アメリカのNPOを考察すれば日本が直面している高齢化社会、 都市や環境問題などの社会貢献度の高い活動に対しては民間企業よりもNPO組織のほうが事業を軌道に乗せやすいことがわかる。 雇用対策の面からも行政の業務委託を受託しやすくなるとみられるため、 NPOをベンチャービジネスとして捉える傾向もでてきた。 行政のNPO支援策は直接ではなく、 利用者に対する給付をしNPOに資金が流れる仕組みも検討されている。
ところがこうした市民と行政と企業のパートナーシップと云われる時代潮流になっても、 日本の法制度はきわめて狭く限定された市民参加のみを保障しているに過ぎない。 地区計画制度、 都市計画のマスタープラン、 まちづくり条例に抽象的規定があるのみである。 法制度の遅れが、 専門家やコンサルタントを役割のあいまいな状態にしており、 合理的な役割分担を探しているのが現在の状況である。 アメリカ建築家協会(AIA)のような専門家の集まりであるNPOは職業的知見を通じて社会に貢献することを目標に市民やNPOを支援しているが、 日本でも構想、 計画段階の徹底した情報公開と多段階における市民参加を保障する制度の確立が望まれる。
参加型デザインには多くの問題点が存在する。 NPOは自助、 自立組織であり、 法人格を所得しても仕事がくるわけではない、 公共的な仕事の業績をつくらないと存在がなくなってしまうのである。 NPOは最初理念から立ち上がるが、 NPOにおいてはやりがいだけでは活動を続けていくことが難しい。 経営能力を高めていくことが必要であると同時に成果を公開すべきである。
複雑な都市問題を扱うのに経験の少ない市民の限られた知識と技術と時間に頼った判断が良い結果を導くとは限らないことは当然のことであろう。 NPOがまちづくりの担手になるには参加のデザインを構築できる専門家との連携が欠かせない。 それはNPOのなかに自分達の地域に関する情報や経営する能力が蓄積されていくことにつながる。 それではNPOにとっての専門家と従来の専門家組織であるコンサルタントやシンクタンクはどう違うのか。 公共性は言うまでもないが専門家の能力についてカリフォルニア大学のランディー・ヘスターは次のように述べている。 今までの専門家は先に答えを言ってしまう傾向がある。 まず耳を傾ける、 そして明確に説明する能力。 さらにナビゲーター役として主張を定義付けられ、 表現する能力が問われると。 その上で専門家にとって、 「何を代弁するのか」といった問題を指摘している。 すなわち集会に来る人々の意見を代弁するのか、 あるいは来ない人とかホームレス、 子供といった弱者の意見を代弁するのかといった判断である。 参加型まちづくりにとって専門家はデザインの質を維持するためにも欠かせない。 すでに自治体の中には専門家を派遣する制度を設けているところもある。 能力のあるNPOが育つまでの過渡期といえるだろうし、 NPOからは市民に役に立つ専門家を育てていくことも課題とされなければならない。
インターネットにみられる情報の公開性と自由度、 コミュニケーションのネットワーク化などこれまでにない市民的メディアの登場によって情報の共有が可能になってきたことも大きい。 企業や多くの利益団体も行政も巨大組織化し、 市民の自発的活動が目立たなくなった現代社会にあって、 これまでの既得権を持つ勢力とは異なる理念共有型のネットワークとしての草の根運動と言える。 ランディー・ヘスターは公正な社会を構築するためには市民に実際の意味で選択肢があるかどうかが重要で、 資源を公平に配分し環境面での公正な都市をつくりうるのかが問われると述べている。 さらに市民参加ができる社会があればこういった目標を達成できるであろうし、 おそらく21世紀こそが参加民主主義の時代であり、 未来は参加によって決まると締めくくっている。
SessionC3 参加型デザインの課題(ディスカッション)
NPOの動向と対話型社会
(大阪芸術大学) 松久喜樹
1。 アメリカNPO(民間非営利組織)の動向
昨年12月に施行されたNPO法は7月末現在で申請した団体が1000件を超えたことが明らかになった。 NPO法がなぜ存在感を増してきたのか。 市民社会の新しい担い手になるのか。 アメリカでは130万団体以上のNPO組織が存在し、 全米雇用者の6.7%、 これらの有給雇用人員総数は1000万人もいてGDPの6〜7%を占めると言う。 アメリカにおいては政府、 企業と肩を並べる第3の社会セクターとして歴史的な位置づけがされている。 NPOの特典は法人格の所得、 税制上の優遇、 郵便料金の割引きなどであるが、 とくにNPOに対する寄付金については寄付者の所得から控除される税制特権が認められている。 NPOの活動資金についてはどこも苦労していて、 サービスを提供することによる事業収入、 民間企業からの寄付金、 参加会員からの会費徴集、 政府からの助成金などが主で集金のための啓蒙に余念がない。 NPOを安定的に継続するためにはNPOの活動で家計を支えている有給スタッフの報酬や社会保障、 雇用保険、 退職金などの処遇が不可欠であるが、 年収は一般企業の7割程度と言われている。 こうして見ると非営利の意味は営利事業をしないのではなく収益事業で得た利益については出資者やNPOスタッフに分配するのではなく、 次の活動資金となることである。
2。 日本の参加型まちづくりの課題
今回の参加型デザインの事例集から言えることはまちづくりに焦点を合わせていても何が住民参加か見極めにくいこと、 広範囲に及んでいることがあげられる。 ところでここで言う参加型のデザインとは市民参加のことを指すのであってNPOも含まれるが、 広義には協議型まちづくりの部分である。 従来より都市再開発に見られる公共団体と民間事業者の協力関係はあったわけで、 市民や市民組織であるNPOが公共性を実現するための主体として登場してきたといえる。
3。 対話型社会をめざして
そもそも市民参加型デザインが今日存在を増してきたのはなぜか。 大きくは地域社会と深く関わってきた工業化社会から地域とのかかわり合いが薄い情報化社会の到来である。 このことは従来の行政が計画規制を将来予測にしたがい用意し規制していく手法が変化のスピードと多様性に対応しにくくなりつつあることを示している。 都市の構造変化、 産業構造の転換は既成市街地における都市再開発のプロジェクトが多く、 周辺地域住民との間に調整を必要とするが現実的には財政赤字の中で行政には要求を満たすことが難しい状況にある。
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