環境共生型都市デザインの世界
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

循環の話

循環型外構の試み

画像na019
写真19 建替前の様子
 次に「循環」の話に入りたいと思います。 事例集で紹介しました「へその庭」は私の妻の実家で、 滋賀県の新興住宅地です。 写真019は着工する前の様子です。 家の建て替えに伴って庭を作り変えました。

 30年前に家を建てから、 親父さんが石を買ってきたり土を入れたりして庭を作ってきました。

私は庭つくりは基本的に活かせる物は捨てるべきではないと思うので、 樹や石はなるべく残して作っていこうと考えました。

画像na020
写真20 建替後の様子
 こういった姿になりました。 もとあった石積みを崩してラフなエッジにしました。 大きな樹は動かさずにそのままに、 中木は移植して使いました。 購入した高木はナツツバキ1本です。 もとあったものを移動させただけで、 ほとんどが作れたのではないかと思います。

画像na021
写真21 外構(改修後)
  写真021はいまの外構の様子です。 ツタが側溝まで垂れ下がってきています。

画像na022
写真22 雨樋から水を引く
 樋の水を引き込んで、 雨水の再利用を行っています。

画像na023
写真23 砕石側溝で雨を浸透
 屋根から樋を引いてきて水を落としています。 その水が砕石側溝に流れ出てきて浸透します。

画像na024
写真24 「さや」を再利用した水落しと庭園灯
 円形の瀬戸物がありますが、 清水焼などで焼き物が灰をかぶるのを防ぐためのカバーです。 「さや」と呼ばれています。 「さや」自体は何度も窯に入って焼かれており、 釉薬が飛び散った跡がついていて、 味わいがあります。 それを水落しや、 庭園灯に使いました。

画像na025
写真25 下から緑がのぞく板塀
 写真025は裏の塀です。 ここにはコンクリートブロック塀があったのですが、 あまりにも表情がなく、 かといって既製品のフェンスを使うのもいまいちなので、 杉板で作ってしまいました。 下から緑が顔を出すようにしました。

環境教育広場の試み

画像na026
写真26 富田団地(改修前)
 写真026は「富田団地」という団地の広場のリニューアルです。 これも30年くらい前にできた団地で、 小学校と駐車場にはさまれた、 ちょっとした広場があり、 ぼこぼこのコンクリート平板の道がありました。

画像na027
写真27 学校の入口(改修前)
 写真027が学校の入り口で、 校舎の壁面が非常に汚くなっております。 木造の校舎だったら古くても味わいが出るのですが、 コンクリートは汚れるだけです。 広場は学校の敷地ではなく、 都市基盤整備公団の敷地で、 なんとなく学校の前庭みたいな形で忘れられた広場です。 それを改修するにあたって環境教育をテーマにした広場を作ろうということになりました。

画像na028
写真28 改修後の様子
 改修後の写真です。 もともと2本の大きなケヤキがあり、 それが立派な門柱になっています。 石を置いたり、 枕木を置いたり、 先ほどのコンクリート平板を再利用して敷き直したものがあります。

画像na029
写真29 道草して楽しめる空間
 ここでは、 メダカやトンボのビオトープを作ることは難しいので「自分たちを取り巻く物質を五感で感じ、 物質の循環に思いを巡らせる」ということを狙いました。 そういう形で環境に興味を持ってもらおうというのが、 表立ったテーマです。 もうひとつの狙いは、 あまりにも校舎が無表情なので、 多彩な要素を持ち込んで、 道草して楽しめる空間にしようということです。 子供という「生き物」が生き生きと暮らせる「ビオトープ」を作ろうということです。

画像na030
写真30 道草して楽しめる空間
 枕木に植物を絡まらせて学校の入口を花で飾り、 緑のスクリーンをくぐり抜けて登校してもらおうというものです。

画像na031
写真31 身近な環境へ注意をうながす説明板
 浸透性の舗装とか、 雨水の行方とか、 廃材の再利用とか、 石や枕木などの素材の来歴について、 逐一、 説明板で説明しています。

