参加型都市環境デザインをさぐる
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SessionC1 参加型デザインの実践(レポート&トーク)

東灘区岡本地区

参加型まちづくりの苦闘

(美しい街岡本協議会会長) 西崎敬四郎
(ジーユー計画研究所) 後藤祐介

●はじめに

改行マーク岡本地区の住民参加型街づくり活動は、 1970年代の公害対策運動等の背景を持たない住民の発意による住民主導の街づくり活動であり、 街づくり協議会設立以来約20年の経過を持つが、 ここでは、 このような大都市の既成市街地における自律的な街づくり協議会活動の実践例を0+4章に分けて総括してみるととする。


0 岡本地区街づくりの概要

1。 岡本地区の特性と問題点等

(1)特性:住宅地景観を借景したお洒落な街

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岡本地区の位置図
改行マーク岡本地区は、 六甲山麓の緩やかな南斜面に位置し、 恵まれた自然条件や交通条件を有する良好な郊外住宅地であり、 周辺には大学等の文教施設が立地し、 住宅地景観を借景したお洒落な店舗が多く、 若者を中心に多世代の人が行き交う街である。

(2)問題点:道路等都市基盤施設が不足

改行マーク阪急岡本駅、 JR摂津本山駅の間の駅前の生活都心にもかかわらず、 道路や駅前広場、 公園等の都市基盤施設が不足している上、 住宅と商業の不整序な混在、 屋外広告物の氾濫等の問題を抱えている。

(3)被災状況

改行マーク平成7年1月17日の兵庫県南部地震による被災状況は、 死者5名、 家屋の全半壊38戸/(約380戸)で、 比較的被害は軽微であった。


2。 まちづくりの目標

改行マーク美しい街岡本協議会は「うるおいと調和のある美しい街」を基本目標に、 「生活基盤の整ったた街」「住宅と店舗が共存・共栄する街」「美しさと文化性が感じられる街」の保全と整備を目指している。


3。 これまでの経過概要

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岡本地区のまちづくり年表
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岡本地区の街づくり構想図
改行マーク街づくり協議会活動の経過概要は以下のとおりであり、 18年間の活動のうち、 前半の平成2年までは主に「ルールづくり」を、 震災以降は主に「ものづくり」に取組んできた。


1 住民と行政の協働作業

1。 街づくり協議会設立のきっかけ

改行マーク美しい街岡本協議会設立のきっかけは、 駅前地区商店街における商業振興策としての商業診断の結果、 今後の地域間競争の時代に対応するためには、 「個々の店づくりの努力では限界に達しており、 街全体がもっと魅力的になる必要がある」との答申が出された。 一方で、 生活都心としての住商複合化に対する環境問題、 青少年の健全な育成問題があり、 商店街及び住宅地を含めた地域全体の街づくりとして、 地域の商店街、 婦人会、 民生委員会、 医師会等の各種団体が母体となり、 1982年に美しい街岡本協議会が設立された。 会長には商店街と周辺住民の接着役として医師会代表の西崎敬四郎氏が就任された。


2。 参加型まちづくりの仕組み:「神戸市まちづくり条例」

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「神戸市地区計画及びまちづくり協定に関する条例」に基づくまちづくりの流れ
改行マーク神戸市では、 美しい街岡本協議会設立の前年、 1981年に「神戸市地区計画及びまちづくり協定に関する条例」(これを「神戸市まちづくり条例」と省略する。 )が制定され、 住民参加型まちづくりの進め方を条例化している。 この条例では、 「まちづくり協議会」の設立と認定制度、 市長への「まちづくり提案」制度、 「まちづくり協定」の締結制度、 また、 まちづくり助成、 アドバイザー派遣、 コンサルタント派遣等の各種助成制度の仕組みが定められている。


3。 美しい街岡本協議会は神戸市方式の模範生

改行マーク岡本地区は「神戸市まちづくり条例」に基づき、 1982年に「美しい街岡本協議会」を設立、 1986年に「まちづくり協議会認定」を受け、 1987年に神戸市長に「まちづくり提案」を行った。 引き続き1988年には「岡本地区まちづくり協定」を締結し、 1989年には神戸市により「地区計画」が都市計画決定し建築条例化された。 さらに、 1990年には神戸市景観条例に基づき岡本駅南地区「都市景観形成地域」に指定された。 このように美しい街岡本協議会は、 神戸市まちづくり条例の模範生としての道を辿ってきた。


