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混り合い住み合う・都心環境

キメ細やかな環境デザインが求められる

大阪芸術大学

田端 修

◇多層複合的でない現代都市

 都市がさまざまのプロフィールからなる人びとの集まりであり、 それゆえに多種多様のエレメントが生成するのは当たり前、 そのような多層複合的機能の集約した一帯が都市である。 多くの人はそのように説明するけれど、 現実の都市はその説明に合致してはいない。 少なくとも都心では商業業務に偏った発展・変化をとげてきており、 居住機能はやせ細る一方である。

 都心と郊外を足し算して多層複合型構造が満たされるようになっている、 というのがこれもまた一般的な解答であろう。 しかしふたつの場所が高速鉄道で1時間もかかるほどの距離をもつことになると、 そうもいえないのではないか。 それらは多層複合化しているというよりは、 独立した別々の空間が隣り合って存在しているだけ、 とみた方がよい。

 問題は、 これら現象の結果生じていると思われる多層複合的機能の働き・意味が消失しかかっており、 そのままに放置しておいてよいのかということである。

◇何を失いつつあるか

 都市の現代的変化のなかで失われつつあるものについて私なりに言えば、 それはモノづくり機能の放棄ということである。 モノづくりの原点は、 個人規模の腕の冴えやセンス・知恵の働きなどが作り出す試作品・絶妙の部品や芸術作品・研究成果などにある。 そうした創造力の産出物のなかから時代をリードする新製品や新産業が広がり、 文化的活力が芽生える。 現代的な多層複合的構造はこのような場面として捉えうるであろう。 このような創造的モノづくりの鉱脈を発掘し、 都市構造のなかに位置づけることが必要であると思うのだが、 現在の都心機能は、 モノの生産・製造を広域圏さらには海外諸地域に依存し、 その後の流通・消費情報のコントロール業務に偏り、 都市地域の直接的なセンターとしての役割を喪失しつつある。 こういう意味合いで、 都市圏がひとつの多層複合型機能をまっとうする、 という構造が崩れてきているのである。

 わたしは、 このモノづくり機能の軽視が都市における創造力の衰退につながっている、 と言いたい。

◇モノづくり都市

 モノづくり機能を育てることが、 多様な属性をもつ人びとを受け入れ、 都市活力を創造的に維持・継承することである。 少なくとも、 現在の都市構造のうえに、 このような創造的モノづくり都市を位置づけることが必要であると考える。 モノづくり都市の原点は、 ひとりひとりが自分なりの方法・知恵を出し合う創造的・研究的構造づくりにある。 その仕事・制作・研究の場が入り組んだ都市空間は、 一見きわめて雑多で統制的でなく、 これにつながる居住の場もまた基準どおりには説明しがたいだろう。 お互いの作業が関連し合い、 近接し合い、 また住む場所もその近所がよいといったことも多く、 複雑きわまりないネットワークを構成するといったことになってこよう。

 こういった相互の関係性が重なり合うという流れのなかで「混じり合い、 住み合う」環境が形成されてくるのがモノづくり都市のイメージである。 こうしてできあがる総体的環境を「都心居住」と呼ぶことに躊躇はいらないであろう。

◇キメ細やかな環境デザイン

 仕事と居住の分離は都市環境のキメを粗くする方向に作用する。 ゾーニングシステムの浸透やこれにつながる所のあるオフィス機構の大規模化と地域的集積、 あるいは同種大量の住宅が集約的な環境をつくる住宅団地や郊外住宅地などは、 結果としてまことにキメの粗い、 単調な環境を形成する方向性をもつ。 多くの場面で指摘されている通りである。

 この現行の環境的傾向は、 空間や施設の効率的経営・運用によっていっそう加速される。 そして、 働き・滞在する人びとにとっての建築環境の質を低下させるほか、 とりわけ都市環境としてこれに接する人びとに、 ヒューマンスケールを超えた肌ざわりの悪さを印象づける。

 これと対照的な環境の質、 安らぎ・喜び・賑わいなどの〈アメニティ感覚〉〈アーバニティ感覚〉につながる環境の多様さや微妙な変調は、 より小規模の多種の要素が混成するなかに生まれるキメ細やかさの産物であるにちがいない。 前述の「混じり合い、 住み合う」という空間的枠組みのなかで、 ここにいうキメ細やかな環境デザインが可能になる、 という筋道が了解できるであろう。 都心における環境デザインのキメ細やかさを獲得する方法を裏返していえば、 それは「都心居住」が勢力を得ることと等しいということである。

◇提言として

 わたしはここに、 マクロなレベルでの「モノづくり都市」などを目指す都市施策と、 ミクロなレベルでの高質の「環境デザイン」の具体化、 という両方向からのアクセスを重ねていくことを、 キメ細やかでアメニティとアーバニティに富んだ都市づくりのために提案したいと思う。

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