このプロジェクトは、 1990年の春にスタートし、 完成までに3年あまりの期間が注ぎ込まれ、 多くの技術者の参加を得て実現にこぎつけている。 それを短時間の見学でコメントするわけだから、 的はずれなことになりかねない。 設備システムなどについても、 多くの新しい試みがなされているが、 空間的な観点に限って、 特に立体街路における共用部分と専用部分の関係について感想を述べてみたいと思う。
今日の持家型集合住宅の区分所有権の考え方によると、 住戸の壁、 床、 天井では室内の上塗り部分が専有部分とみなされ、 玄関ドア、 ガラス窓、 ベランダ・バルコニーは専有・専用性が強い部分だが、 前2者は建設省の標準規約では内側部分のみが専有部分とみなされ、 後者は避難路になることから法定共用部分とみなされるのが一般的である。 つまり、 法的には、 住戸の内側表面からの部分のみが権利としての専有であり、 専有部分と共有ないし共用部分を隔てているのは内側の被膜ということになる。 このような関係を、 ここでは専用部分と共用部分の関係としておきたい。 持家型集合住宅の各住戸がこのような位置づけにあるから、 一定の範囲で内部の造作は変化させることができても、 それを外部にまで及ぼすことは制度的には不可能なのである。 集合住宅に暮らしていて、 入口回りやベランダを、 自分の好みにあわせて変えてみたいと一度ならず考えたことがある人がおおいのではないだろうか。 これが一戸建ての住宅であれば、 内部も外部も自由(もちろん一定の範囲でのことだが)に変えることができる。
このプロジェクトでは、 住居づくりのフレキシビリティについて、 さまざまな可能性が示されている。 特に、 共用部分と専用部分の関係のフレキシビリティがわかりやすく示されているのが、 コの字型住棟の中央部分の南面住戸群である。
南側の通路部分から直接アクセスできる個室群によって構成される〈自立家族の家〉、 南面部分を縁側と庭にしつらえた〈ハーモニーの家〉、 通路から格子越しに作陶の様子をうかがうことができる〈手づくり工房の家〉、 通路沿いに蔦がからまり通路の上部が藤棚になっている〈『き』がわりの家〉。 筆者の勝手な想像だが、 それぞれが、 路地にある長屋、 庭付き一戸建て、 通り沿いの町家、 緑道沿いの一戸建て住宅をイメージして設計されたのではないだろうか。
こうした住戸群をみると、 集合住宅でも戸建て住宅に近い空間構成を獲得できることがわかる。 共用部分と専用部分の関係をどのようにするかは、 居住者の意向に沿って決めることができるわけだが、 図面上だけではなく、 あらかた建物ができた後でもそれが可能である。 それが2段階供給方式である。 さらに躯体・住戸分離方式によって、 専有ないし専用部分の設計上の自立性が高められている。
南に向かって開いたコの字型の囲み配置はいい解決だと思うし、 さまざまな場所からの視線を集める、 ブリッジを含んだロの字型の立体街路の構成も、 集まって住まうことを視角化する上で有効な解決だと思う。 その点からすると、 南面部分を縁側と庭にしつらえた〈ハーモニーの家〉における共用部分と専用部分の関係には疑問がないわけではない。
この住戸の構成は〈バリエーション〉のひとつとして計画されたのだと思うし、 現在のところ通路と庭の間には特に柵のようなものは設けられていない。 しかし、 現状のままでも、 囲み庭に巡らした立体街路が、 ここでは大きく北側に迂回しているし、 やがて居住者が通路と庭の間に柵でもつくってしまうと、 専用部分と共用部分の融合性が失われてしまう。
居住者の意向にまかせれば、 このようなタイプが多くなることは当然考えられる。 そのことを考えれば、 立体街路のような基本的な共用空間は、 あらかじめつくり込んでしまうか、 あるいは通行を妨げないという利用上のルールを設定することが必要であるように思う。 言ってみれば、 それは立体住区のなかの地区計画である。 そのあたりについては、 これから住まうことになる居住者の意見や利用の仕方に関する調査などを通じて、 評価されることに期待したい。
躯体。 住戸分離方式は、 躯体を公的直接建設による賃貸、 住戸を個別建設とするのが元来の典型的イメージである、 と聞く。 その実現のためには解決しなければならない制度的、 技術的課題は少なくないが、 躯体・住戸の部分的な分離方式は、 セミ・オーダー的な住戸供給方式として普及する可能性がないだろうか。 例えば、 かつて住宅・都市整備公団が西葛西クリーンタウンで試みたリビング・アクセスがある。 このアクセスに沿った住戸の壁面部分に、 部分的な躯体・住戸分離方式を適用することによって生み出せるかもしれない、 共用部分と専用部分の新たな融合関係を想像してみるのも楽しい。
最後に、 全体的な印象について少し述べておきたい。 デザイン的にフレームを強調しているのは、 躯体・住戸分離方式の実験的な意味を強調しているためと思われるが、 サイトの〈High-Rise of Homes〉を思い浮かべてしまう。
また、 3〜6階部分とそれから下の階の階高やスパン長を変えるために、 接合調整階にY字型の柱を導入している。 これも未来性を強調したデザインとみることもできるが、 町並みに馴染むといった観点からすれば、 もう少し違った解決がなかったのだろうかと思う。