4。 「岡本地区」と「真野地区」の違い

改行マーク美しい街岡本協議会は「神戸市まちづくり条例」に基づく住民と行政の供働作業による参加型まちづくりの模範生として、 前半10年間はルールづくりを中心に進めてきた。 しかし、 その後の1990年以降の10年間は、 「ものづくり」の壁にぶつかっている。 そこで思うのは、 真野地区(認定1号)と岡本地区(認定5号)の違いはどこにあるかということである。

改行マーク基本的な違いは、 真野地区は1970年代からの大都市インナー問題地区としての公害対策運動に端を発している協議会であり、 岡本地区は、 行政としては特段の問題がない一般の既成市街地であり、 「住民自らが取組まないと行政からは何もしてくれない」自律型街づくり協議会であるということである。


2 「ルール」による街なみ景観づくり

1。 「3つのルール」を制定

改行マーク岡本地区まちづくりでは、 「街づくり構想」を実現するため次の3つのルールを制定した。

(1)「まちづくり協定」(1988年6月)

改行マーク神戸市まちづくり条例に基づき、  壁面のセットバック、  建物高さの制限、  建物用途の制限、  荷さばき駐車用地の設置、  周辺環境への配慮、  暴力団の入居禁止、  露天商の禁止を定めた。

(2)「地区計画」(1989年3月)

改行マーク「まちづくり協定」の担保力を高めるため、 協定項目の中で「地区計画」で定めることのできる項目を都市計画決定し、 3項目を建築条例化した。

(3)「都市景観形成基準」(1990年10月)

改行マークより美しく、 個性的で魅力的な街に誘導するため、 神戸市都市景観条例に基づき、 都市景観形成地域への指定を要望し、 神戸市より地域景観形成基準が制定された。


2。 「つくらない」街づくり

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魅力的な1階セットバック空間
改行マーク3つのルールにより、 地区内で個々の建築行為が発生する毎に届出制度等によりルールが守られ、 目標とする街づくりが進んでおり、 特に、 景観形成道路に面する壁面のセットバック(約1m)については、 狭い道路空間を補完し、 ゆとりある魅力的なまち並み景観が誘導されつつある。

改行マーク一方、 「ルールづくり」により、 水道みち以北の山側において15m以上の高い建物が建たないこと、 パチンコ屋、 ホテル等の風俗営業が立地しないこと等の街にとって弊害となるものを「つくらない」ことの街づくり効果が目に見えないかたちで現われてきている。


3。 大変難かしい屋外広告物の景観誘導

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屋外広告物の氾濫
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3つのルールの概要
改行マーク3つのルールを制定し、 街なみ景観を誘導しつつ、 石ダタミ等による街の美化を推進している一方で、 「目立つ」ことが目的である屋外広告物の景観誘導は大変難かしい問題で、 今後の検討課題となっている。


3 「ものづくり」の総論賛成、 各論反対

1。 震災後の「ものづくり」の取組み:7つのプロジェクト

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震災後の「ものづくり」の取り組み
改行マーク岡本地区では、 阪神・淡路大震災による被害は比較的軽微であったが、 震災の教訓を生かす意味での安全、 安心な街づくり、 又、 神戸市東灘区の生活都心の一つとしての神戸の復興、 元気アップの視点から右図に示す7つのプロジェクトに取組んでいる。


2。 南北道路と沿道再開発計画の中断

改行マーク南北道路の沿道再開発計画は、 山手幹線と阪急岡本駅前を結ぶ地区内幹線道路の整備構想であり、 震災以前からの岡本地区まちづくりの最重要課題として取組んできたが、 震災直前からも安全、 安心な街づくりの一環として、 街づくり協議会と行政が一体となって整備促進に取組んできた。 しかし、 総論として、 地域住民全体からの整備要望は極めて高いものの、 南北道路又は沿道の再開発区域の一部の地権者の中には、 事業化の必要性を理解してもらえない人がおり、 現在、 止むを得ず中断の状況になっている。


3。 市営自転車置場建設の反対

改行マークこのプロジェクトは、 岡本地区の中央部で震災により倒壊した社宅(4軒)の跡地(約830m)を神戸市に買ってもらい、 市営自転車置場を建設する計画である。 街づくり協議会として、 地区内の放置自転車対策(約600台)として、 市に整備を要望してきた施設であるが、 震災後、 用地を取得してもらった段階で、 設置場所周辺の居住者から迷惑施設としての建設反対の声が上がっている。 近隣居住者の言い分ももっとな点があり、 現在は近隣居住者にできるだけ迷惑をかけない整備内容及び維持管理方法を検討しているところである。


4。 地域エゴ、 住民エゴ、 地区外権利者のエゴ

改行マーク参加型街づくりは、 住民の地域エゴを前提にしているところがあるが、 全住民の意見集約に基づいて進めてきた「ルールづくり」に比べて、 「ものづくり」は近隣への迷惑施設となる可能性があり、 総論と各論の調整の難しさが痛感される。 また、 岡本地区のような大都市地域では、 投機目的の地権者も多く、 協議会にとっても地区外権利者の対応が課題である。


4 街づくり協議会の継続

1。 協議会の定常的活動

改行マーク美しい街岡本協議会では、 定常的協議会活動として次のような活動を行ってきた。

(1)定例幹事会

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第16回定期総会の模様
改行マーク月に1回第2日曜日の夜7時半〜の時間帯で幹事全員、 行政、 コンサルタントが出席して、 街づくり全般について話しあっている。

(2)定期総会、 臨時総会、 説明会、 講演会

改行マーク定期総会と講演会は毎年5月の最終日曜日に、 臨時総会、 説明会は必要に応じて適宜開催してきた。

(3)街づくりニュースの発行

改行マーク年に平均2〜3回(春秋と臨時)で、 創刊以来38号を数えている。

(4)クリーン作戦奉仕デー

改行マーク月に1回、 第3月曜の午前中、 有志により奉仕活動として続けている。

(5)他団体との交流

改行マーク景観形成市民団体として、 市内の他地域及び他都市との交流を行うとともに、 東灘区の大学の街づくり活動の一環として、 大学関係者との交流にも参加している。


2。 継続のエネルギー

改行マーク岡本協議会は、 設立以来18年間継続してきたが、 そのエネルギーは次の点にあると考えられる。

(1)役員の奉仕精神

改行マーク自律的街づくり協議会であり、 役員の「自分達の街は自分達の手で良くしていくしかない、 他の誰かがやってくれるものではない。 自分達が率先して街づくりを進めよう」という奉仕の精神が土台となっている。

(2)賛助会費の微収

改行マーク街づくり協議会の活動を支える会費として、 月額100円、 年1,200円の微収をお願いしており、 地区の約半数の世帯、 店舗から40〜50万円の賛助会費が頂けている。

(3)行政の支援

改行マーク震災前から神戸市にアーバンデザイン室及び区役所にまちづくり推進課が設置され、 定例幹事会を始め、 総会、 説明会等にも参加してもらい、 技術的、 資金的支援を受けている。

(4)コンサルタントの支援

改行マーク私もまちづくりコンサルタントとして15年間、 行政の担当者とは異なった役割で支援を続けてきた。 コンサルタント費は有る時もあれば無い時もあり、 無い時は役員さんの「奉仕の精神」を習っている次第である。


3)今後に続くまちづくり課題

改行マーク岡本地区の今後に続くまちづくり課題としては、 現時点で次のような課題があげられる。

(1)都市基盤の整備

改行マーク都市計画道路山手幹線の拡幅整備(22m→27m)、 阪急岡本駅前広場及び南北道路整備(13m)、 摂津本山駅前広場(都市計画決定済み)の整備が懸案として残っている。

(2)美しい街並み景観の誘導

改行マーク都市景観形成地域に ふさわしい屋外広告物の誘導が当面の課題である。

(3)公的空間の健全な維持管理

改行マーク放置自転車対策の推進を図るとともに、 街かど広場、 花壇、 プランタ等の更新と維持管理を続けなければならない。

(4)文化施設の健全な維持管理

改行マーク民営の岡本コミュニティホールや市立東灘図書館等の文化施設を健全に維持管理し、 有効に生かしてゆく必要がある。

(5)これまでの定常的活動の継続

改行マーク上記4項目の各種課題に対処するためには、 これまでの定常的に行ってきた活動を引き続き継続していく必要がある。


●おわりに

(1)街づくりはエンドレス

改行マーク岡本地区のような多世代の大勢の人が行き交い、 生活する既成市街地においては、 街づくりの完成はなく、 時代とともにニーズも変わり、 これに対応するための街づくりは本来的にエンドレスである。

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美しい街岡本協議会役員名簿

(2)見えない役員の新陳代謝

改行マーク一方で、 岡本地区のまちづくりは、 役員さんの努力で約20年に渡って取り組んで来れた。 今後も継続していかなければならない。 役員さんの新陳代謝が必要であるが今はそれがみえない。

 

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