2 バンコクの水上住宅 江川直樹 |
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『高床式住宅は今日でも各所で見られるので、典型的な住居形式だと考えられがちである。しかし、チャオブラヤ河流域では、これと並んで別のタイプの住宅が存在しており、かつてはこちらの方も同じくらいに数多く、かつ典型的であった。それは水上住宅あるいは浮かぶ住宅である。床から屋根にかけての構造は高床の場合と変わらないが、水上住宅の場合,竹のいかだあるいは箱舟の上に建てられ,河や運河に係留されることになる。こうした水上住宅がもっとも集中したのは18世紀末から今世紀初頭にかけてのバンコクであった。・・・典型的な水上住宅は柱間三間分の奥行きである。正面は河に面し、取りはずしが可能なパネルで構成され、昼聞は河からの風を入れるために開放されている。前面のべランダには子供の落下を防止するための手すりがつけられており、朝夕は水浴び、日中は店として使われる。中央部分は就寝に、岸側の−間は調理と食事のスぺ−スとなる。この種の住宅はバンコクの至るところに見られる。河底に巨大な抗を打ち込み、くさりでこの杭につなぎ止められているのである。その様子は河から見ると都市は、長い二列の、ところによっては三列の、きちんと格好よく塗られた木の小屋がぶ厚い竹のいかだの上に乗って浮かんでいる」ように見えた。・・・水上に浮かんでいるのであるから、当然、住居は可動性が非常に高い。実際、時によって家々は移動し、そして「これらの住居が動いているところを目撃するというのは興味をそそるものだ。住居は時には多くのアパ一トメントから成っている。それを特定の位置につなぎ止めているロ−ブをほどき、何の不自由もなく、所有者の意のままに・・・新たな目的地へ向かうのだ。」・・・両生的かつ水上−潮流型の住宅のこうした柔軟性と可動性は、効率の良さと計画性のなさとが前提になっている。実際に水上に浮かんでいようと、高床であろうと土間式であろうと、家の中には永遠で、固定して、重く、余分であるようなものはなにもない。l7世紀のアユタヤを訪れたヨ−ロッパ人旅行家は、このような住宅の質に驚嘆している。「住居と家具の簡素な様子はありのままの本質をおおっている余計なもの、縁飾りとは対照的だ。ヨ−ロッパの建築家はここでは彼らの才能を発揮する余地はないだろう。」この簡潔さにもかかわらず、タイの住宅は魅力的で「オランダよりもはるかに清潔で整然としている。」』 「水の神ナーガ」スメート・ジュムサイ 西村幸夫訳より
旧チャオプラヤ川(運河)沿いの水上住宅には、川に突き出るようにして、船着き場を兼ねたあずまやがある。ここに座って居ると、水面を渡って来る風がなんともいえないほど気持ち良い。思わず、今田町の家の緑の木々を抜けてくる風の気持ちよさを思い出したほどだ。泥のような土色の川と共生する水上集落もなかなかのものだった。 * 98'JUDIフォーラムテキスト「大地への取り組み」/2000'同左「環境共生型都市デザインの世界」/新建築住宅特集jt9812 参照 |