環境共生型都市デザインの世界
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

ヨシと風車を用いた植物都市

画像ki017
写真17 出雲・神西湖
 つぎは、 出雲の湖でこんなことを考えていたということを紹介します。

 出雲市の神西湖と言う場所を想定して行われた環境芸術大賞のコンペに応募して大賞をいただいたものですが、 実施には至っていません。 神西湖は流入する河川からの生活排水によって水質が悪化していますが、 湖畔には琵琶湖と同様ヨシが生えています。 このヨシを使って何とか浄化する仕組みを作れないだろうかと考えてみたものです。

画像ki018
写真18 一般住宅の「築地松」
 出雲地方には「築地松」という自然を利用した造形があります。 北西からの強い風が吹く地方なので、 風と雪から住宅を守るための防風林みたいなものです。 それがこのように刈り込まれていてきれいな形をしています。 これと先ほどのヨシ、 そしてこの地の特徴である風を組み合わせて何かできないかと考えました。

画像ki019
写真19 「植物都市」構想(コンペ案)・平面図
 この計画は「植物都市」というタイトルをつけました。 基本的な構成は敷地の真中の部分に2本の川を繋ぐように水路を作り、 他はほとんどそのままにしています。 そして水路に沿って風車を並べるという、 ただそれだけのものです。

画像ki020
写真20 「植物都市」水路部・模型
 もともと湖に面してヨシが生えているところが2mほど高くなっていました。 その高低差を利用して水路を作っています。 水路の水面の高さは湖水面と同じで、 その周囲の2m高いところに風車を設置しています。

 先ほど言いましたように風が強い地域ですので、 風のエネルギーを使った風車で湖と川の水をくみ上げ、 ヨシの群落内に水の流れを作り出そうということを考えていました。 水がヨシの群落の中を流れていくことによって植物による浄水場を作ることを考えていたわけです。

画像ki021
写真21 出雲にある風車
 出雲の海岸沿いにある風車です。 日本でも風力エネルギーを使うという話はでていますが、 まだ実験段階ですから、 今は発電用の風車が置いてあるだけです。

画像ki022
写真22 縦形の風車・模型
 私が考えた風車は縦型の風車です。 サボニウス型の風車で、 どちらの向きから吹く風のエネルギーも吸収し、 トルクがかなり発生します。 ここでは風を受ける部分を全てヨシで作ろうと思って風車の形を決めました。 ヨシはここにはいっぱいあるわけですから、 この地のヨシを使って風車を作り、 この地の風を利用し、 この地の水を浄化しようという論法を考えたわけです。

画像ki023
写真23 風車による揚水の仕組み
 右上部分が風車で、 その下にポンプをつけています。 アルキメデスポンプという、 回転することによって水をくみ上げる原始的なポンプで、 風車の回転がポンプに伝わるような仕組みです。 そして水が流れていき湖に流れ落ちる間にヨシの群落があるようにしています。

画像ki024
写真24 自然浄水場・水循環模式図
 その模式図です。 図の▲印のところに風車があり、 ヨシの群落は神西湖の右側にあります。 図の中央部分に水路を設けて川や湖の水を取り入れ、 それを風車とポンプで上にくみ上げます。 水が湖に流れ落ちるところを水路の左側だけに限定すると、 必然的に図のような水の流れができるわけです。 その間に水の浄化ができるような仕組みを作るということです。

画像ki025
写真25 水郷公園・船着場模型
 ただ浄水場を作るだけでは面白くないので、 この場を水郷公園にすることを考えました。 写真左端が船着場になっています。 ヨシの間をボートで巡っていくような公園を考えています。

画像ki026
写真26 水郷公園・模型アップ
 先ほど言いましたように、 湖レベルの水面があり、 その上にヨシが生えている水面があって、 それらが立体交差しているような構成になっています。 そういったところを船で散策できたら面白いだろうという私の感じたイメージをもとに作っています。

画像ki027
写真27 水路のイメージ
 写真027はそのイメージをスケッチしたものです。 「植物都市」と名前をつけたのは、 ヨシの町を散策していくようなイメージからです。

画像ki028
写真28 水路のイメージ
 ヨシの水位にレベル差があるので、 前の写真とは違ったイメージになります。 出雲は山が非常にきれいに見えますので、 このようなイメージになるのではないかと思っています。

画像ki029
写真29 ヨシの成長で水路のイメージも変わっていく
 初めはまっすぐに並んでいたヨシが自然に凸凹になってもいいのではないかと思っていました。 ボートが通れさえすれば、 そのほうが自然の情景が作れていいのではないかと思った為です。

画像ki030
写真30 ヨシ群落内の遊歩道
 船が通れるところとは別にヨシの中を人が歩ける道を作っています。 そしてその中には環境芸術の展示スペースを設けています。

画像ki031
写真31 環境芸術の場(夏の情景)
 例えば、 これは夏の状況です。 ヨシは1年で大きくなるので、 このような情景になります。 ヨシは四季の変化によっていろいろな表情を見せることができますので、 春、 夏、 秋、 冬の情景を描きました。

画像ki032
写真32 環境芸術の場(冬の情景)
 次に冬の情景を見てもらいます。 刈り取られると写真032のようになります。 この環境芸術の場は円柱を立てただけのものですが、 逆にヨシの成長で、 季節によって作品の背景が変わっていく空間です。

画像ki033
写真33 台地状の部分への提案・模型
 写真033は同じ計画で、 すぐ横の台地状の部分の提案も求められていたものです。 ここは埋め立ての為の土取り地となっていた場所です。 山の上に平らな部分があるので、 そこをどうしたらいいかということを求められたわけです。 ここでは「築地松」を用いた造形を試みました。

画像ki034
写真34 遊べる美術館のイメージスケッチ
 この部分は今回の趣旨の環境共生とはあまり一致しないものですが、 遊べる美術館というイメージです。 築地松の壁面を使って展示する屋外美術館です。 先のヨシの群落と同じように、 ここでも通路を通っていくとまた向こうに道が見えてくるようにしてあります。 わたしが迷路性があるものに興味を持っていたので、 そのような造形にしています。

 スライドは以上です。

 最後に、 「共生」と「寄生」ということについてお話ししたいと思います。 昨日少し調べてみたのですが、 その違いは相手に害を与えるか与えないかということのようです。 共生はお互いに利益を得て共同生活を営むこと、 それに対して寄生は害を与えながら自分が成り立っていくことだそうです。 今回見ていただいたものは、 自分ひとりで何とかしようということで計画したものではありません。 自然の原理や治癒力を使いつつ、 それでカバーできない部分については人間が処理していこうという考えが一番妥当なのではないかと思っています。 別の言い方をしますと、 「環境共生」においては人間は様々な自然原理を結びつけ、 仲介をする役割ではないのかということです。

 いままでは、 寄生型の都市環境といいますか、 人間が何でもやってしまおうということで、 「浄化」ということも植物や微生物には任せないという形だったと思います。 それを共生型と言われるようにする為には、 ある程度自然に任せることだと思います。 環境共生というのは、 その代わりにオーバーフローした分は人間が処理して、 人間と自然が共同生活を営むということではないかと思っています。

 以上です。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