私達は土地利用と環境共生というテーマで議論しました。
まず増田先生が、 関西圏と東京圏の定量的なデータを図示しながら、 森林面積など自然構造から見て都市構造がどうなっているかを説明されました。
その中で、 関西圏を構成する重要な環境要素として淀川水系があること、 その水系ごとに小さな集落や地域ブロックが形成されており、 水系を中心とした文化圏が構成されてきたという指摘がありました。
そうした水系を中心とした都市圏を何百年にも渡って形成してきたのですが、 都市と自然との緩衝帯となっていた二次自然地が、 近年の都市の拡大によってなくなってしまい、 その結果、 都市が直接自然と向き合ってしまっています。 その結果、 自然の脅威から都市を防衛する堤防や護岸が、 都市と自然との間の断絶を作り出しています。
この緩衝地帯、 二次自然地を再生するためには、 都市と、 農村(田園地域)や渚といった緩衝地帯、 その奥の森林という三つを総合的に扱う計画論が必要だというご指摘でした。
最後に増田先生が提案されたのは、 風景主義というキーワードです。 これまで都市の骨格を構成し都市の発展の方向を決めてきたのは「物資を輸送する動脈型骨格」、 すなわち交通網の計画です。 しかし、 これからは自然地形をベースにした風景から都市像を描いてゆくことが重要となってきます。 つまり、 動脈型骨格の都市計画に変わり、 バランスのとれた土地利用を実現する風景主義による計画論が求められているということです。
次に都市の規模に関して、 一つには大都市だから都市的な機能を充足できるとは限らないこと、 また日本の都市が抱える問題の多くが都市への空間的制約からもたらされていることを指摘されました。
また環境共生から見た都市の最適規模があるかどうかを検討され、 それが思いのほか難しい議論であることを示されました。 簡単に言えば、 たとえばエネルギー消費量といった指標を用いて、 その最適化が可能な都市の規模があるのかどうかが第一点です。 これは大規模な都市ほど効率が良いという通説はあるけれども、 疑問も出されており、 まだ解けそうにないそうです。
私が注目したのは榊原先生がもう一つの方法として提案された「満足化」の議論です。 これは「空気がきれいだ」とか「通勤時間が短い」といった複数の目標を用意し、 それをクリアできる都市の規模を考えようというものです。 これは定量的な概念だということでした。
また生物の生息環境を守るといった意味からの都市への制約についても冷静な議論が必要だとのご指摘であったと思います。
さらに、 交通手段の成熟で新しい都市構造の在り方、 ネットワークが見えてきたか否かについて、 前提として成熟と言うには次の三つの条件が必要だと指摘されました。
(1)交通手段が成熟していくと土地利用とのバランスがとれてくるはずである。 だから交通需要がコントロールされた状態になるはずだ。 また交通事故も快適環境に相応しい程度まで減っていなければ成熟とは言えない。
(2)震災時によく指摘されたことだが、 成熟した交通手段は複数のネットワークを持っており、 一ヶ所が壊れたり補修中でも途切れてはならない。
(3)成熟した交通手段では、 道路そのものがエコロジカルである。 これには限界があるが、 浸透性など道路自体が環境に配慮していることが上げられる。
以上、 3つの条件です。
たとえば琵琶湖の総合開発プログラムや滋賀県の風景条例には、 コミュニティが持つ農地とか水路の水質改善を応援する仕組みがあるそうです。 そういった仕組みを広げ、 湖全体の水質改善につなげようとの狙いですが、 同様の積み重ねが大阪湾に連なる関西全域の扇状地(環境域)でなされていくべきだとのご指摘です。
また、 先生は地形条件が違うといかに都市の構造が違ってくるかを、 上海とサンパウロを例にあげて紹介されました。 上海は沖積平野にできた都市でありサンパウロは丘の上に出来た都市です。 また関西と関東を比較され、 大阪都市圏は東京と違ってもともと一極集中しにくい分散型の都市構造であることを指摘されました。 関西は急流河川の扇状地ごとに盆地があり、 それが集まって形作られる複合盆地世界であり、 それが関西の自然だけでなく歴史を形作ってきているとのことです。
では、 関西圏の都市構造をどう評価するかですが、 第5次近畿圏整備基本計画の中で提案された「多核格子構造」(一極集中型ではなく都市が面的な格子構造になっていること)は悪くないので、 これに多段階の環境域というシステムをどのように組み合わせるかが、 都市計画や地域計画のこれからの課題だとのご指摘でした。
まずは人口増と都市圏の拡大は止まったので、 これまでの高度成長期とは違う考え方のまちづくりが必要になってくるだろうということ。 特に、 これまでの市街地化する都市域とその周辺の調整区域との関係については一定評価できるのですが、 それをどう新しいプログラムにしていくかが課題です。
最後に大都市圏全体でひとつの環境域とする考え方、 例えば大阪湾全体の水質をひとつのメルクマール(指標)にして大都市圏の環境水準を考えていく仕組みが必要になるだろうということです。 そしてそのためには、 地域全体を俯瞰的に見る視点と、 集落単位で見る小さな視点での環境改善の二つを、 同時に考えていかねばならないだろうという結論で討議は終わりました。
討議が終った後で廊下で聞いたのですが、 最近は町村合併が盛んに言われているようですが、 環境単位という要素もこれからの行政連携を再構成する要素になるのではないか。 そういう広がりを持った意見も出ていました。
これでセッション1の報告を終わります。
session1の報告
地形と水系を基調としたランドスケープ(増田先生の報告)
堀口:環境共生と都市基盤(榊原先生の報告)
榊原先生は、 まず環境共生には三つのレベルがあるという指摘をされました。 (1)自然を相手にしない、 相互不可侵と、 (2)べったり一緒に自然の中で暮らすという両極にあり、 その中間のレベルとして(3)共和的共生があるのではないかとのご指摘です。 (3)は相手の存在を認識しながら、 どううまくつき合っていくかということですから、 私はそれが今日議論している環境共生ではないかと理解しました。関西大都市圏の環境特性と「環境域」の概念(土井先生の報告)
3人目のパネラーの土井先生は、 関西を急流河川による小さな扇状地ごとのユニットが多段階に構成された集合体ととらえ、 そういった小さな環境域でゼロエミッションへの努力を積み重ねることで、 関西全体の環境改善を考えるべきだと主張されました。セッション1のまとめ
3人のパネラーと会場からのご意見を整理すると、 セッション1のまとめとしては次のようになります。
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