第7回都市環境デザイン会議関西
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大地の達人に聞く1

アーバンデザインと起伏

ゲストスピーカー 成瀬惠宏〈株式会社都市設計工房〉
コメンテーター  中村伸之〈ランドデザイン〉

 
「なに、 あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。 あの通りの眉や鼻が木の中に埋まっているのを、 鑿と槌の力で掘り出すまでだ。 まるで土の中から石を掘り出すようなものだから決して間違うはずはない」
 ……自分は積んである薪を片っ端から彫ってみたが、 どれもこれも仁王を蔵しているのはなかった。 遂に明治の木には到底仁王は埋まっていないものだと悟った。 それで運慶が今日まで生きている理由もほぼ解った。 夏目漱石『夢十夜』

 
 

中村

改行マークまず自己紹介もかねて、 日本のニュータウン界に草創期から立ち会ってこられた成瀬さんが、 造成技術(コンターワーク)をどのように身につけていったかを、 お話しいただけるでしょうか。


1. 等高線図法による造成表現

成瀬

改行マーク私が、 当時の日本住宅公団(現在の住宅・都市整備公団)に入った昭和43(1968)年頃、 先輩たちは多摩ニュータウンの縮尺1/2500の造成計画図の“コンターワーク”をしていました。 大学で全く教えられなかったことなので、 ビックリしました。

改行マークこの頃は、 日本の「都市計画のコンサルタント」が殆ど育っていなかった時代だったので、 自分達で初めから終わりまで全て描いていたんです。

中村

改行マーク当時は、 どんな造成計画図の描き方をしていたんですか?

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図1 現況地形および造成地形の表現方法
成瀬

改行マーク公団の中にも大きく二つの流れがあって、 土木屋さんたちは昔からの“ヒゲ図法”(ケバ式図法の変種)で造成表現をし、 建築屋さんたちが“等高線図法”による造成表現をしていた(これを「コンターワーク」と呼んでいた)ような気がします。

改行マーク我々が現在やっている方法と異なり、 ケビン・リンンチの本などを参考にしながら「等高線の移動が造成である」という考え方でやっていたようです。 土量計算も、 現在の“点高法”ではなくて“等高線移動面積法”とでも言うようなやり方だったようです。

改行マーク今でも、 大学では「コンターワーク」は教えられていないと言うか“無視”されていますし、 我が国の土木業界では、 測量段階では“等高線”を使うのに、 未だに設計段階では殆ど使われていません。

中村

改行マーク等高線図法でないと、 何が困るのですか?

成瀬

改行マーク例えば、 そのために、 全く悪気はないにもかかわらず、 極めて安易に環境(現況)破壊が発生するという、 何とも不幸な事態が頻発しています。

改行マークこうしたことは、 本来ならば、 等高線図法で造成検討することによって容易に避けられます。

改行マークというのは、 旧来のヒゲ図法では「絶対に表現できないような造成地形がある」からです。

中村

改行マークヒゲ図法で“絶対に表現できない”とは、 例えば、 どんな造成地形なんですか?

成瀬

改行マーク例えば、 ヒゲ図では、 平坦であるとか一定勾配であるとかの単純な造成地形なら極めて簡単に表現できますが、 現況地形そのものや複雑なランドスケープ的な造成地形は上手に表現できません。

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図2 等高線による造成地形の表現方法
改行マークそんなことで、 今までヒゲ図表現が主流の実施設計部隊にも等高線図法で表現させるように徹底させてきた経過があり、 このことは、 土木製図基準(都市開発・宅地造成編)にも盛り込まれています。


2. 大地から何を読みとるか

中村

改行マーク図面上の作業だけでは捉えられない、 現場のリアリティがあると思いますが、 現地調査では何を重視しますか。 また特別なノウハウなどがあるのでしょうか。

成瀬

改行マーク私は、 必ず現況地形図をきちんと分析した上で現地踏査に入ることにしています。 そういう準備をせずに漫然と現地調査に入ると、 あちこちに見落としが発生してしまうからです。

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図3 丘陵地開発における造成計画立案の基本的考え方
改行マークそれだけではなく、 私は、 自分に相当程度の自信が持てる形での“将来展開イメージ”を固めてから現地調査に入るようにも努めています。

改行マーク現地調査をして結果的には変わることになることが多いにもかかわらず、 現地調査をする前にきちんとした将来展開イメージを固める訓練が、 大地を相手の空間把握を鋭敏にすると考えているからです。

