貧乏人の熊さん、 八っつぁんは都心居住。大金持の宮様とお殿様も都心居住であった。
皆が中産階級になってしまって、 自分もお殿様みたいな家に住みたいと考える−何たる傲慢。
もともと都市で働く人達は都市の中に住んでいた。
都市の外は郊外ではなく、 そこは豊かな緑の田畑であり、 林や村に通じていた。
大多数の労働者は肌寄せ合って密集して住んでいたし、 同じ町の中で上級武士等一部の権力者だけが、 大きな庭構えのある御屋敷に住むことができた。
町の中にあって全ての人達が緑の木立ちに囲まれて暮らすことは、 憧れではあっても実現不可能である。
その当時、 大店の御隠居さんは町外れに隠居小屋を建てて、 御屋敷住いの真似事をやりはじめた。
そうなると都心には住めない。
自動車や郊外電車が発達したおかげで、 今では多くの労働者が御隠居さんのように町を出て、 庭付きの我家を構えるようになった。
そこには身の回りに緑の田畑や木立ち、 川の流れや野原が広がっているはずだった。
今、 そんな郊外住宅地は全くと言っていいほど存在していない。
それに代わって薄汚れた、 みじめな大衆住宅街が延々と続いている。
そんな町の中に住み、 カラーアルミニウムの柵と育ちの悪い疎らな庭木に囲まれていながら、 それでもやっぱり自分は豊かな田園の郊外住宅に住んでいると思い込むことのできる我々は、 幸せな国民である。
我々は、 ヴァーチャルリアリティの住宅の怪しい魅力に酔わされた中毒患者、 急速な都市化の中で産み出された奇形人間である。
目覚めよ!そして自らの不幸を知れ!