都市再生の都市デザイン
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都市開発プロジェクトにおける都市デザインの実際
〜設計段階〜

 

帯広の大きな空間の設計

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図27 帯広駅周辺地区都市デザイン基本計画
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図28 帯広・照明プラン
 基本計画が終わると設計段階に入っていきます。 帯広の設計段階で一番大事なことは大きな空間をどう作るかということでした。 ここからは専門デザイナーの方がたくさん加わり腕をふるってもらうことになります。

 帯広のプロジェクトでは、 公共空間の設計はランドスケープデザイナーの下田明宏さん、 照明計画は面出薫さんにお願いしました。 設計段階はそうした専門デザイナーとのコラボレーションです。

 私達が下田さんに要求したのは「駅前広場をにぎやかにしてほしい。 そして社会的に意味がある空間にしてほしい」ということでした。 「社会的に意味がある空間」と言ったのは、 修景的に美しいだけではダメだということです。 帯広の景観形成計画の基本方針は「水と緑」をキーワードにしているのですが、 下田さんには「修景的な緑ではなく、 意味のある緑の入れ方をしてほしい」と申し上げました。

 いろいろと議論していく中で出てきた案のひとつに「リスが遊びに来る駅前広場」があります。 この通りを1キロ半程行くとリスがいる緑が丘公園があるのですが、 そこのリスが遊びに来れるような駅前広場だったら面白いということで、 彼が選んできたのがアカガシワというリスの食餌植物で、 これを街路樹や南公園内の樹木として選びました。

 もうひとつ下田さんが非常にいい提案をして下さったのですが、 駅前広場の南側に建つ定住交流センターの前に、 植栽を使って迷路を作ることになりました。 子供たちがここで遊べるようにしようという提案です。

 南公園内のプーゲンスウヒの植栽は空間的に斜めに構えることによって歩道ぎりぎりの所まで樹木が来ることになりましたが、 歩く人に樹木を意識してもらおうという下田さんの提案です。 そうした下田さんの設計に合わせて、 面出さんが照明をいろいろと考えてくれました(図28)。


丸亀駅前広場

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図29 当時の丸亀市が提案していた都市計画決定図
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図30 修正案(加藤氏による)
 もうひとつ別のプロジェクトを紹介します。 図29は、 香川県丸亀市の駅前広場の都市計画決定された段階の絵です。 基本計画までは有光さんや井口さんなどがされていて、 駅前広場の形状は決まっていました。 我々はそれ以降、 1988年から参加しました。

 計画案では、 駅前に丸亀出身の猪熊弦一郎を記念した美術館と図書館が建つ予定になっていました。 我々が参加したのは猪熊さんの縁で建築家の谷口吉生さんが設計をやり始めたのですが、 その谷口さんから我々に「駅前広場一帯の都市設計をやってほしい」と依頼を受けたことがきっかけです。

 谷口さんとは昔からのつきあいがあったのですが、 その話を聞いたときは「えらく遠いところだな」と思いました。 正直言うと、 谷口さんの顔を立てるつもりで、 一度だけ顔を出せばいいだろうぐらいの気持ちでした。

 ところが、 市から提示された図(図29) を見てみると、 どうもおかしい。 そこで気がついたことをいくつか申し上げました。 例えば、 駅前広場への自動車の入り方がおかしい。 高架下から人が出てきても5mぐらいのスペースしかないから、 すぐ車が通る道に面してしまい危険なんです。 おまけにバスやタクシーの待合いスペースもない。

 配置されている緑地は、 孤立していて眺めるだけの場所になっている。 これでは地方の駅前によくある「○○宣言都市」の看板を立てるための緑地になってしまいます。 何よりも私が気になったのは、 美術館と駅前広場の間に植栽があることで、 両者の空間の連続性や駅前との一体感が絶たれてしまっていることでした。

 また、 駅前広場地下に計画されている駐車場を出た多くの車は前面の道路が西方向への一方通行ですので、 西に向かって直ぐに左折して街の方にいくことになりますが、 そのまま西方向へ行く車と短い区間での折り込みが生じます。 危険なことです。

