ということで、〈仮想世界〉と〈Virtual World〉について
大阪大学 鳴海邦碩
■仮想世界を英語で表現すれば、 Virtual World になるのだろうか。
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■日本語←→英語の比較をするつもりはないが、 〈仮想〉を古い和英 辞書で引くと〈imagination,supposition〉が出てくる。 つまり、 想像とか、 仮定といった意味である。
■逆に〈Virtual〉を和英辞典で引くと〈事実上の、 実質上の〉とか〈光学的虚像の〉というのが出てくる。 昔、 理科で習ったように、 〈光が像を結び〉、 〈事実上〉見えることを意味する。
■つまり、 〈Virtual World〉という英語は、 光学的な虚像の世界を意味し、 日本語の〈仮想世界〉は〈想像世界〉を意味している。
■これらから考えれば、 まず、 次のことが言えよう。
〈Virtual World〉−光学的な虚像の世界、 光によって存在する視覚の世界、 映画、 TV、 CG
〈仮想世界〉 「「「概念のなかの世界、 想像の世界、 夢、 芸術表現
〈Virtual World〉
◆映画の世界、 絵画の世界、 視覚的に表現されるものは、 いずれも虚像世界の性格をもつ。
◆しかし、 現実を映した写真は、 そこにいって確かめることができる。 実際にそこに行けば失望するかもしれないが、 現実のカタログにはなりうる。 −→かってのディスカバージャパンの写真。
◆一方で、 現実の環境の中に存在しようとするのではなく、 写真のなかだけに存在しようとする建築もでてきつつある。
◆視覚障害者の方は別の感覚が発達するようだが、 一般人は視覚を楽しむ。
◆人間の視覚はなかなか贅沢で、 感覚のなかでは、 どんな人でも楽しむことが出来やすい感覚である。 そこで視覚が娯楽になる。
◆娯楽のなるということは、 お金になるということ。 つまり、 エンタテーメントになりやすいということである。 芝居、 映画、 TV、 みなその性質をもっている。
◆こうして〈Virtual World〉は、 娯楽世界を席巻していく。
◆〈Virtual World〉の類型
恐ろしい世界の表現−→地獄絵
楽しいこの世とは思えない世界の表現−→極楽絵
現実を忘れさせるわくわくする世界の表現−→娯楽絵
◆〈光学的な虚像の世界〉は、 その意味合いからすれば禁欲的だが、 〈娯楽絵〉になる 素地があり、 それがお金を稼ぎ出すから、 ますます娯楽的に精緻になっていくベクトルをもつ。
◆それを都市環境デザインにあてはめ、 これまでの現象を振返れば、 都市図、 パノラマ、 テーマパークという系譜が見えてくる。 そして、 映像化したテーマパークはいまのところその先端にいるといえるのではないだろうか。
◆それが、 個人化、 個室化すれば究極といえると思うが、 個人化、 個室化する〈娯楽絵〉は、 それほど大きな展開はしないように思う。 というのは、 〈娯楽〉は一緒の楽しまなければボルテージが上がらないという性質をもっているから。
◆人類が宇宙船に乗って、 宇宙を漂わなければならなくなった時、 〈Virtual World〉は最大の娯楽であり、 生きがいになっている可能性がある。
〈仮想世界〉
◆これは昔からある夢の世界。 誰でもがもちうる。
◆そしてそれは、 芸術的な表現の世界でもある。
◆基本的にそれは、 現実にある世界のカタログではない。 人間が生み出した、 本当の想像の世界。
◆しかし、 それは人びとを惹きつける。
◆そうした役割から、 芸術表現が生まれた。
◆これが、 〈Virtual World〉の装置を手にした時、 どのように変化し、 新しい世界を開くだろうか。
◆人間が〈知覚したもののみが存在する〉と誰かがいったが、 以下のような人間の感 覚反応の可能性が高まっている。
環境→刺激→知覚→認知
単なるパルス→刺激→知覚→非存在的認知
◆この時、 人間の芸術表現はどのようになっていくのだろうか。
◆人間がそこまで感覚を駆使する能力を持ちえているのだろうか。
〈Virtual World〉の将来は、 比較的組みしやすいが、
〈仮想世界〉の将来は、 なかなか窺い知れないところがある。