改行マーク広域の中での開発地区を位置づけ、 新たな都市構造をどう作り上げるかを考えるためには、 開発地区の中心部分よりもエッジ部分に注目しています。

改行マークもちろん、 植生や文化財なども調べますが、 新たなイメージを膨らませる上で、 それらは必ずしも重要ではないと考えています。 総体的な風土環境や地形構造に注目していないと“木を見て森を見ない”ような結果になる恐れがあると考えているからです。

改行マーク私は“現況主義”に立っていますが、 ただ現況を見ただけで安易に“保存する”と決めてしまうのは好ましくないと考えていますし、 何でも「現況保存すれば良い」とは限らないとも思っています。

改行マーク実際に、 どの山も少しずつ削るよりも、 ある山を思い切って削ってしまった方が、 総体としての現況保存に繋がる場合も多々あると考えています。

改行マーク一方で、 多くの丘陵地開発では“谷”地形が少ないことから、 最近では、 何とか“谷”地形を活用できないかという点にも注目しているところです。

改行マーク高い山を残したがる人がいますが、 安易に残そうとすると、 土地利用効率が一挙に低下してしまい、 要注意です。 どうしても山を残したい場合には、 高い山に挑戦するよりも、 むしろ“岬状の尾根の背後”を小山のようにラウンディングして残す方法が有効です。

改行マークそういう小山が3つぐらいあると、 街の姿に見え隠れ効果が出てきて、 街のアイデンティティ(個性)の創出につなげることが可能になります。

中村

改行マーク現況地形図を、 どのように読み込むのか、 教えて下さい。 例えば、 谷線・尾根線とか…。

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図4 東京都H地区全体マスタープラン&土地造成計画案 1991-1993
成瀬

改行マーク私は、 特に「谷線・尾根線」という形で仕分けるようなことはしません。 先ず道路ネットワークや集落分布を確認しながら、 現況地形図を「等高線別に色分けする」ように彩色して行くのです。

改行マークこれは、 図面上とは言え“現地探査”とも言える行為ですから、 原則的に「自分でやる」ことが重要だと考えています。 等高線だけでなく、 建物・碑・植生あるいは地名など他の情報も満載だからです。

改行マークこの場合、 私は、 縮尺1/2500の現況地形図(等高線間隔2m)をたいへん重宝しています。

改行マーク縮尺1/5000以下の現況地形図(等高線間隔5m・10m)では、 現況地形を丁寧に読み込んで道路整備をしたり土地造成に展開するには粗くて、 検討作業の結果に格段の違いが生じてしまうからです。

中村

改行マーク実際に、 自分で歩いたような感覚をつかんでいくわけですね。

成瀬

改行マークそうです。 だから、 特に“道”については重視してピックアップして行きますね。

改行マーク実際の“現地踏査”も、 当然、 多くの場合“道”に沿って歩くわけですから…。


3. 地形とコミュニティ

中村

改行マーク地勢のシステムがどうなっているのかというような話はどうでしょうか。

改行マーク風水ではないけれど、 大地の意味づけを読み取って行くみたいな……。

改行マークまた、 山なり、 谷なりの重要性はどのようにランクづけられるのでしょうか。

成瀬

改行マーク私は、 自分で言うもの何ですが、 既存のコミュニティを含めて“開発地区周辺との一体化”で捉えようとする姿勢がかなり強いと思っています。

中村

改行マークどのような一体化でしょうか。

成瀬

改行マーク開発区域そのものよりも、 最終的な街の全体像としての広域的な一体感を重視します。

改行マークそのために、 既存地区と開発地区の交流を重視しますので、 開発地区の真ん中に無批判に“核”を作っているようなマスタープランは、 大嫌いですね。

改行マーク農村集落も先行開発住宅地ともなるべく関連を持たせるべきです。 真ん中から描いて行って、 開発地区のエッジの方は力尽きてお座なりというようなプランを目にしますが、 私は、 先ほども述べたように、 プランニングのエネルギーはむしろ開発地区のエッジの方に注ぐべきだという信念を持っています。

呉(都市設計工房スタッフ):

改行マーク成瀬さんと一緒に仕事をしていると、 開発地区だけではなく、 広域の中で計画条件を解析しようとするのが見えます。

改行マークそういう広域の中で、 都市構造と地域資源をどう繋いでいくかというような視点で検討し、 それらを等高線で確認しながら“立体的な検討”を進めていくというところが“ミソ”なのかなと思います。

成瀬

改行マーク我々の仕事では、 時には開発地区の区域境界も決まっておらず、 それも自分達で決めて行かなくてはならない場合も当然生じて来ます。 そんなときは目一杯大きな図面を準備し、 頼まれもしないのに、 開発地区外についても言及しようとしています。


4. 都市に自然を織り込む

中村

改行マーク緑地とか緑(みどり)の連続性は、 同時に考えているのですか?