 それから、 JR丸亀駅の南東にある土地は、 JRの「隠し財産」として再開発事業のために持っていた土地なんですが、 駅前広場を作るためにぜひ市で買い取るべきだと申し上げました。 というのは、 駅前広場は道路区域ですから火を使ったり、 物を売ったりすることが出来ないことになっているのですが、 ここを買い取ることで屋外カフェやいろいろなイベントなどにも使える土地を駅前広場に隣接して持つことができるからです。

 それともう一つ気になったのは再開発区域に隣接して、 旧道が残っていることです。 連続立体交差事業に合わせて新しい道路が出来ているのに、 なぜ旧道を残すのかと聞くと、 旧道を隔てた街区に都市計画の駐輪場があるからだという答えでした。 8年ほど前に国の補助金で建てたものですから壊すわけにはいかないというのが理由でした。 しかし、 再開発ビルを建てるつもりだったら、 これを壊して各階の床面積を大きくした方がテナントになるデパートのためにもいいと提案したんです。

 始めて丸亀に行ったにもかかわらず、 これは壊せ、 あれはやめろ、 あそこは買えとかなり大胆不敵なことを言いました。 しかし、 私自身はそのままの計画がいいとは思えなかったし、 私の提案の方がいいと信じて疑いませんでした。 また、 それぐらい思い切った事を言えば私のお役目も終わりだという心づもりもあったのです。

 ところが一週間もたたず、 丸亀市の助役さんから「提案は全て受け入れる」と連絡が入り、 我々も本腰を入れて関わることになりました。 そして、 我々が再度考えたプランが図30です。

 本格的に関わるようになってからそれ以前の調査報告書を見ましたが、 私の指摘のいくつかは有光さん達がすでに指摘されていました。 おそらく丸亀の人たちは「違うコンサルタントが来ても同じことを言うんだな」と、 コンサルタントを信用する気になったんじゃないでしょうか。

 さて私達のプランは以下のようなものです。

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図31 丸亀駅周辺地区の基本設計
 美術館を遮る形になっていた修景緑地をやめて、 右側に移動し、 空いたスペースを市民のための広場にしました。 道路の入り方も再検討し、 広場を区切らない形にしました。 駅前広場に入る道路を駅前の一方通行の道路と抱き合わせることにしました。 これにより、 交差点の数も減らすことができます。

 また元の計画では、 美術館と広場の間の道路に右折して駅に入ろうとする車が溜まることになります。 それが駅前広場と美術館の空間の連続性を絶つことになるのですが、 一方通行の道路と抱き合わせることより美術館の前に車が溜まることをなくすこともできます。

 地下駐車場の出口は駅前広場側から再開発ビル側に変更しました。 再開発区域の中の地下駐車場と駅前の地下駐車場が同じ出口を使えるようにする代わりに、 出口を再開発区域側に設けるようにバーターに持ち込んだのです。 その辺は調整の話になります。 再開発事業を担当している当時の準備組合の方たちも含めて話し合いをしました。

 都市計画駐輪場の南側は民地だったのですが、 民地の人たちにも話し合いに参加してもらって、 市街地再開発事業の都市計画区域を拡大しました。 我々は設計段階から入ったのですが、 基本計画でやるようなこともやったわけです。

 その後のランドスケープについてはピーター・ウォーカー氏に入ってもらい、 彼が提案した絵を実行していきました。

 谷口さんの設計では、 美術館の前に屋外のアートを展示するスペースを確保していました。 市街地再開発事業区域の拡大に伴って壊すことになった駐輪場をこのスペースの下に半地下で入れてくれと頼みました。

 その理由は、 駐輪場は使いやすい位置でないと使われないので、 本当は平面で計画するのが一番いいのですが、 アートを置く空間を半階分(1.1m)高くすることによって駅前広場の中の市民のためのスペースに対して舞台としても機能するように考え、 広場と一体感を持たせたかったからです。

 こうした要請に対し、 谷口さんにはかなりの抵抗がありました。 「せっかく完全なプランを作ったのに、 余計な課題を付けるのか」という思いでした。 こういうときには先に行政側を納得させるのが一番です。 そして建築担当のセクションから谷口さんに話をしてもらって、 うまく収まりました。


