近年のドイツにおける都市計画の動向
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ダルムシュタットの中心市街地活性化

 

郊外大型店舗を中心市街地に誘導

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ダルムシュタットの位置
 ダルムシュタット市はドイツのほぼ中央、 フランクフルトから南に約40km行ったところに位置します。 さらにその同じ距離を南下するとハイデルベルグになります。 人口はほぼ14万人。 日本の規模で言うと小さい街の部類になりますが、 ヘッセン州で唯一の工科大学があり、 人工衛星を管理するヨーロッパのセンターがあります。 産業では日本でも著名な頭髪洗剤メーカーのウエラ、 薬品会社のメルクがあります。

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郊外店出店の計画
 そのダルムシュタットの郊外に大型店が進出しようとしたのは、 もう30年近くも前になりますが、 1970年代の始めの頃です。 アウトバーンのインターチェンジ近くに、 売り場面積が6万5千m2の巨大ショッピングセンターを作るというものでした。

 その建設許可申請をダルムシュタット市役所が受けたわけですが、 その計画内容を知った市の都市計画局が「これはまずい。 建設されると市街地が打撃を受ける」と立ち上がったのです。 市当局だけでなく、 この計画が新聞に発表されると、 市内の商店主はかなりのショックを受けてしまいました。 「本当に建つのだったら、 市内の店を閉めてここのショッピングセンターに入ろう」と考えた商店主が大勢いたそうです。 建設されていたら、 市内の活気が一挙に失われるのは明らかでした。

 都市計画局としては郊外の出店を阻止するため、 まず市長と市議会を説得する必要がありました。 当時、 都心の一等地であるルイーゼン広場が市有地であり、 ここに誘導するという形をとることにしました。

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ルイーゼン広場
 ここがルイーゼン広場です。 ここに大型店を持ってきました。


交通を地下トンネルでさばき広場を開放

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ダルムシュタット都心の交通計画
 それまでのルイーゼン広場の交通網は東西にアウトバーンにつながる国道が通り、 南北はシティーリングにつながる数本の市道が入り、 それらが広場の真ん中でクロスしていました。 さらに広場には路線電車が3方から入り、 バスも数路線入っていました。 いつも渋滞を引き起こしていたことから、 大型店舗導入を機会に都心の大改造が行われることになりました。

 新しい交通計画では、 それまで都心を縦断していた幹線道路をトンネルで地下へもぐらせることにしました。 それと同時に地下には大駐車場を作りました(MfGと書かれた所にある駐車場がそうで、 全部で860台収容できます)。 地上の広場一帯は歩行者天国にするという計画です。 渋滞と駐車場問題は、 この計画で一挙に解決できることになりました。

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トンネル道路の断面図
 このスライドのように、 地下駐車場はトンネルを使って建物と建物の間に作られています。 トンネルの入口は、 同時に買い物客の地下駐車場への入口にもなっています。 またデパートや商店の地下もこのトンネルにつながっていて商品搬入もトンネルを使って地下で行なわれています。 トンネルの全長は540m、 出入口の斜面部分には消音タイルが使用されています。

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完成した歩行者専用のルイーゼン広場
 歩行者専用と言っても、 公共交通の路面電車とバスは従来通り地上を運行し、 人々の足になっています。 電車の軌道は、 路面の敷石と同じ高さになっていて、 歩行者や自転車の妨げにならないよう配慮されています。 また、 バスも電車の軌道上を走るようになっています。

 スライドの右に見える大きな柱の後ろ側にあるのが新しく建てられたビルです。


ルイーゼンセンター(第一期工事)

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ルイーゼンセンター断面図
 道路を挟んで二つの建物が並んでいますが、 一つの建物としてまとめられルイーゼンセンターと呼ばれています。

 右の建物が誘致したショッピングセンターのカーシュタット百貨店です。 左の高い建物は1、 2階が商店街モール形式の専門店街で、 その上部には市役所が入りました。 商店のオーナーのほとんどはダルムシュタットの人たちです。 もとから市街地にお店を構えていた人たちが支店を出したわけです。 地下は食料品店が並び、 地下駐車場に続いています。

 土地の所有関係ですが、 もともとこの広場一帯は市の所有地で、 大型店舗部分についてはカーシュタットが市から敷地を買い上げました。 しかし、 商店街モール部分については市は売却せず、 モール側が60年契約で借地しているという形式になっています。 市役所は60年間、 商店街モールに土地を貸し、 その代わり、 市役所の1部がそこに入っているので建物の賃貸料を払うことになっています。 なお、 60年後には土地と建物が市に返還されて、 市の所有物になる契約です。

