パネルディスカッション
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生活の場としての都心

岡 絵理子

 大阪大学の学生の岡と申します。

みなさま立派な方ばかりなので肩身の狭い思いをしながら現在ここにおります。

よろしくお願いします。

都心に住むということ

 私がこの10年ぐらい考えていますことをちょっと述べたいと思います。

 まず都心に住んでいる人とは一体誰のことなのだろうかという疑問があります。

先ほど日常者というとても良い言葉を使われたので、 ああそういう言葉もあったのだというように思ったのです。

大阪市の人はやはり住民票のある方を市民と言いたいだろうと思います。

この中にも大阪市民ではないんだけれども、 大阪市長選挙に一票を投じたいという気持ちでおられる方はたくさんおられると思います。

住民票がなくても郊外に住んでいても都心で生活していると感じている方はたくさんいるのですが、 その都心の生活者がどうして居住者にならないのかというところを考えてみました。

 その理由はおそらく家業と強いつながりがあると思います。

と言いますのは私は大阪の堂島とか新地とか中之島あたりを校区に持っております小学校に通っておりました。

その時の友達のお父さんの仕事を思い浮かべますと、 氷屋さんであったり酒屋さんであったり漆器屋さんであったり駄菓子屋さんであったり、 何々屋さんの娘、 息子がたくさん来ておりました。

中には新地の雀荘の娘とかそういう人もたくさん来ていました。

 そういう人たちの場合は家に帰るとお父さんもお母さんも家業をされていて、 子供が桜橋の交差点でゴム飛びをしていようが、 大阪駅前第一ビルの空いてるフロアで走り回っていようが、 そんなことは気にもしない。

一生懸命仕事をしていたお父さんお母さんに育てられた子供たちが学校に来ていました。

 そうやって「子供のことなんか」という気持ちの人たちが、 都心に住んでいたわけですが、 仕事の形がどんどん地域や家から切り離されるようになってきたのが都心居住を減らした理由であろうと考えています。

 実の所申しますと、 私がいたころはまだそれほどドーナツ化現象が激しくない頃でした。

小さな小学校にも100人以上の児童が通っていました。

その時に、 多くの子供たちが家にではなく店に帰っていたのです。

みんな住民票が店にあって、 夜になったらお父さんと一緒に家に帰る、 という生活が実はあったのです。

 そういうものを一切認めないという政策にある時期変わりまして、 いっぺんに大阪市内の小学校の子供が減ったということがありました。

そういうこともあったのです。

 子供のために生活環境を整える、 子育ての世代が市内に住んでいない、 都心居住していないということも、 これが結局結びつくんだと思います。

子供の生活に引きずられ過ぎている私たちは、 やっぱり反省をしなきゃいけないんじゃないかというように考えます。

 更によくよく考えてみると、 一部の人々の仕事はその形が随分変わってきて、 フレックスタイムだとか、 個人事務所、 小さな事務所なんかをされている方は仕事と個人の私生活が切り離しづらくなっていると思います。

そういう意味で地域なんかとも切り離しづらくなっているところがあると思います。

 もう一つ私が強く思うのは、 佐々木幹郎さんのお話でムスタン王国は女性が作っているというお話があったのですが、 女性が大きいと考えています。

 今回このレジュメ集をざっと読みますと、 男の方は都心居住を外から御覧になって書いておられる部分が多かったのですが、 女性が書いているのは「私はどこどこに住んでいる」から始まっているのです。

そういうところを考えても、 どうも女の方は生活者として住んでいるところに引きずられがちで、 男の人は結構他人事のように見ているところがあるようです。

 この10年ぐらいの間で仕事をする女性も増え、 その女性をサポートするシステムも随分整って参りました。

その中でこんな話もあります。

 ご主人が学園都市の方に家を買うとおっしゃったので、 「ついていくわ」と家族でそちらに移られた方からの話でした。

半年ほど経ったときに電話がかかってきまして、 「ハメられた」というのです。

「どうしたんっ」といったら、 「今までは遊びにも行けたし、 パートにもちょっとは出られたのに、 何もできへん」と。

できることといったら宅急便の伝票整理とか、 スーパーのレジをするぐらいしか仕事がない。

今までしていたようなちょっとかっこいい仕事、 事務で電話番をする仕事すらあんな所にはない。

ハメられたと嘆いていたんです。

 人知れず働くような仕事では飽きたらない女性も随分増えてきました。

「仕事をするならやっぱり北浜よ」といった言葉も聞きました。

そういうようなことを考えると女性の吸引力は結構すごいかもしれないと思います。

自分のライフスタイルを整えるために家族全部を都心に引き寄せるぐらいのことはやってしまうのではないかと、 そういうようにも考えます。

都心居住を迎え入れる都心はどうあるべきか

 さて、 都心居住を迎え入れる都心はどうあれば良いのだろうかということです。

そこでやはり考えなければいけないのは、 働きにだけ来る人の街ではないということです。

生活者にとって居心地の良い空間を作りたいということです。

 例えば居心地の良い仕事場といっても生活スペースのある仕事場はどうだろう。

簡単に言ってしまえば併用住宅という形になってしまうかもしれないのですが、 畳の部屋がちょっと付いている仕事場とか、 リラックスできるような屋外空間をもっと作って欲しいとか、 そういうことも考えます。

 さきほど言いましたが、 自分の仕事場に子供の学校を引きつけることも、 現在のところはとてもとても無理な話なんです。

そういうようなことができるようになれば、 女の人はずっと働きやすくなるし、 都心に住む人も増えてくるのではないかと考えます。

 それともう一ついろいろな施設を大きな建物の中に取り込まないで欲しいのです。

大きな建物は、 お金をかけて作った施設を街のみんなに使えるようにして欲しい。

外に向けて出入り自由な空間にして欲しいとも考えます。

 基本的にはやはり都心の空間を考えるときにも、 住宅地のノウハウと言いますか、 生活する人たちが気持ちが良いような遊歩道だとか公園だとか小さな図書館だとか、 ごく普通の住環境整備と言われるものを、 都心の人が住んでないところでもやってみることによって、 段々に住めるような場所に変わっていくのではと考えます。

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このページへのご意見は前田裕資
都市環境デザイン会議関西ブロック


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