京都の景観はよくなるか!?
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第一の問題提起 「和風」のとらえ方

 

●京都市は和風をどう捉えているか

藤本

 それでは、今日のパネルディスカッションに入らせて頂きたいと思います。

 まず、一番最初に挙げたテーマについて皆さん覚えておられるでしょうか。「京都市全体の理念」についてどう考えるか、また「和風」の捉え方についてどこまで考えていけばいいかという事です。

 まずは松田さん、市の方でお答え頂ければと思うのですが、今の景観計画もしくはデザイン基準の中では、「和風」の枠組みというのはどこまでを考えておられるのでしょうか。

松田

 「和風」ですね。何だか古い言葉が出てきたな、という感じがします。京都市としての見解を私が示せるかどうかわかりませんが、ちょっと思うところも含めて述べてみたいと思います。

 まず、「和風」という言葉が京都市の条例や計画などでいつ現れたのか、以前ちょっと調べてみたんです。そうしましたら昭和47年の市街地景観条例には「和風」という言葉はなかったんです。「歴史的建造物」とか「歴史的な町並み」といった言葉だけで、「和風」という言葉も「和」という言葉もなかったんです。

 その後の平成7年の市街地景観整備条例を見ますと、「和風」という言葉が美観地区の種別基準に出てきました。

 今回、景観計画にも「和風」という言葉が現れています。また、デザイン基準では「和風基調」という言い方で表現されています。これは山ろく型美観地区で使用されています。では歴史的な町並みが多く残る歴史遺産型とか、旧市街地型美観地区ではどうかというと、それは使われていないんです。

 そこの問題だと思うんですよ。私自身も「和」はわかるけれども「和風」は怪しいと思ってまして、そこのところが私も気になっているところなんです。

 つまり「和」は、かつては意識せずともあったんだろうと思うのです。それは木造の伝統建築とか、木造だけではなくて左官だとか屋根瓦だとかいった職人技術が、戦前の旧市街地のような所に当たり前のようにあったから、別に取り立てて言う必要がなかったのではないか。

 ところが経過でも申しましたけれども、高度経済成長期になり、バブルがあって、そういったものとは違う何かが市街地に置かれてきた。それが洋風なのか無国籍なのか、そこのところは私には正直理解できませんが、違う物が出来てきた。

 だから、そういった「和」があるということを意識して、それを何とか調和のあるものにしていきたいという思いから出てきた言葉ではないでしょうか。

 そこで、この「和風」が平成7年の枠組みから出てきたわけです。歴史的な木造建築のみを追求できない中で、では何を求めていこうかということで先輩達がチャレンジしたのが「和風」とか「和風基調」とかといったものでした。ここでの「基調」というのは「和風」よりももう少し距離があるというような意味で使っているといいますか、もう少し崩れているイメージです(会場笑)。

 先輩達や私達が窓口でどんなものが「和風」か、と聞かれたときによく言うのは、深い軒や真壁造りによって作られる水平線の強調(水平基調)であるとか、町家のスケール感を想定して長大にならないように分節してくださいといったことです。それから町家のモジュールといったものもあると思います。窓などでも柱と柱の間を窓にする、そういうところから「ま・ど」と名がついたというような話を聞きましたけれども、そういったモジュールの中での形が一つの回答群を創ると思います。

 そのほか、素材感として土塗壁調や木肌、縦格子、或いはいぶし銀の瓦とのコントラストとか、まあそんなほんわりとしたようなムードに近づけませんか、ということをやっています。どうしてもこういったものは抽象的な感覚になってしまいますので、出来上がった物、ないしは現場にあるものを見ながら、それに合うような形を目指しつつ、結果としては落ち着いた安心感のあるものに、というような事を申し上げています。

 ただ、これだったらいいというマニュアルを作るという所まではなかなか難しいのではないでしょうか。

 「和風」という言葉が山ろく型美観地区にしか使われていないのは、風致地区に接していますので、これから開発する場合に基準となるものがあまりなくても、風致地区に調和する場所を作っていきませんか、というメッセージとして言っております。

 ですから旧市街地型や歴史遺産型では、その地域に行けば当たり前のように、多くあるかどうかは別としても和がありますから、その町並みにあった外観にしていただきたいと言えば済むと思っていますので、あえて「和風」とかいう言い方は、基準ではしていないと私は理解しています。

藤本

 ありがとうございました。理由があって風致地区に接している場所で「和風」を使っているけれどもという話と、ただ具体的には「和風」と言わなければならない時代になってきたという事ではなかったかと思います。


