行ってみたい大阪・船場
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

 

1 まちの「断絶と連続」
芦屋市若宮地区の震災復興事業

 

 一つは、 話の中で繰り返し出てきた「断絶と連続」についてです。 これについて我々はもっときちんと考える必要があると思います。

 今までの新規開発やクリアランス型の開発は、 あまりにもまちの断絶の要素が大きすぎました。 住む・働くという生活の歴史を積み重ねてきた場所のリ・デザインにあたって、 もっと連続という視点を考えるべきでした。 デザインは新しいものの創造ですが、 その新しさと生活の連続は相反するものではないし、 その延長線上に環境共生や持続できるまちづくりがあるのだと思います。

 これは理屈としては以前から考えていたことですが、 最近「やはりそうだ」と実感できたことがありましたので、 その話を紹介させていただきます。

 

 GU計画の後藤さんと一緒にさせていただいている仕事で、 芦屋市の若宮地区の住環境整備事業です。 これは震災復興の事業で、 改良事業という手法を使いました。 この地区の震災の被害は全壊が6割、 半壊3割、 一部損壊1割で、 被災率100%、 完全な姿で残っている建物がほとんど見あたらないようなひどい状態でした。 それを再整備していくプロジェクトです。

 震災以前は、 戸建て住宅と2階建てアパートが建ち並び、 いわゆる「密集不良地区」と言われる地区でした。 通常ですと、 他地区で行われた復興事業のように建物の建て替えにあたって集合住宅にして共同化してしまうところです。 芦屋市も当初、 集合住宅による建て替えや、 集合街区の提案をしたのですが、 住民が猛反発したのです。 住民の言い分を一言で言うと「昔の面影がかけらもない所に住みたくない」、 つまり断絶されたまちはいやだということです。 自分たちが今まで積み重ねてきたものを残したいと市とやり合うことになりました。

 そんな状況の中に後藤さんが入られ、 「戸建て住宅を残そう」と、 大胆な提案をされました。 しかも、 建て替えの際、 同じ場所でやるのもいいし、 地区内移転をしても良いから無税にするというものでした。 従来の住環境整備の考え方からすると、 これは直さなきゃいけない不都合な部分を残してしまうことなのですが、 あえてそうすることで地区内に小さな「タネ地」をいくつも作り出しました。 そのタネ地に、 自力再建が不可能な人のための小さな単位の公営住宅をいくつも埋め込んでいこうという計画案です。

 道についても、 法律上、 路地的な空間が道路に作れないなら、 建物の中に作ろうという発想で、 公営住宅の小さな単位の建物の中に古い記憶の道を引き継ぐように、 通り抜け路地を作り、 まちの道路と連続させるようにしています。

 その結果、 地区内の七ヶ所に、 5年かけて小さな単位の公営住宅が建てられました。 最初のうちは、 地区内は空き地だらけですから新しく建った公営住宅が目立ち、 まちの全体像が見えない状況だったのですが、 そのうち公営住宅の建設を追い越すように戸建て住宅が建っていきました。 面白いのは、 住宅を塀で囲ったりしないで、 生活や緑がまちの中に表出されるような形が多く作られたことです。 広場や空き地も上手に作られていて、 風の通り抜けも良く、 六甲山への視界も開けています。 我々が大切にしたかったことが思っていた以上に実現され、 とても気持ちの良い環境になっています。

 以前セミナーで、 大阪大学の小浦さんが「まちの景観づくりには統一感が必要だ」ということに対し、 反対論として「地震の後、 ハウスメーカーの家ばかり建って、 たしかに統一感はあるが、 全然美しくないまちになった」という話をされたことがありました。 それは「生活感の完全な断絶」になってしまったから、 統一されてもなじめない光景になったということだったのではないでしょうか。 そんなまちもこれから時を重ねるにつれてなじみのある光景へと変わっていくのでしょうが、 今はやはり昔と比べるとかなりのギャップを感じます。

 芦屋の若宮地区は、 ほとんどの家が建て替わり、 しかもハウスメーカーの家がほとんどだというのに、 昔の空気の流れを感じるのです。 若宮では敷地の形状から標準プランでは立ち上がらない例が多く、 ハウスメーカーの家もかなりの部分が特殊プランで建ち上がったからです。 そうした戸建てと小さな単位の公営住宅が、 ヒューマンスケールの、 連続感のあるまちを作り上げました。 新しい住宅ばかりなのに、 昔からそこにあったように見えるのです。

 一例ですが、 「新しいものを創出しながらも、 昔の流れを断絶させない」という例です。 船場のまちも新しいものを入れつつも、 まちを訪れた人が楽しめるようになって欲しいと思います。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