどうかという話も出ています。

 また、市民や事業者に向けては、地域の事業者が計画する地域についての景観的な特徴や配慮すべき観点を確認するための情報、それが提示される最新技術を使ったデータベースがあればという話もありました。設計者の方も、設計のよりどころとなる地域情報が共有されることで、より地域にふさわしい設計の支援が可能になるんじゃないかと思っています。結果的に、同じ情報を共有することで、地域内で調和のとれた建物が建てられる可能性が少しでも高くなると思っているところです。

 計画段階の情報共有については、特定の地域で住民同士が納得した中で協定のような形で計画の情報公開を義務づけ、協議の場を地域に持ち込むことが考えられます。新景観政策のもとで完成してきた事例について、やはり議論しながら次の計画のレベルアップを図ることで、結果的に景観行政の進化につながっていくのではないかという議論になっています。

 また、景観賞なども各地で設けられていますが、いいものを表彰する制度をもっといっぱい作ることを、政策に取り込んだらどうかという意見もありました。


●4)「デザイン基準」のあり方

 午前中も、デザイン基準はどうあるべきかで議論になりましたが、まだ一つの結論にいたっていません。やはり「デザイン基準」に疑問を投げかける声が多いのです。これについても、地域ごとで、その地域全体の共通理念の共有が必要だろうという話になりました。

 そして、具体的なイメージでの景観政策の記述には、より細やかな状況を反映するために地域調査がもっとなされるべきではないかという意見がありました。私たちがフィールドワークで歩いたように、地区ごとの調査をふまえて景観計画を書き直していこう、地区に応じたデザインレベルの設定はどのようなものが必要か、そしてどのような形態、意匠の制限をかけることが景観計画での描かれた目標への誘導になりうるのか、このあたりも難しいテーマだと思っています。

 今回フィールドワークで検討した地区は、京都のほんの一部にしか過ぎず、抜本的な景観政策の見直し提案には至っていません。こういうことをひとつひとつ検討していくことで本当に景観政策の進化につながるのかという疑問も一方ではあります。もっと何か大きな枠組みでの改変も必要ではないかという部分が含まれているかのようにも思われました。

 このように一般にも開かれた公開の場でもって議論を重ねることによって、景観政策とデザイン基準を進化させる提案をしていくことが求められているのではないかと思いますが、このテーマについてはまだまだディスカッションが必要かと思います。本日は、事業者さん、まちづくりで頑張っておられる市民の方々、そして政策を作った市、専門家が一堂に集まった機会ですので、いくつかの事例について、この4つのテーマでディスカッションできたらと思っております。

 それでは、私からの問題提起をこれで終わり、これからみなさまのご報告を聞いていただきたいと思います。私が述べました4つのテーマをどこか頭の片隅に置きながら聞いていただいて、後半のパネルディスカッションに移っていければと思います。

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