一方、 住宅戸数については昭和43年には84万戸だったのが毎年コンスタントに増え続け、 平成5年には122.5万戸となっている。 住宅の規模も設備水準もその間着実に向上してきている。 それでは、 数字の上でなぜ人口が減っているかというと、 世帯の少人数化と空き家が多くなっていることによるところが大きい。 一世帯当たりの人数は、 昭和40年3.60人、 昭和60年2.71人、 平成7年2.38人と減少の一途だ。 空き家は16.3万戸で13%を越える空き家率となっている。
・市内の世帯数は108万でこの数字も統計ごとに増えているが、 そのうち一人世帯が38万と一番多く、 ついで二人世帯が27万で、 このふたつで60%を越える。 しかも5年前の統計と比べて、 一人世帯は17.1%、 二人世帯は13.6%の増加となっている。 東京もそうだが、 大都市において世帯の少人数化の進行は著しい。
一方、 人口の増加を転出入状況でみると、 25歳から44歳までの世帯形成期や子育て期に相当する年齢層の大幅な転出超過が続いている。 もちろんこれに引きずられて15歳未満の人口も減少している。
すなわち、 トレンドやニーズに対応するなら、 ワンルームとは限らないが、 単身者やせいぜい二人世帯を対象とするべきだし、 人口減の要因となっている年齢構成や世帯構成を考えると、 新婚世帯を引きつけておいたり、 子供のいる世帯に定住してもらうことになる。 大阪市の住宅政策はもちろん後者に重点を置いている。
これらが都心居住に貢献できているかどうか、 これからの動向を見てみないとよくわからないが、 あまり我が町のことを論ずるより外国のことを言っている方が気楽だ。
・その点で最初に取り上げなければならないのが、 1970年代後半に行われたニューヨーク市のビッグアップルキャンペーンとI Love N.Y.運動だ。 企業や市民の市外移転に対して、 中高所得層向けのマンション建設の促進と、 観光開発に焦点を当て、 都市の文化的魅力を掘り起こし、 活気づけた。 ブロードウェイも再生し、 ビジターも増え、 人口も回復した。
最近の事例はパリのグランプロジェとその後の拠点開発である。 ラ・ビレット地区やシトロエン工場跡地地区では、 世界一流の施設の整備だけでなく、 パリ市民に対して都市文化を満喫できる環境の創造=アーバンリゾートの観点がある。 都市観光・文化の振興によるまちの活性化と、 都心居住には極めて大きなつながりがあり、 この点はパリに限らず都市が生き残る戦略となっている。
・アフター5の時間の大部分を手近な居酒屋で過ごす者として、 いささかおもはゆいが朝比奈隆さんの指揮する大フィルをシンフォニーホールで聴くのは大変な喜びである。 あのホールは演奏者と身近で一体感がある。 朝比奈さんはしゃきっと立って指揮をされ、 シカゴでも評判になられたと聞くと、 我らがマエストロがいつまでも活躍してほしいと祈らずにはいられない。
先日大阪市立美術館の開館60周年の前夜祭に出る機会があった。 夕方から美術品を鑑賞でき、 ライトアップにも立ち会えた。 美術館から見る夜の通天閣も格別であるが、 美術館は通常は5時までしか開館していない。 シティーライフの楽しさは夕方からなのだから、 もう少し昼間働いている人々のための配慮も必要なのではないか。
儲かると思うとどんどんそういう店の立地が進むので、 人は住みにくくなるし、 観光地になってしまうと表向きの表情の町になる。 大阪は盛り場など人が集う場のあやしさが特化したまちで、 その反対にこぎれいでおとなしいケーキ屋さんや花屋とファミリーレストランがどんどん増える住宅地にすみたくなる。 大阪で騒ぐだけ騒いで、 地元では静かにすごす。 このふたつがうまく混ざり合わないと、 都市に住まう魅力がない。 若い女性はともかく、 中年のおじさんには居住地の選択において、 生活をエンジョイするという価値観に乏しい。
たぶんに、 自然発生的なところもあるので、 都心居住のあやしさと住む健康さというバランスは極めて危うい。 行政のもっとも弱い部分である。 しかし、 住宅の量を論ずるときではないから、 たとえば今後開発されるベイエリアなどでは、 間取りやインテリアは住む人に任せる、 何でもかんでも2LDKとか3DKとは決めない、 住宅を供給するという考えから、 楽しく住める地域を開発するという発想に変える。 太陽+緑+高層住宅だけでなく、 オープンスペースのあり方、 住む人とビジターのより良い関係のまち、 何よりも男が元気の出るまちを目指してほしい。