成瀬

改行マークそうですね。 緑地に限らず、 造成計画の上手下手で自然斜面や法面が発生する量に大きな差が出るわけではないと考えていますので、 これらをいかに有機的に都市構造の中に組み込むことができるかという点に違いが出ると思っています。

改行マークまた、 私は、 手を加えなくて済むところは“現況保存”しようという意志を強く持っています。

改行マーク一番簡単なのは、 斜面の中腹を残す方法です。 山をカットして、 谷に盛るわけですが、 その場合に、 中腹の地形が街中に残るので、 それを都市の骨格構造にできないかという具合に見ていくわけです。

改行マークそのとき、 ただ単に現況の等高線を追うだけではだめで、 こっちからあっちの地形にポーンと飛んでいくような突然“ワープする”感じも必要です。

改行マークそうしないと、 街全体が有機性を欠き、 人間や動物たちの受容感覚や実際のアクティビティに合致しないものに止まってしまう恐れがあります。

中村

改行マークその突然“ワープする”瞬間の絵っていうのはあるんですか(笑)

成瀬

改行マークそれは、 初期のエスキースの中でおこなわれる作業ですが、 他の人が「後から見てもわかりにくいもの」で、 なかなか説明しようがありません。


5. 大地との格闘

(T地区の図面を見ながら)

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図5 兵庫県T地区全体マスタープラン&沿川修景化構想 1996-1997
成瀬

改行マーク我々が、 この地区で提案したのは、 珍しく良い谷地形なので、 外周緑地よりも中央に谷風景を生かした緑地を確保しようとしたことです。

改行マークまた、 谷の方向は、 たまたま形の良い山に向かっているので、 その山の風景が隠れないように、 あるいは見え隠れするように谷筋を残しています。 谷の中央の川も、 従前のプランにはなかったものです。

改行マーク河床勾配が殆ど取れないから、 実は“池”と同じなのですが、 緑地軸に沿って配置しています。

改行マーク近辺では大小の開発が先行し、 どれも自分のテリトリーだけ真っ平らに造成し、 お互いにそっぽを向くように背中合わせにエッジの緑地を残しており、 全く都市構造の形成に寄与していないので、 これではだめじゃないかということで、 お節介にも隣の先行開発地区にも言及して、 大きく道の付け替えや既存の学校のレイアウトを変更する提案をしています。

改行マークまた、 近辺には歴史の古い集落もあって、 そこは恐ろしく道幅が狭い現況になっています。

改行マークしかし、 この古い集落周辺の道がそこそこ整備されれば、 日常生活にも困らず、 防災の観点からも、 問題にならないだろうと判断して、 この開発地区外の古い既存集落との関連づけにも努めています。

中村

改行マーク谷を中心に残した街は、 都市構造としてはたいへん分かりやすいですね。 特に水のシステムがあるとメリハリがあっていいことですね。

改行マークところで、 この池は、 飛び跳ねるような不思議な形態だと思いますが…。

呉(都市設計工房スタッフ):

改行マークこれは、 ここに現況地形が残せそうだからであって、 決して飛び跳ねさせようとしてやっているわけではないんです。

成瀬

改行マーク現況を壊さずに済む限り、 それを生かした形態を追求するという言い方だけならば誰でも同じですが、 実際にどうできるかに違いがあります。

改行マーク私は、 全てを直線的に決めていこうとすると、 現況地形とすり合わないことが発生してくるので、 全部をうまく調和させようとすると曲線(決して幾何学的な曲線ではない)が好都合だと思っています。


(M地区の図面を見ながら)

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図6 愛知県M地区の戸建住宅開発基本計画1995-1996
成瀬

改行マークここでは、 当時の公団の内部事情から、 縦断勾配5%のバリアフリールートの確保を最重視せざるを得なかった(縦断勾配7%のルートならばそこそこ樹林が残った)ことと、 我々も、 公団側の自然地形案に対する不安感を払拭できなかったことから、 少し遠慮して“少造成”と言うことで提案したものです。 このために、 現況林はあまり残っていません。