帯広駅と定住交流センター

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写真8 帯広・駅舎
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写真9 プラットホーム
 帯広駅の実際の設計はJRが手がけました。 JR側はその内容をオープンにしなかったのですが、 それでもいろんな議論を重ね、 ファサードのデザインは市民も参加した景観検討会議が決定しました。 私はアドバイザーとして加わっていたのですが、 決定権は全てJRが握っており、 JR側が雇ったコンサルタントの主導で話が進んでいきました。 ファサードデザインは日高山脈を模したものです。

 今も帯広駅前広場に置くカスケードについての市民委員会が出来ているのですが、 こうした市民参加による景観形成は、 これから大きな課題になっていくだろうと私は思っています。

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写真10 帯広駅のプラットホームから見た公園大通り 写真11 帯広駅のプラットホームから見た西二条通り 写真12 出来上がった南広場・JRが建てたホテル 写真13 南広場の照明デザイン
 

 面出さんの照明プランは、 大通りの軸線を強調するためにシリンダー状の照明となっています(写真10)。 この道路の駅方向への延長上に幅25mの自由通路があって、 広場と駅は上手につながったと思います。

 JRがホテルを建てるとき、 JRは壁面線の位置の指定を守って建ててくれました。 これは民間事業になりますから、 私達がタッチすることはほとんどなかったのですが、 JR側は我々の意図をよく理解してくれたと思います(写真12)。

 軸状の照明はこの駅前からスタートしています。 ちょっと小振りな軸状の照明がズラッと並んでいます(写真13)。

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写真14 南広場ランドスケープの一部 写真15 南広場ランドスケープの一部 写真16 定住交流センター・南広鳩のつながりを考えたデザイン 写真17 定住交流センター・夜景
 

 基本計画段階で私達が定住交流センターに対して希望したのは、 大きな空間の中に丸みのあるデザインが欲しいという事でした。 それを設計条件として、 建物をデザインする建築家に伝え、 出来上がったのがこの建物です。 デザインを担当したのは、 北海道でも名を知られた立派な設計事務所です。

 設計段階でも、 我々は都市設計を手がけた者として設計の議論には加えてもらうことにしています。 ですから、 この時も設計のための会議に加わっていたのですが、 びっくりしたのは設計条件として「南広場との関係やつながりを大事にしてほしい」とさんざん言っておいたにもかかわらず、 出てきた最初のプランが広場に面した部分にトイレを並べた案だったことです。

 条件を話し合っているときは我々の意図を理解してくれたと思ったのですが、 多分プランを進めていくうちに「この方が納まりがやりやすい」ということになったんでしょう。 けっこうそういうことが起こりやすいのですが、 もちろんそんな案は飲めないので再度プランを直してもらい、 広場に面するところはホールのホワイエにしてもらいました。 丸い部分の内側ですが、 そこから公園がきれいに見ます。

 オープニングの時、 設計事務所の所長さんに会ったのですが、 「どうですか。 トイレにしなくて良かったでしょう?」とつい皮肉を言ってしまいました。

 また、 定住交流センターの南公園に面したところにはコーヒーショップが入っています。 公園側に開いたテラスもあって、 夏には公園の一部にもテーブルが出ています。


丸亀駅前広場と美術館

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写真18 丸亀駅前広場
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写真19 丸亀の駅前広場・アートスペース
 谷口さんが建物を設計しましたが、 事前に建物と駅前広場がつながるようにという話し合いをしていましたので、 建物は駅前広場に対して開けたデザインになっています。 都市デザインは道路の景観や建物の意匠のことだけではなく、 公共空間に対する建物の「構え方」まで含めて考えないといい空間は生まれないという好例です。

 この下に駐輪場があり、 1.1m上がったところにアートを置く広場が出来ています。 白い壁の一部に絵が描かれています。 本当は猪熊弦一郎先生がレリーフを描く予定だったのですが、 「ここを市民が使える舞台にしたい」と申し上げたところ、 このように余白を映像を映す空間として残してくれました。 画家とのコラボレーションも出来たというわけです。

