環境共生型都市デザインの世界
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初めに

中村

 今回のフォーラムの準備段階で面白い議論がありました。 挑発的な問題提起だと思うのですが、 「都市環境デザインをする人間は、 偉大なモニュメンタルなものを作りたいのであり、 環境共生などはクソくらえが本音なのではないか」というものです。

 これまで都市環境デザインは、 都市の中心、 商業・業務地区、 あるいはその中心的な建物や広場を「暗黙のスタンダード」として考えてきたわけです。 そこは、 「ハレ」の都市空間であり、 都市の活力を表わすようなデザインがあってよいと思いますが、 それをすべての都市空間のスタンダードにして良いのかというと、 違うのではないかと思います。

 むしろ(住宅地区のような)圧倒的な量を占め、 エネルギーが消費される日常的な生活空間を正面から捉えないと、 「環境共生」には対応できないのではないか。 つまり、 「ケ」の環境共生論です。 私は「ケ」の空間の仕事ばかりをしていますので、 そのような視点から事例を紹介いたしますが、 まず、 いくつかの点を整理したいと思います。

 まず、 「共生」と「循環」という二つのキーワードに分けて論じたいと思います。

 都市環境における「共生」は、 都市の中の自然はいかにあるべきかという問題になりますが、 実は異質な自然を持ち込むのではなく、 もともと都市の基盤としてあった自然をいかに掘り起こしていくかと言う課題だと思います。

 いわゆる都市の原風景です。 原風景を掘り起こし、 保存することは、 都市の個性の再発見であります。

 その都市独特の自然に合ったデザインをすれば、 他の都市と違うものになるでしょう。 しかし、 それが人々に受け入れられるためには、 先ほどの江川さんのプレゼンテーションにもあったように、 見るからに快適でなければならないのです。 ヴェニスのまちには美しさや快適さがあったし、 「山の中の家」には日本の里山らしい「さわやかさ」があるというように五感で感じられるようなデザインをしなければなりません。

 次に都市環境の「循環」という問題が出てくると思います。 リサイクルや素材の再利用、 あるいは長寿命化やストックの形成といった問題です。

 残念なことに、 今の都市環境の主たる素材である工業製品は古くなるとだんだん汚くなっていきます。

 マンションなどの場合、 規格化された工業製品を組み合わせて居住環境を作っていて、 最初はきれいなのですが、 10年20年経つとだんだん汚くなってゆきます。 不動産価値の下降曲線の中に住んでいると感じになります。

 そのような素材は「作った当初のきれいさ」が目的なのであって「将来的などういった価値を持つのか」に対する配慮はありません。 「古い」イコール「汚い」と言う素材のあり方は問題です。

 建築家の出江寛さんが「奇麗(きれい)」は都市環境デザインとしては、 あまりよろしくないのではないかという興味深い問題提起をされています。

 京都の伝統的な町並みは古くなって汚れて「奇麗」ではありません。 しかし潤いがあって美しく、 絵になります。 「奇麗」というのはたかだかサニタリー(衛生的)だという程度でしかない。 むしろ「古美る(ふるびる)」という価値観を目指すべきだというわけです。 (1993年5月21日朝日新聞夕刊「奇麗」より「美しさ」)

 出江さんは「奇麗」に対する価値感として、 古くからある「わび」「さび」という価値観の見直しを提唱しておられます。 「わび」というのは正直な感性、 ごまかさずに素材の味をそのまま素直に出す、 謙虚にデザインする姿勢だと言われています。 コンクリートならコンクリートの素直な素材感、 時間が経って古びてきたら、 その古びた存在感を正直に出し、 美意識につなげていこうということです。

 このセッションの紹介の時に触れましたアレクサンダーの考え方も、 ガラス張りのビルは「奇麗」だけれども生命がない、 干している大根は「奇麗」ではないけれども生命感があって美しい、 と言い換えることができると思います。

 「循環型」都市環境デザインが成り立つためには、 以上のような価値観の転換が前提となるでしょう。 若々しく「奇麗」なものを好んだ高度経済成長期の価値観から、 成熟した高齢化社会の気風への転換とも言えましょう。

 「風格」や「エイジング」の価値を再発見し、 「古美た」素材に味わいを感させるようなデザインのあり方を考えなければいけないと思います。

 
 そのような「味わい」のある事例をご紹介しようと用意してきました。

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