手のひらに載る都 by 佐々木幹郎
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

山岳都市ムスタン王国

山岳都市の成立と宗教

 ヒマラヤの山岳都市といったものは都市とはみなされないのではないかと、 たぶん誰もが感覚的には考えるのですが、 実際にその場所にいきますとこれはやっぱり村ではなくて都市としか考えられない、 そういうことがいくつも見当たります。

 日本では富士山が3300m代です。

3000から4000mというところに日本では都市は成立していません。

 しかし山の上に都市を作るという発想は、 日本の宗教の原型である山岳宗教・信仰にも見られます。

その山岳信仰と仏教が合体した形で山間部に寺院建築が作り出されたとき、 たとえば高野山に空海が真言宗の寺院群を作り出したとき、 山の上に曼陀羅のような都市空間を作るという確実な発想がありました。

 山の上に都市を作るという発想そのものは、 山岳信仰から考えると当然のことなのです。

その発想の原型は、 ヒマラヤにあります。

 仏教もインドが発祥の地ですが、 いろいろなルートから日本に入って来ました。

大きく言えば、 インドから北部へ上がって、 ネパール、 チベット、 そして中国、 朝鮮半島、 日本へと入ってきたルートと、 インドから一足飛びに飛んで中国へ入り、 中国から日本、 あるいは朝鮮というルートで入った、 という二つがあります。

 いずれにしても仏教の中でも、 「雑密(ぞうみつ)」と言われる密教文化が一番初期の形で残っているのが現在のところチベットの仏教空間です。

しかしチベット仏教の本拠地であるチベットに仏教が入る以前に、 インドからまずヒマラヤの山岳部に仏教が根を下ろします。

そこに都市が生まれ出しました。

ムスタン王国の概要

 今日ご紹介するムスタン王国は、 そういう都市構造の中でも一番早い時期の、 宗教を中心とした町でした。

 ネパールは長方形の国で、 四国を二つ合わせたくらいの大きさです。

その大きさでだいたい3000万人くらいの人口ですが、 標高2500m以下はヒンドゥー教の文化圏です。

首都カトマンズを中心とするネパールの国教はヒンドゥー教になっています。

しかし、 標高2500m以上の山岳部になりますと、 チベット仏教圏に入ります。

 なぜ2500mの上と下とで宗教が変わるかといいますと、 これは宗教儀礼と絡んでいます。

ヒンドゥー教徒たちは水をたくさん儀式に使います。

毎朝沐浴をする、 体を洗うということが儀式となっています。

ところが2500m以上になりますと、 沐浴するための水がありません。

氷河から流れてくる解け出した水を使って生活をするのですが、 そういうところで沐浴をすると肺炎になってしまいます。

儀礼行動そのものが成立しないのです。

 そういうわけでヒンドゥー教は2500m以上にはどうしても拡がりませんでした。

 今日ご紹介するムスタン王国の位置ですが、 サツマイモ状に長方形になっているネパールの真ん中、 中央ネパールのところでチベット高原のほうに突き出しているおへそのような地域です。

その出っぱったところがムスタン王国です。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見は前田裕資
都市環境デザイン会議関西ブロック


フォーラム・ホームページへ
JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