 さらに涙ぐましい努力の成果と言えるのは、 見ての通り美術館前の通りにガードレールがないことです。 広場と一体的に使えるようにしたいと思ってのことですが、 警察との調整が大変でした。 しかし、 市側が一生懸命頑張ってくれて、 我々の後押しをしてくれました。 おかげでイベントの時に広場南北の交差点で道路を閉じると、 広場と一体的に美術館前の空間として道路も使えるようになりました。


帯広・南公園のランドスケープデザイン

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写真20 帯広駅前の南公園・全景 写真21 帯広駅前の南公園・噴水 写真22 南公園の照明灯 写真23 南公園の照明灯
 

 南公園は下田さんが頑張ってくれて、 綺麗な公園となりました。

 景観の中にただ水の風景を取り入れるのではなく、 下田さんは「水の三態」を見せようとしました。 水の三態とは水と霧と氷のことです。 冬になると氷がダイヤモンドダストになることを狙いました。 実験では大成功したのですが、 実際には風が吹くとすぐに消えてしまいます。 ですから残念ながらダイヤモンドダストは出来なかったのですが、 水と蒸気の風景はできました。 照明は面出でさんです。

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写真24 定住交流センター前の迷路
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写真25 定住交流センター前の迷路
 写真24は下田さんの提案による緑の迷路です。 これは出来た頃の写真ですが、 今は緑が成長しています。 非常にうまく出来た迷路で、 先日私も中に入ってみたのですがなかなか出られないという体験をしました。 子供達もここが気に入ってくれているようで、 けっこう遊んでいます。

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写真26 南公園の中の様子 写真27 南公園の中の様子 写真28 夏の南公園 写真29 冬のイルミネーション
 

 夏になると近くの幼稚園の子供たちが来て、 噴水でパンツ一丁になって遊びます。 こういう光景を見ると、 私は本当に嬉しくなります。

 冬にはブーゲンスウヒにイルミネーションを飾り付けます。 とても綺麗です。 ブーゲンスウヒは16本あるのですが、 全部にイルミネーションを施しています。


帯広・北口広場

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写真30 帯広・北口の駅前広場(工事中) 写真31 帯広・北口の駅前広場(工事中) 写真32 帯広駅前の夜景 写真33 帯広駅前の夜景
 

 北口広場でもいろいろな苦労がありました。 最初の基本計画で地下駐車場はなかったのですが、 設計段階になって北口の商店街の人たちが欲しいと言いだし、 市側がその要望を受け入れたのです。 ですから、 施設のレイアウトをもう一度やり直す事になり、 人のための空間との調整等けっこう大変な作業になりました。

 人のための空間の中にカスケードを置く計画で、 今はその設計をしています。

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写真34 広場の中のレール・モニュメント
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写真35 広場の中のレール・モニュメント(銘板)
 広場の中に残してあるレールは、 明治38年に帯広に根室本線が通ったときからずっと使われた一番線を広場に埋め込んだものです。 文化財でも何でもないのですが、 自分たちの生活の一部としてずっと使ってきた物を都市の空間に残したかったのです。

 レールは広場を横切る形で埋め込み、 その端には写真35のように、 レールのいわれを書き込んだ銘板を入れました。 広場を通る人は「何のレールだろう」と不思議に思うでしょうが、 知的好奇心のある人はこの銘板を見つけることが出来、 思いを昔に馳せることになるというわけです。

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図32 西二条通りパース
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写真36 西二条通り・鹿のモニュメント
 西二条通りは道道ですので、 シンボルロードとして道が整備しました。 写真36にあるように、 このシンボルロードには鹿の像を置いています。 昔、 帯広にはたくさんの鹿がいたという記憶を都市空間に再現したものです。 よく見ていただくと、 手前の鹿の向こうにも道路を挟んで2匹の鹿がいます。

 この見つめ合っている鹿の像は、 市民がとても感激してくれました。 好評でしたので、 北口駅にも同じような鹿の像を置く予定です。

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