●ビルダーはどう捉えているのか

藤本

 では、具体的にメーカーさんがどのようにこの「和風」というものに取り組んでおられるのかお伺いしたいと思いますけれども、大島さんいかがでしょうか。

大島

 今のお話の中の「和風基調」ですが、実際に市街地計画課で打ち合わせをしますと、やはりより「和」を基調に、より「和」っぽくという指導をどうしても受けます。

 そんな中で、少し話は変わるのですけれども、お客さんと打ち合わせする際に、やはり「京都市は「和」です」という説明は大変しやすい。やはり今京都の中で「和」は必要なんですという話はできるのですが、じゃあ「和」って何なんだというときに、じゃあ瓦なのか、格子なのか、真壁なのかという話で、どこまで押していくべきなのかという事と、コストとのバランスが、我々の場合にはどうしても出てきますので、そこがいつも悩む所なのです。

 例えば今回、旧市街地型とか歴史遺産型、山麓型などが色々出てきました。それぞれがどこまでの「和」なのかということがマニュアル的には決めにくいものなんでしょうけれども、旧市街地ならここまでやっていいとか、歴史遺産型ならここまで、というラインが我々ではわかりにくくて、手探りしながら打ち合わせていかないといけないという部分があります。

 デザインすると言っても、やはり先ほどの話ではないですけれども、既製品、新建材を使っての施工が多いですから、樋にしろ屋根の選択にしろ、どれをどういうふうに選択していくかという結局組み合わせにならざるを得ない事に今なっています。そのなかで、そのような事を常に考えなければいけないという所で、いつも我々は悩んでいます。


●住宅メーカーはどう捉えているか

藤本

 ありがとうございます。やはり今のところ作る側にはその範囲がちょっとわかりにくいという話でしたね。その辺り、もしかしたら市の方できちっと出して頂いたら分かる話かなと思うのですが、積水の小松さんいかがでしょうか。

小松

 まったく同意見でございます。「和」というものを非常に曖昧に捉えているのですが、「和風」と言いますと非常に限られた範囲の話になってしまうので、「和風らしさ」と言い換えてお客さんに話をさせてもらっています。

 具体的に言いますと、先ほどの洛央タイプに数寄屋門がありましたけれども、あの形を洋風の新建材で施工しても和風でなくても「和風らしさ」としては表現できます。その辺は曖昧なので、私達も悩んでいる所なんです。

 ただ、我々の場合は実際には具体的に決めています。「和風」「和風らしさ」と言われたときに、まず「軒の高さ」っていう所を「和風」としてとらえています。出来るだけ高さを抑える、軒並みも揃える。それから「陰」ですね。陰のバランス感というのが洋風とはまた違ったものがあると思います。

 これは感覚的な問題かもしれませんが、陰の出方による軒ラインと陰による陰影という事を、デザイン基準にはないのですが、常に業者の方にお話をさせてもらっています。

 あとはパーツです。たとえば京都らしい格子というのもあると思いますから、そこら辺をもって「和風」という言葉を掴んでるのですが、まだ我々も曖昧です。行政に聞きましても、そこら辺は答えが出そうで出ません。ジレンマがあるのですが、徐々にこの辺は明確になっていくとも思いますので、我々も期待するところです。

 あるいは反対に、こちらから提案したり定義していく必要があるのかなとも思っています。

藤本

 ありがとうございます。メーカーさんの方でもそうやって色々考えて対応されているようですね。そのような中で段々固まってくる気がしましたが、先ほど松田さんがおっしゃた中の「落ち着いた」「安心感」みたいな曖昧な言葉であれば、問題なく共通点があるという事かと思います。


●設計者はどう捉えているか

藤本

 川下さん、具体的に設計される中で、随分「和風」ということは気にされているというふうにお伺いしているのですけれども。

川下

 実は先ほど設計監理協会の取り組みをお話しましたけれども、私の事務所がある三条通りなどを見ましても、町屋が建ち並んでいますが、同時に旧日銀などもありますし、洋風の建物が沢山あったんです。それでも実に調和しているといいますか、そういう点では和ではないけれど、昔からの町屋と調和しているということが現実にあるわけです。我々の論議の中でも、調和が取れていればいいんじゃないかという事になっているわけです。

 では、その「調和がとれる」というのは何かというと、結論を言うと両方が本物でないといけない、まがい物ではダメだという論議になりました。

 我々としてはまず、和風、和風と言うけれども、今の設計者が本物の「和」を設計出来るかというと出来ない人が多いのではないかと思われます。で、その資料を協会として作ろうということになりました。まず規矩術(きくじゅつ)を若い人に覚えてもらわないといけない。そうでないと本当の木造、和風建築は出来ない。ただ、その規矩術も、人間の背が高くなってきていますから昔通りの寸法ではなく、特に鴨居の高さなどを新しい寸法に当てはめたモジュールがつくれないものだろうかと考えています。

