そんなことを考えたのも、 以前JUDIのセミナーを尾道で行ったことがあるのですが、 傾斜地を細い路地でつないでいる街のありようがNEXT 21の立体街路の性質と似ていると思ったからです。
尾道でもいろいろな法的な問題があって、 車がアクセスできないなどの問題を抱えています。 しかし、 街全体を集合住宅みたいなものと考えて、 街路ではなく通路だととらえれば別の発想が出来るのではないかと思いました。 路地で出来ている街の骨格をスケルトンだと考えれば、 インフィルの家を取り替えていき、 安全性が高い良質な住まいが確保できる。 そんなプランが出来るのではないでしょうか。
これはNEXT 21だけでなく、 もっと大きなテーマになるのですが、 ここからこれからの街の方向性が出てくると良いと思います。
質疑
立体街路と尾道の街の類似性
丸茂弘幸
私は都市コミュニティの形成について関心があります。 一番面白いと思うのは立体街路のあり方で、 これを社会に定着させて欲しいと思っています。 それと同時に、 街路の通路化と言えるでしょうか、 市街地の中でもこれと同じことができないだろうかと思うのです。
1階平面図 |
庭のあり方については、 私的な庭だと言われればそうだなと思いました。 ただ、 都市の庭ではなく私的な庭になっているのは、 この庭が人間のための庭ではなくて野鳥のための庭だという色彩が強いせいもあるのです。 設計段階から造園の方と日本野鳥の会のご協力で進められていて、 その指導で1階の庭は立入禁止になっています。 当初は「なぜ入れないのか」という苦情が相当あったのですが、 第一に野鳥のための庭だからと押し切ったという経緯があります。
また、 段差の多い庭に子供が入って事故でもあったら責任が取れないということで、 全面的に人間の立ち入りを禁止したという背景もあります。 ですから、 私的な庭なのに入居者は入れないし都市の庭にもなっていないとのご指摘はその通りかもしれません。
あと入居者についてですが、 私が一番入って欲しかったのは、 これからのライフスタイルの主流になりそうな30代あるいは40代の人たちだったんですが、 大阪ガスの社内で募集すると20代の結婚したての人たちしか応募してこなかったのです。 私自身は高齢者を含むもっといろんな人に入ってもらいたかったのですが、 この辺が社内応募の限界だと感じました。 高齢者に入ってもらいたくても、 社内には55歳定年ですから高齢者なんていないし、 子供を抱えている家族は相当なエネルギーがないと引っ越しなんてできないんですね。 そういう現実がありまして、 入居者の選定に偏りがあるとのご指摘はその通りだと思います。
もちろん日本型の集合住宅が必要だということについては、 私も同感なのですが、 それならばなぜ低層高密型の集合住宅を追求すべきではないのか。 コスト的にもリアリティがあるものを追求するべきだと思うのですが、 いかがでしょうか。
私が言いたかったのは、 必ずしもリビングアクセスでなければいけないということではなく、 集合住宅の廊下部分がもっと公的な空間として社会ストックとして認知されるようなものになってほしいということです。 ちょうど町なかの路地がそうして社会的に認知されたように。 そんな状況になることが望ましいということであり、 集合住宅の通路と市街地の路地空間が相互に接近しながら市民権を得ていってほしいと考えているところです。
しかし、 この立体街路は都市の構造と密接に関わるのではないかと考えています。 低密に住宅が広がってそれで都市が成り立つのであれば、 それにこしたことはないのですが、 都市の居住を考えて積層せざるを得ない場合は、 やはり積層空間そのものも都市空間だと考えるべきだと思うのです。
立体街路がここで使われている意義を申し上げると、 集合住宅の中に街路空間を個別に作ったという発想ではなくて、 外からの街路空間が連続して中まで続いて我が家につながるというのが正しい理解だろうと思います。 つまり、 NEXT 21の中だけで成立している空間ではなく、 外と均質な空間が連続している。 例えば、 5階の住人が立体街路を介することで、 別の敷地の人ともつながっていける。 そこに意義があると思うのです。
今のマンションは、 オートロックのドアで一度閉じられてしまうと、 別棟の住宅とはまるで交流がありません。 外と家のつながり方が、 まず道路空間からオートロックを経て共用廊下を歩いて初めて我が家にたどり着くという構造になっています。 何段階も経なければ個人の空間にアクセスできなくなっていますから、 逆に公的な空間をのばしていく立体街路の意義があるのではないかと考えています。
鳴海:
最後に有益なお話をいただきました。 今年最初のセミナーのテーマに21世紀の住宅を持ってきたせいか、 いろいろと貴重なご意見を聞くことが出来たようです。 佐藤さんからのご指摘は非常に重要な問題提起だったと思います。 今年のセミナーの中で、 ぜひ佐藤さん主宰でこのテーマを掘り下げていただけたらとも思います。
今日は加茂さんの報告を中心にセミナーを開催いたしました。 加茂さん、 ありがとうございました。
庭のあり方と入居者の選定について
加茂みどり
生活感のないデザインという点では、 5年のうちにリフォームした住宅がすでに2軒ありますし、 そうかもしれません。 お金さえあれば他にも変えたいと思う住戸があるのですが、 予算不足でなかなか変えられないという事情があります。
立体街路への疑問
佐藤健正
丸茂先生のご意見に反論するわけではありませんが、 こういう積層型の共同住宅の立体街路という考え方について、 私個人は疑問を持っています。 アパートの中に回遊性をつくることが本当に必要なのでしょうか。 路地空間に模して莫大なコストをかけてつくる立体街路にどれだけの意義があるのか。 また、 入居者が評価しているのは多様なルートが選択できることなのか、 住まいに中間領域を持つことへの評価なのか、 共同住宅の教養部、 中間領域の意味について、 もう少し厳密な分析が必要だと思うのです。 その辺が安易に議論されている面があるのではのではないかと、 かねてから思っています。
集合住宅の廊下も公的空間として認知するべき
丸茂弘幸
低層高密で立体化していない集合住宅とNEXT 21を比較するのは難しいと思いますが、 私は最初に言ったように歩いていて楽しかったし、 市街地の中でどうしても積層せざるを得ない集合住宅のあり方としては評価しています。 ただ基本的に社宅であり、 居住者にとっては与えられた空間としてあるという問題があるのですが、 ここが分譲住宅として提供された時、 この空間のあり方が人びとに拒否されるのであれば、 一般の人に受け入れがたい部分が何なのかをもっと検証していく必要はあるでしょう。
外からの空間がつながる立体街路
加茂みどり
立体街路の意義について、 私なりの意見を申し上げます。 莫大なコストがかかり、 そのコストに見合うだけの効果があるのかという疑問については、 私も自然な疑問だと思います。 例えばこの住宅の賃貸等に供することのできる面積は、 全体の面積のうちの55%(レンタブル比が55%)なんです。 普通は85%はないといけませんから30%ぐらいが通常はありえない部分です。
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