6 水上都市考  鳴海邦碩

 南シナ海の周辺、インドシナ半島、スマトラ、ジャワ、ボルネオ、フィリピンの沿岸地域には水上集落が存在しており、中には水上都市とでも呼べるような巨大なものもある。こうした島や半島の内陸部がいわゆるジャングルであることを考えれば、水上集落は便利な舟という交通手段を用いて容易に移動することができ、私たちが想像する以上に快適な居住空間であったものと思われる。水上こそ、自由な交通路なのである。こうした地域では台風など、厳しい気象がないことも影響している。


バンダル・スリ・ブガワンの水上都市、人口3万人ほどという。

 鶴見良行はその著書『なまこの道』で、こうした地域の人々について論じている。誤解を恐れず簡潔に紹介すると、以下のようになる。
 ……この地域に生活する人々は、元々海賊であったといっても過言ではない。海賊には2種類あって、一つは半島海域海賊、一つは多島海域海賊である。前者は船の姿を見ると、全速力で小舟で追いかける。皆で力を合わせて漕がなければならないから、団結力がある。後者は、島影に隠れて、船が現れると素早く漕ぎ出し船を襲う。忍耐強く、かつ俊敏なのである。……
 人々の生活を髣髴とさせるような説明である。

 これまで訪問した二つの水上都市を比べてみる。一つはブルネイのバンダル・スリ・ブガワンの水上都市、ブルネイ川の河口に形成されており、人口3万人ほどが水上住居に住む。もう一つは今回訪問したバンコクのチャオプラヤ川の水上集落である。写真の左がブルネイのもの、右がバンコクのものである。
 ブルネイの水上住居は全体に白っぽい。ペイントがされている。これに対して、バンコクのものは、ペイントを塗らない素地のままのものが目立つ。ブルネイの水上住居はボードウォーク状のもので結ばれている、つまり、キャットウォークのような水上の路地があるのに対し、バンコクのものは、一戸一戸独立している傾向にある。
 いずれの住居も鉢植えの緑を飾っているのが特徴だ。とりわけ、写真6の草花は良く手入れされている。花や緑への愛着が表れている。

潮位が下がっており、長い脚柱が見える。この脚柱は木造。ブルネイ。

潮位の影響もあるが、川の水量の影響もあろう。この脚柱も木造。バンコク。

RC造りの脚柱。水上の家々が、ボードウォークで結ばれている。ブルネイ。

これは飲食店になっているようだ。バンコク。
 ブルネイでは年寄りは水上に住むことを好む。陸上への移住を政府が計画しているが、その政策は評判が悪い。そこで政府は丹下事務所に頼んで、水上集落の近代化の計画を作った。1992年、その計画に対する意見を求められてブルネイに行ったのである。計画は東京1960計画をもじったようなもので、伝統など考慮していないように見えた。
 実際にブルネイの水上集落を色々と見学したが、ゴミ問題以外はさして問題があるようには見えなかった。近年は、還元しないプラスチックゴミが溜まり、見た目にも、衛生上も問題となっているのである。
 それに比べ、バンコクの水上集落は、都市化の波にさらされているようであった。内陸側から土地利用転換の圧力がかかっているのである。私の目からすれば、バンコクの水上住居より、ブルネイの方が長く生き続けるのではないかと思う。

集落から離れて突き出したモスク。ブルネイ。

沿岸にある仏教寺院。バンコク。

速さを競うブルネイの水上タクシー。エンジンはヤマハ、スズキなど。

水上の小舟の物売り。バンコク。


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