 それから黄金比。本物の洋風建築を設計するためには、これも設計者に身につけてもらわないといけない。

 それから和風建築では、白銀比というバランスがあるわけで、これも若い設計者には身につけて欲しい。そういう資料づくりをしようということで取り組んでおります。

 そういう事を通じて本物の和風建築、あるいは本物の洋風建築を設計できる力を設計者がつけないといけないというのが基本です。

 そうすれば、我々の目指す「美しい京都を創る」という点では、市が言うような勾配屋根でないとダメだというような狭い範囲の規制だけでなくてもいいんではないか。まあ理想論ではありますけれども、そう考えているわけです。

 そのことに関して特に難しいと感じますのは、先ほど言いましたように美観形成地区です。このの中では混在しているわけです。2階建ての木造建築の横に5、6階建てのマンションがくっついていたりします。これが本当にデザイン的に統一がとれるものなんだろうかと、街を歩いてて悩むわけです。極端に言えば、低いものもフラット屋根で全部揃えた方が調和はとれると思います。

 市が言うように中高層にも屋根をつけるというのも一つの「揃える」という点では方法かもしれませんが、どちらが美しいかと言ったら、中高層建築に屋根のせて美しいとは思えない。しかも本当に大屋根だったらまだいいですけれども、鉢巻上にパラペット斜めにするだけで本当にいいかのと思います。そういう点では「美し」ければ、勾配屋根はなくてもいいという気持ちが私にもありますし、設計者の間にはそういう意見が多いのです。

 ですからそれは、本当に先ほどから言ってますように、地域地域に合った美しさというものがあると思います。「美しい」というだけでは、揃った美しさもあればバラバラの美しさもあると思いますし、高さが揃うとか壁面が揃うとか、揃うにも色々あると思います。その地域地域によって何で統一感を出すか、何で美しさを醸し出すか、この論議と合わせて考えなければいけないと思っています。

藤本

 ありがとうございました。やはり設計者の方には色んな思いがあるなあというのを今あらためて感じました。でも統一感があったときに美しさを感じる事があるのではないかと思います。

 ちょっと今パネリストを見て下さい。何だか統一感がありますよね。今日は私と石貫さんがちょっと違いますでしょ?これでも端で締めてるということで、すごく統一感が出てると思うのですが(笑)。


●建材メーカーはどう捉えているか

藤本

 次はパナソニックから設計者の石貫さんにお願いします。

石貫

 「和風」というテーマをお聞きしまして、私達も随分悩みました。といいますのも、お客さんから和風の外観にしてくださいと言われた場合の「和風」について、一番近いイメージの写真はどれですかと聞くと、心の中で「え、これが和風ですか?」と思ってしまう外観を皆さんそれぞれにイメージとして持ってらっしゃるというのが正直な印象です。

 ですので、人それぞれに「和風」という概念や基準が全く違うということを、お客さんと接していると痛いほど感じてます。

 それで私なりにずっと考えてましたのが「和風」とは何だろうということです。ちょっと思いついたのがお茶の和敬清寂(わけいせいじゃく)という言葉があり、聖徳太子の十七条憲法にも「和」という言葉が出てくることです。だから、やはり調和、家や建物として街や旧来の建物や風景と調和したものを「和風」と解釈したらいいのかなというふうに思った次第です。

 私どもは建材メーカーですから、色んな新建材を作っています。今回、素材ですとか色、形に関しての基準が決められています。しかし私どもも部材メーカーとしていろんな建物を見てきまして思うのは、同じ色を使っていたり同じ素材を使っている建物でも、コーディネートの力量の差で、見栄えのいい美しい建物と、美しくない建物があるということです。

 灯りの配置なども建物の美しさを左右いたします。実はパーツとして素晴らしいというよりも、それを使う使い方の方が重要なのではないかと思っています。そういう意味では、建物のディテールとか形ですとか色とかを厳しく基準として決めるよりは、本当は、全体としての調和とか、美しさ、ハーモニーのようなものを、市民や行政の方が評価出来る力量が出来れば一番良いのかなと思っております。

藤本

 ありがとうございました。ちょっと大胆なご提案だと思いますけれども、「和」というのは「和風」でもない、「調和」でいいと。「和」というのは「調和」で考えたらどうかという意見だと思います。

 実際に先ほど専門家ももっとちゃんと日本建築なり西洋建築を勉強してくれというご意見もありました。それも必要ですが、そうではなく「平成の和風」もあるかもしれませんね。「和」「日本風」=「調和」という捉え方もあるのではないかというご意見かと思います。

 午前中のパネルディスカッションでもご意見が出ていましたが、やはり「和風」というのは町並みの議論の一つのきっかけになるんじゃないかと思うんです。そういうふうに今のところは捉えておきたいと思います。これをきっかけに昔議論を交わしていた人達がもう一度議論してみるとか、もう一度日本建築を勉強してみるとか、もう一度「調和」について考えるとか、そういうありがたいお題を市から頂いたと、捉えようと思います。どうもありがとうございました、

 この問題提起1は先送りして、また考えていきたいと思っています。

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