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交通計画
 黄色の線が歩行者専用道路、 TGが地下駐車場、 Lが搬入口、 Pはお客様用駐車場です。 赤い矢印は市の拡張プランの方向です。

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都心に向かう幹線道路
 アウトバーンからルイーゼン広場をみると、 ダルムシュタットの領主であったヘッセン公の銅像が立っています。 そこから地下に入っていきます。 上は歩行者専用道路で、 左側の黒い道路は路面電車とバス専用です。 一般道路と軌道間の段差が小さいので、 緊急自動車は中に入って軌道を利用できます。

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狭い2車線道路
 幅員が2m20cmしかない、 非常に狭い2車線道路です。 小さな車でもゆっくり走らざるを得ない交通計画になっています。


カレーブロック(第二期工事)

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ダルムシュタット都心
 第一期工事では、 (4)ルイーゼン広場と、 先程ご説明した(3)ルイーゼンセンターが建設されました。 第二期工事では、 図の(1)と(2)のカレーブロックができました。 カレーブロックには、 市の電力公社の古い建物(機械ホール)が二つ残っていたので、 これらを保存しながら、 一つをマーケットに、 もう一つを文化施設に改造しました。

 当初は、 マーケット施設の収益を文化施設の運営に回す計画でしたが、 まずマーケットができ、 二つ目の文化施設にはマーケットからの収益補助が出ないことになり、 その後「食事もできる音楽ホール」として1年後に独立採算ということで完成しました。

 その周辺は赤で示した建物が整備され、 素晴らしい内庭空間ができました。

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カレーブロックと中の二つの歴史的保存建造物
 マーケットと音楽ホールを中心にして、 青と赤で示す建物が整備されました。

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ルイーゼン広場の噴水と敷石
 ルイーゼン広場から左奥のカレーブロックをみた写真です。

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カレーブロックの新しい建物
 カレーブロックの中に入ったところです。

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カレーブロックの内庭
 電力公社の建物をそのまま残しています。 このように、 ドイツ人は戸外で飲食するのが好きです。

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音楽ホール内部
 音楽ホールの内部です。 建物はそのままで内部だけ改造しました。

 音楽ホールのような文化施設をつくっても商売にはなりませんが、 市は都心にある文化施設の存在を重視しています。 ここは展覧会場としても使われ、 最近には都心のまちづくりコンペの作品展示会がありました。

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古い建物の間に建てられた新しい建物
 二つの古い建物の間に新しい建物をつくる場合、 ドイツ人は古いものを真似して建てるのではなく、 古いものは古いもの、 新しいものは新しいものとはっきり区別してつくります。 これは、 ガラスという新しい要素を付け加えながらも、 古いレンガと違和感がありません。 上手くいった例だと思います。

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マーケットと音楽ホールの前の賑わい
 マーケットと音楽ホールの前です。 「コーヒーを飲んでいると知り合いが通りかかって話しがはずむ」ような雰囲気のある空間が街の中にできました。

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カレーブロックの内庭
 マーケットと音楽ホールの反対側で、 新しい建物はオフィスです。

 ドイツ人は、 ほとんど一年中、 戸外を利用します。 冬でも少し暖かければ、 オーバーを着て我慢しながらも戸外に座るのが好きなようです。


まとめ

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ダルムシュタット都心整備第三次計画フィナ・ブロック
 アウトバーンからルイーゼン広場に向かう道が西から東に通り、 そのまま地下に入っていきます。 第一期工事では、 ルイーゼン広場の南側にルイーゼンセンターが建設されました。 ルイーゼンセンターの内部を東西に道路が通っていて、 それより南側の部分は大型百貨店です。 第二期工事では、 ルイーゼン広場の東南にカレーブロックが建設されました。 第三期工事は現在計画中で、 カレーブロックの南側にFINAブロックの建設を予定しています。

 そのFINAブロックにはブティックや衣料センターが入る予定です。

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空からの写真
 ダルムシュタットの場合、 始まりは郊外に進出しようとした大型店舗対策でした。 大型店舗を都心にもってきて、 それを上手く誘導し、 都心を活性化することに成功した例だと思います。

 長い間ご清聴、 どうもありがとうございました。

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