以上のような棚田や城下町では、 大地の文脈や襞あるいはみずみちを克明に読み取り、 自然の持つ驚異と恵の許容する範囲内で、 大地に従いつつも大地に対して人間の英知と力を尽くして営々と挑戦することによって豊かな風土を育んできた。
一方、 近代化が進むにつれて、 鍬や鋤がブルトーザーに置き換わり、 人間が大地に挑戦する強大な力を得たことによって、 人間の行動を著しく制約していた大地の呪縛から解き放たれ、 利便性の向上や経済効率の向上がもたらされるとともに清潔で機械的な美しさを得た。 そこでの大地は、 自然の持つ摂理との関係よりは、 土地利用の経済性、 道路や設備によって支配される傾向にある。
しかしながら、 そこでは、 地形の制約によって保たれていたそれぞれの地域の個性ある風景が失われ画一的で無機質な風景が展開するとともに人間をも威圧するような空間が出現するなど、 失われたものも決して少なくない。 また、 自然の摂理に反することによって生態的なバランスを壊しかねない事態も招いている。
21世紀に入ろうとしている現在、 物の時代から心の時代への転換、 自然への離反と征服から持続的な調和関係への転換など成熟社会へと大きな転機が訪れつつある。
こうした変化の流れは極めて大きく、 これらの変化に対応した環境デザインに対する新たな発想や作法が求められている中で、 環境の最も基本的な要素である大地への取り組みは極めて重要であると考えられる。
この大地は、 地形や地質、 地盤などの物理的な側面と有機質を含む土壌という生物・化学的な側面を持っている。 また、 水は、 これらの地形や土壌などと切り離すことができない要素である。
この物理的な側面は、 地殻の隆起や陥没、 地表面での降雨や流出、 風などの諸力によって、 長い地質時代を通じて作り上げられたものである。 この側面は、 色々な場面で人間の行動を制約する要素として働き、 大きくは土地利用を規定するとともに空間や施設のディテールにも強く影響する。 また、 空間形態を制約する要素として働き、 景観の基本構造を規定する主要因ともなる。
大地の生物・化学的側面を代表する土壌は、 植物や微生物などの生物社会と無機的な環境を結ぶ重要な要素であり、 陸上の生態系の物質循環やエネルギー循環の要ともなる要素である。 また、 気候の因子とともに植生を規定する要素として働き、 地域景観の根幹をなす植生景観を規定する主要因ともなる。
本フォーラムでは、 このような人々への尊敬の意味を込めるとともに実態や成果に光を当てるために「大地の達人たちに聞く」と称し、 以下のような論議を深めたい。
趣旨説明
大地と対話する環境デザインの可能性を探る
フォーラム委員長・大阪府立大学農学部
増田 昇1. 大地への服従と挑戦(問題意識)
このような環境の下で、 水田稲作農業が営まれてきたが、 棚田が日本の田んぼの原形ともいわれている。 この棚田は、 山や谷の斜面に階段のように積み重ねられている水田で、 森の奥から湧き出る地下水や谷の水を利用している。 このような棚田の織りなす多彩な風景は、 それぞれの地域の人たちに親しまれ、 愛されてきた日本人の「原風景」ともなっている。 また、 多くの近代都市の礎ともなった近世の城下町は、 河岸段丘上や河口部デルタの微高地に築かれ、 地形を生かした防衛上の町割りや社会階層別の町割りとともに景観構成上の象徴性を発揮しており、 今なお昔日の面影をもった近代都市も数多くある。
2. 大地の持つ意味
3. 大地の達人たちへの期待
[アーバンデザインセッションへの期待]
都市開発において、 街のランドフォーメーションや土地利用システムに主に係わる本セッションでは、 多様な人々が多様な活動を繰り広げる都市にとっての大地の役割と意義を考えたい。 また、 街の全体構成を検討する過程で、 大地から何を読み取り、 読み取った文脈を計画や設計へ反映させていくための英知や技法に期待したい。 さらに、 その過程の中で発生する幾多の障害や解決への糸口なども求めたい。
[建築デザインセッションへの期待]
都市景観において中心的な要素となり、 我々の生活を守る基本的な覆いとなる建築を扱う第2セッションでは、 覆いとしての構造物と大地の接点の作り方から話を聞きたい。 次いで、 我々の生活や活動の舞台として建築という構造物と共存する大地の作り方や大地とのつきあい方に対する英知や技法に期待したい。 最後に、 これらの話を通じて、 大地から何を学ぶのかといったことを考えたい。
[起伏と土地の商品価値]
問題意識の所でも述べたように、 今日の大地は、 自然の持つ摂理との関係よりは、 土地利用の経済性や道路や設備といった技術面によって支配される傾向にあるが、 そのことによって失われるものも決して少なくない。 本セッションでは、 主に住宅供給において商品価値の視点から大地を生かすランドプランニングを評価してみたい。 そして、 その評価を通じて、 マーケット面や販売面、 人々の価値観に対する課題を明らかにし、 今後の住宅供給を巡る大地とのつきあい方を探りたい。
[ランドスケープデザインセッションへの期待]
土木とともに大地そのものがデザインの対象となる本セッションでは、 まず、 大地の造景に係わる英知と技術に期待したい。 また、 そこに生息や成育する動物や植物に係わる生物技術についても話を聞きたい。 さらに、 高齢化社会が始まる中で、 身体能力と人間の行動の制約条件となる地形との係わりあいからユニバーサルデザインの方向性も期待したい。 最後に、 ランドスケープ(風景)づくりに以上のことをどのように統合していくのかを探りたい。
[土木デザインセッションへの期待]
急峻な山岳地形と大量の降雨を持つわが国では、 自然の持つ恵よりもむしろ自然の驚異との長い戦いの歴史がある。 本セッションの土木デザインは、 自然の驚異に対して、 大地のデザインを通じてこの長い戦いを戦って来たといえるかもしれない。 自然の持つ強大な力に対して、 大地のデザイン通じていかに戦って来たかをまず聞きたい。 次いで、 この長い戦いの歴史を通じて、 大地から何を学び、 何を今後に生かしていかなければならないかを探りたい。
4. 大地と対話する環境デザインの可能性
このページへのご意見は前田裕資へ
(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai