SessionC1 参加型デザインの実践(レポート&トーク)
東灘区岡本地区
参加型まちづくりの苦闘
(美しい街岡本協議会会長) 西崎敬四郎
(ジーユー計画研究所) 後藤祐介●はじめに
岡本地区の住民参加型街づくり活動は、 1970年代の公害対策運動等の背景を持たない住民の発意による住民主導の街づくり活動であり、 街づくり協議会設立以来約20年の経過を持つが、 ここでは、 このような大都市の既成市街地における自律的な街づくり協議会活動の実践例を0+4章に分けて総括してみるととする。
岡本地区の位置図 |
岡本地区のまちづくり年表 |
岡本地区の街づくり構想図 |
1 住民と行政の協働作業
1。 街づくり協議会設立のきっかけ
美しい街岡本協議会設立のきっかけは、 駅前地区商店街における商業振興策としての商業診断の結果、 今後の地域間競争の時代に対応するためには、 「個々の店づくりの努力では限界に達しており、 街全体がもっと魅力的になる必要がある」との答申が出された。 一方で、 生活都心としての住商複合化に対する環境問題、 青少年の健全な育成問題があり、 商店街及び住宅地を含めた地域全体の街づくりとして、 地域の商店街、 婦人会、 民生委員会、 医師会等の各種団体が母体となり、 1982年に美しい街岡本協議会が設立された。 会長には商店街と周辺住民の接着役として医師会代表の西崎敬四郎氏が就任された。
「神戸市地区計画及びまちづくり協定に関する条例」に基づくまちづくりの流れ |
基本的な違いは、 真野地区は1970年代からの大都市インナー問題地区としての公害対策運動に端を発している協議会であり、 岡本地区は、 行政としては特段の問題がない一般の既成市街地であり、 「住民自らが取組まないと行政からは何もしてくれない」自律型街づくり協議会であるということである。
3。 美しい街岡本協議会は神戸市方式の模範生
岡本地区は「神戸市まちづくり条例」に基づき、 1982年に「美しい街岡本協議会」を設立、 1986年に「まちづくり協議会認定」を受け、 1987年に神戸市長に「まちづくり提案」を行った。 引き続き1988年には「岡本地区まちづくり協定」を締結し、 1989年には神戸市により「地区計画」が都市計画決定し建築条例化された。 さらに、 1990年には神戸市景観条例に基づき岡本駅南地区「都市景観形成地域」に指定された。 このように美しい街岡本協議会は、 神戸市まちづくり条例の模範生としての道を辿ってきた。
4。 「岡本地区」と「真野地区」の違い
美しい街岡本協議会は「神戸市まちづくり条例」に基づく住民と行政の供働作業による参加型まちづくりの模範生として、 前半10年間はルールづくりを中心に進めてきた。 しかし、 その後の1990年以降の10年間は、 「ものづくり」の壁にぶつかっている。 そこで思うのは、 真野地区(認定1号)と岡本地区(認定5号)の違いはどこにあるかということである。
2 「ルール」による街なみ景観づくり
1。 「3つのルール」を制定
岡本地区まちづくりでは、 「街づくり構想」を実現するため次の3つのルールを制定した。(1)「まちづくり協定」(1988年6月)
神戸市まちづくり条例に基づき、 壁面のセットバック、 建物高さの制限、 建物用途の制限、 荷さばき駐車用地の設置、 周辺環境への配慮、 暴力団の入居禁止、 露天商の禁止を定めた。(2)「地区計画」(1989年3月)
「まちづくり協定」の担保力を高めるため、 協定項目の中で「地区計画」で定めることのできる項目を都市計画決定し、 3項目を建築条例化した。(3)「都市景観形成基準」(1990年10月)
より美しく、 個性的で魅力的な街に誘導するため、 神戸市都市景観条例に基づき、 都市景観形成地域への指定を要望し、 神戸市より地域景観形成基準が制定された。
魅力的な1階セットバック空間 |
一方、 「ルールづくり」により、 水道みち以北の山側において15m以上の高い建物が建たないこと、 パチンコ屋、 ホテル等の風俗営業が立地しないこと等の街にとって弊害となるものを「つくらない」ことの街づくり効果が目に見えないかたちで現われてきている。
屋外広告物の氾濫 |
3つのルールの概要 |
3 「ものづくり」の総論賛成、 各論反対
1。 震災後の「ものづくり」の取組み:7つのプロジェクト
震災後の「ものづくり」の取り組み |
2。 南北道路と沿道再開発計画の中断
南北道路の沿道再開発計画は、 山手幹線と阪急岡本駅前を結ぶ地区内幹線道路の整備構想であり、 震災以前からの岡本地区まちづくりの最重要課題として取組んできたが、 震災直前からも安全、 安心な街づくりの一環として、 街づくり協議会と行政が一体となって整備促進に取組んできた。 しかし、 総論として、 地域住民全体からの整備要望は極めて高いものの、 南北道路又は沿道の再開発区域の一部の地権者の中には、 事業化の必要性を理解してもらえない人がおり、 現在、 止むを得ず中断の状況になっている。
3。 市営自転車置場建設の反対
このプロジェクトは、 岡本地区の中央部で震災により倒壊した社宅(4軒)の跡地(約830m2)を神戸市に買ってもらい、 市営自転車置場を建設する計画である。 街づくり協議会として、 地区内の放置自転車対策(約600台)として、 市に整備を要望してきた施設であるが、 震災後、 用地を取得してもらった段階で、 設置場所周辺の居住者から迷惑施設としての建設反対の声が上がっている。 近隣居住者の言い分ももっとな点があり、 現在は近隣居住者にできるだけ迷惑をかけない整備内容及び維持管理方法を検討しているところである。
4。 地域エゴ、 住民エゴ、 地区外権利者のエゴ
参加型街づくりは、 住民の地域エゴを前提にしているところがあるが、 全住民の意見集約に基づいて進めてきた「ルールづくり」に比べて、 「ものづくり」は近隣への迷惑施設となる可能性があり、 総論と各論の調整の難しさが痛感される。 また、 岡本地区のような大都市地域では、 投機目的の地権者も多く、 協議会にとっても地区外権利者の対応が課題である。
4 街づくり協議会の継続
1。 協議会の定常的活動
美しい街岡本協議会では、 定常的協議会活動として次のような活動を行ってきた。(1)定例幹事会
第16回定期総会の模様 |
2。 継続のエネルギー
岡本協議会は、 設立以来18年間継続してきたが、 そのエネルギーは次の点にあると考えられる。(1)役員の奉仕精神
自律的街づくり協議会であり、 役員の「自分達の街は自分達の手で良くしていくしかない、 他の誰かがやってくれるものではない。 自分達が率先して街づくりを進めよう」という奉仕の精神が土台となっている。(2)賛助会費の微収
街づくり協議会の活動を支える会費として、 月額100円、 年1,200円の微収をお願いしており、 地区の約半数の世帯、 店舗から40〜50万円の賛助会費が頂けている。(3)行政の支援
震災前から神戸市にアーバンデザイン室及び区役所にまちづくり推進課が設置され、 定例幹事会を始め、 総会、 説明会等にも参加してもらい、 技術的、 資金的支援を受けている。(4)コンサルタントの支援
私もまちづくりコンサルタントとして15年間、 行政の担当者とは異なった役割で支援を続けてきた。 コンサルタント費は有る時もあれば無い時もあり、 無い時は役員さんの「奉仕の精神」を習っている次第である。
3)今後に続くまちづくり課題
岡本地区の今後に続くまちづくり課題としては、 現時点で次のような課題があげられる。(1)都市基盤の整備
都市計画道路山手幹線の拡幅整備(22m→27m)、 阪急岡本駅前広場及び南北道路整備(13m)、 摂津本山駅前広場(都市計画決定済み)の整備が懸案として残っている。(2)美しい街並み景観の誘導
都市景観形成地域に ふさわしい屋外広告物の誘導が当面の課題である。(3)公的空間の健全な維持管理
放置自転車対策の推進を図るとともに、 街かど広場、 花壇、 プランタ等の更新と維持管理を続けなければならない。(4)文化施設の健全な維持管理
民営の岡本コミュニティホールや市立東灘図書館等の文化施設を健全に維持管理し、 有効に生かしてゆく必要がある。(5)これまでの定常的活動の継続
上記4項目の各種課題に対処するためには、 これまでの定常的に行ってきた活動を引き続き継続していく必要がある。
美しい街岡本協議会役員名簿 |