改行マークしかし、 そのような中でも僅かに残った緑が、 曲線道路による街全体の柔らかさと相まって、 大きい効果を発揮しそうなことが、 今、 公団側にも少しずつ理解されようとしているところだと見ています。

改行マークそして、 実際上の社会的な評価はこれからというところですので、 今、 見守っているところです。

中村

改行マーク現況林を“宅地の背割り”に当てはめていく方法は、 パズルみたいなものですね。

改行マーク現況地形の表面に当たる樹林は残らないけれども、 元の“地勢”は残っているというわけですね。

改行マーク現況地形の等高線が密集しているところが、 造成後も道の勾配がきつくなっているわけですし…。 何か雰囲気は残っていますね。

呉(都市設計工房スタッフ):

改行マークこの線をどういう過程で決めたかというのは、 説明しにくいのですが、 決して“一発で決めた”わけではありません。 何度も何度も「描いては消し描いては消し」を繰り返して出て来た形なんです。

成瀬

改行マーク当社の図面作業は、 図面を描くよりも消す方が10倍ぐらい多いと言われていますが、 すばやく試行錯誤を繰り返しているので、 このくらいの図面であれば、 先ず1〜2日ぐらいの作業スピードでラフな“コンターワーク”をワンラウンド終えてしまいます。

改行マーク中央に街区公園を確保していますが、 これは元あった谷地形を上手く利用したつもりですが、 最近になって、 現地を見てみたら、 谷を盛り過ぎたらしくて、 谷地形の名残が消えてしまって非常に残念です。

中村

改行マーク中腹のコンターラインを残そうと思えば、 自ずと地形の雰囲気は残るわけですね。


(八王子みなみ野シティの図面を見ながら)

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図7 八王子みなみ野シティのマスタープラン1987年変更
成瀬

改行マーク私の公団時代最後の仕事ですが、 先行して環境アセスメント手続きが終了していたので、 それまでのマスタープランに抵触しないように細心の留意を払いながら現況保存の範囲を増やしています。

改行マーク一般に、 外周緑地は、 現地では“開発地域外”と見間違うような存在にしか過ぎず、 開発区域の内か外かは図面以外ではわかりにくいものです。

改行マーク私は「それではまずいんじゃないか」という考え方を持っており、 外周緑地の一部を開発区域の中央部分に引き込むように改造してみたわけです。

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図8 八王子みなみ野シティにおける「五山五丘三渓一流」のオープンスペース構想
改行マーク真ん中に既存集落がヒトデ状にありましたが、 それらの背後の山を連担させるように“緑地構造”を作り出し、 随所に小山を作るように工夫しています。 これらは「五山五丘三渓一流」という言い方をされて、 この街の大きな特徴になっています。

改行マーク実際に、 現地で見ると、 小山が目立つ場所にあり、 上手な“見え隠れ効果”が発揮できています。


(建設大臣賞受賞のコンペの案を見て)

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図9 第15回まちづくり設計競技建設大臣賞受賞作品
成瀬

改行マークこれは、 現況地形が緩やかで難しくなかったので、 普段の仕事よりも楽をして作りました。

改行マーク一部に2、 3mオーダーの切り通しができていますが、 元の山・沢・樹林・竹林・畑・農道などをそのまま保存利用しようという趣旨のプランです。

改行マーク道路以外は殆ど切盛土しておらず、 宅地内には、 現況樹(竹)林が完全に残っており、 建物を建てる段階で多少の伐採を想定しているものです。

改行マーク世の中にゴマカシの図面が多い中でコンターワークにはこだわりがあり、 もし、 実現できないようなことがあるとしたら・現況地形が間違っているか・施工の仕方が悪いか、 のどちらかであると思っています。

改行マーク我々は、 土地造成のプランニングをするとき、 現況地形をしっかり見て、 その現況地形を最も保存しながら有効活用できる形態は何かということに腐心しており、 それをどうやって発見するかがポイントになります。 私として、 これくらいの地形なら特別な工夫も知恵も不要と思っていましたので、 とても建設大臣賞などいただける代物だとは思っていません。