画像na032
写真32 透水性アスファルトと再利用した平板
 とりはずしたコンクリート平板を敷き直して、 あいだに芝生を植えて舗装にしました。 主動線には使いにくいので、 脇の方に使いました。 主動線は透水性のアスファルトです。 予算がないし、 アスファルトも正直な素材でいいのではないかと考えました。

 また自然の石を感じてもらうため「この石は地中深くでマグマがゆっくりと固まってできた石です」といったことを説明板に書きました。 「一度この石を触って、 ざらざらした手ごたえを味わってください」といったことを書いています。 再利用したコンクリート平板も、 あと100年くらい経ったら石になるのではないかという感じがします。

画像na033
写真33 枕木の再利用
 枕木は、 遠く東南アジアからやってきて、 その上を何台も電車が走り、 いまはこういう姿になっています。 流転とか来歴を感じさせる存在感があります。

画像na034
写真34 コミュニティ花壇
 写真034の枕木の木組みは住民の方、 あるいは小学生が自由に使えるコミュニティ花壇として用意しました。

画像na035
写真35 砕石側溝
 砕石側溝です。 雨の水をここに流して浸透させます。 撤去したコンクリート平板を土留めとして再利用しています。

記憶を残す

画像na036
写真36 ヴォーリス設計の御幸町教会(改修前)
 写真036は京都市の「御幸町教会」です。 滋賀県とはゆかりの深いヴォーリスという明治時代の建築家が設計しました。 この建物は90年ぐらい経っており、 耐震性に問題があるため教会の創立100周年事業として耐震補強を行ないました。 それにあわせて私の友人の河合嗣生君が前庭をデザインしました。

画像na037
写真37 改修された前庭
 レンガ塀を撤去してオープンな一画を造りました。 レンガは取り外したものを再利用しています。 レンガも90年以上前に製造され、 それなりに由緒があるので大切にしましています。 車止めの笠石も、 レンガ柱に載っていた物を再利用しました。 敷石も一回はがしてから、 同じパターンで復元しました。

画像na038
写真38 道路ぎわの緑
 道路際の側溝ぎりぎりに緑を植え込んで、 流れてきた雨を最終的にここで受け止めて浸透させ、 道と広場の接点を少しあいまいにして柔らかな印象にしようとしています。

画像na039
写真39 記憶を伝える敷石
 観音開きの扉の痕跡を残した敷石です。

画像na040
写真40 移植して残したザクロの木
 このザクロの木も移植したものです。 信者さんの中に、 子供の頃にこの樹に登ったというおじいちゃんがいたので、 それでは残そうということになりました。

まとめ−素材を見直す

画像na041
写真41 生垣から道路へ「緑のグラデーション」
 「循環型」で味わいを持った素材、 あるいは再利用することで味わいを深めるような素材のあり方についてお話をしてきたつもりです。

このような素材が、 私たちの日常に深い味わいを与えてくれる事を願うのですが、 逆に私たちの日常に、 当たり前のように転がっている事物を見つめなおす事で、 様々なインスピレーションが得られます。

 この写真はたまたま宝塚で見つけた外構です。 かなり古い住宅地です。

側溝に草が生えいて、 生垣から道路にかけて緩やかな「緑のグラデーション」をなしています。 これは偶然そういう風になったのかも知れませんが、 こういう製品があってもいいのではないか、 意図的にそういう道の作り方をしてもいいのではないかと考えます。

画像na042
写真42 草が生える側溝
 アップです。 玉石を埋めた側溝で、 やわらかでみずみすしい印象です。

画像na043
写真43 屏風絵のような土塀
 これは私の家の近くにある土塀で、 季節ごとに花が咲くので写真を撮っています。 この写真は初夏のものでフヨウの花が咲いています。

 この土塀には瓦が埋まっています。 もともと家の屋根に使っていた瓦を、 再利用したものです。 土塀には雨水が染み込み潤いを持っているので、 このようにシダなども生えてくるわけです。

 素材というか、 都市の細部ではありますが、 都市の風土や文化を反映していると思います。

画像na044
写真44 土塀に生えるシダと埋めこまれた瓦
 これがそのシダです。 屏風絵のように楽しめる土塀だと思います。

 これらの事例のように、 何気ない日常の風景を再発見することから、 新しいデザインが生まれる可能性もあると思います。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