改行マーク逆に言うと、 我が国の同業者にそういう考え方をしても実践できる人達が少ないことを残念に思います。


6. 大地のシークエンスを作る

中村

改行マーク先程から幾つかのプランを見て、 都市構造づくりの方向性として、 遠心力を持って外に向かう力が働いているように思いました。

改行マーク開発区域の中で起承転結をつけるのではなく、 結果的にどこかズレがあって、 一見、 まとまっていないような形態になるのも興味深い点です。

成瀬

改行マーク私は、 常に“開発区域”の中だけで考えないように心掛けており、 日頃から当該“開発区域”中心主義の図面にならないよう留意しています。

改行マークそれと、 一般に多用されている「軸線主義」が嫌いなので、 全体として都市構造が“直線”的にならないで“曲線”的になっていると思っています。

改行マーク街中に存在する二つ以上の要素を結び付けるのに何本もの“軸線”を設定するよりも、 穏やかにウェーブする一本の“曲線”で結び付ける方が合理的で、 街並みシークエンスにも適度な変化が生じることが期待できます。 一直線の道路では幾ら歩いても景色は変わりにくいけれど、 曲がりくねった道では街並み景観にいろいろな変化を感じることができます。

改行マークしかし、 区画整理などでは、 曲線道路は嫌われますので、 理論武装しながら進めています。

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図10 街並み景観における「コンケーブ」の概念
中村

改行マーク曲がり具合によりますが、 下り坂などで非常に気持ちの良いカーブがありますよね。

改行マークちょうど目の高さに街路樹の枝葉が展開しているのが見えるとか、 リズム感が出てきて…。

成瀬

改行マーク縦断勾配については「コンケーブ」という坂の途中に“弛み”を作る手法があります。 両端部などに急な勾配も確かに出てはきますが、 街並み景観の感動的な演出が可能になると思っています。

中村

改行マークそのようなことは、 図面を引きながらも、 実際に体感(疑似体験)できるのでしょうか。

成瀬

改行マーク最初の頃は「コンケーブ」の効果はよく分かりませんでしたが、 フランスのセルジーポントワーズニュータウンに隣接するポントワーズのオールドタウンの中で、 見事に「コンケーブ」した駅前通りを実体験してみて、 たいへん感動した覚えがあります。

改行マークこれらを「等高線に落としたらどうなるか」と考えたときに、 安易に等高線を“均等配置”(道路勾配を一定)してはまずいなと思い始めました。


7. 水系構造の再生への試み

中村

改行マーク棚田の構造を見ていると思うんですが、 昔の人は「水」で地域構造を考えていたんですね。 今の人は「道」で考えますけど…。

成瀬

改行マーク人間が生きていく上には、 何よりも「水」が大事だった時代があったと思うんですよ。 現在のように動力(揚水ポンプ)がなければ、 どうしても“自然流下”せざるを得ないわけだし…。

中村

改行マーク水の処理を考えていけば、 ある程度デザインが決まって行く感じがします。 用と美みたいな関係が成り立つのではないでしょうか?

成瀬

改行マーク水を生かした場所というのは簡単には作れませんから、 一つのヒントかも知れませんね。

改行マーク私は、 多摩ニュータウンの初期段階の地区では公園内に幾つかの“池”を作りましたが、 堀之内地区では長池を保存するとともに平城ニュータウンを越えるような自然的な“せせらぎ”を作ろうとしました。

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図11 八王子みなみ野シティにおける水循環再生システム
改行マークこのために、 水を循環させるための動力(揚水ポンプ)を一切使わず、 晴れた日にも水が流れる自然流下の“せせらぎ”を作るべく、 雨水の地下浸透によって水循環のタイムラグを作り出そうとしました。

改行マークこの時、 何人かの土木コンサルタントに相談したところが「崖崩れを起こす」と言われ、 最初の頃は技術協力者を見つけるのがたいへんでした。

改行マークしかし、 途中から話が面白くなってきたのか、 土木コンサルタントも透水層・不透水層や地下ダムなどのアイデアを具体化してくれて、 その結果、 今日見られるような“せせらぎ”が完成したのです。

改行マーク八王子みなみ野シティでも、 公団の開発地区では珍しく現況の川があったので、 ウッディタウンの平谷川ほどにはなりませんでしたが、 何とか残していこうと努力し、 その結果が実現しつつあります。

改行マークここでは、 不透水層が切断され漏水するような地層構造だということなので、 この不透水層の切断部分を修復するような形で造成工事を施すとともに、 また浸透桝をあちこちに作って雨水を還元してやるような水循環システムの再生をめざしています。

改行マークこの他にも、 八王子みなみ野シティでは、 根株工法などの珍しい実験もおこなわれています。

中村

改行マーク大地をデザインする理論と技術は、 ほぼ出そろって、 いよいよ成熟期に入ったような感じですね。

改行マーク本日はどうもありがとうございました。

(1998年7月31日)

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