建築/都市/まちづくりへ
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

小さな医療センター
神戸市興人・ライフスクウェア

画像mi060
興人・ライフスクウェア((C)by松村芳治)
 次は、 株式会社興人というディベロッパーが開発した山の街という住宅地です。 新神戸トンネルを出たところです。 もう30年位前の開発になりますから、 地区の高齢化がかなり進んでいます。 近隣センター的な意味でジャスコが入っていたのですが、 地区の高齢化と共に売り上げが減少し撤退してしまいました。 つまり撤退によってセンター機能が崩壊してしまっていたのです。

 最初、 ディベロッパーが僕に依頼してきたときは「ジャスコの後にマンションを建てて事業化したい」という内容でした。 しかし、 周りが一種住専でそんなに高い建物は建たないし、 直感的に事業化は無理だろうと思いました。 それでもいったん引き受けていろんなスタディをして、 事業化によるメリットはさほどないことを報告したんです。

 その時「せっかく自分の家を開発したディベロッパーに愛着を持っていてくれるのに、 マンション建設なんかしたら悪い評判がたつかもしれません」と付け加え、 逆提案として別の案を出しました。 それは、 地区の高齢化が進んでいるわけですから、 ちょっとした医療センターにするというものです。

 それもよさそうだという返事が返ってきたときから、 医療コンサルタントと組んでいろいろと考え始めることにしました。 コンサルタントには地区に必要そうな科目を探してくれとお願いし、 僕は早速空間構成に取り組みました。

画像mi061
ライフスクウェア、 医療センターの平面図
 平面図で、 左の方のカギ型になっている部分がもともとあった建物です。 これを全部つぶしてマンションにするのがディベロッパー側の当初の希望でしたが、 それをやめてクリニックを中心にした高齢者の溜り場にするというのが我々の提案です。

 全く新しい建物を考えるのも建築設計者の立場としては面白いのですが、 僕は初期投資をなるべく少なくした方が賃貸経営の上では有利だろうと考え、 元の建物を生かすことにしました。 といっても元の建物の基礎と骨組は生かし、 床や壁、 天井を全部変える本格的なリニューアルです。

 工務店に見積もりをとっていろいろ検討した結果、 事業的にはメリットがあると僕は判断しました。 リニューアル棟に加えて、 新築棟を作り、 新旧合わせてひとつの空間を作り出すことをテーマにまとめてみました。

画像mi063
古い建物の外観

画像mi062
古い建物の骨組み
 基礎と骨組だけは残し、 それに新しい息吹を吹き込もうという計画です。

画像mi064
ライフスクウェア、 アイソトメトリック図
 元の骨組に床・壁・天井を入れ込んだ上で、 新築棟をプラグインします。 旧棟と新棟の間には広場をとる形にしました。 スロープは2箇所作り、 バリアフリーでどちらからも行けるようにしています。

画像mi065
ライフスクエア、 完成した外観((C)by松村芳治)
 多分、 元の外観を知っている人にもどこが変わったのか分からないと思います。 本当は窓割なども少し変わっているのです。

 2階には高齢者が頻繁に利用しそうな整形外科、 糖尿病に強い内科、 眼科が入っています。 1階には和風の喫茶店と調剤薬局が入っています。

 こういうクリニック系の賃貸もなかなか難しく、 大病院をやめてここで独立される場合など、 あまり早くから依頼してもダメらしいんです。 お世話になった先生にちゃんと挨拶してからやめないといけないし、 医師会に届けも出さないといけないし、 開業のタイミングが難しいのですが、 そういうことを調整しながらオープンにこぎつけました。

画像mi067
ライフスクエア、 旧棟と新棟のつながり((C)by松村芳治)
 アプローチの階段の手すりも全部やり直してきれいにしました。

 眼科の建物は小さな窓だけ付けてあまり開口部をとっていません。 というのも、 すぐ前が住宅なので、 住宅から見られることがないようにしたのです。 Rの壁にして、 ちょっと面白い建物にしてみました。

画像mi068
興人・ライフスクエア、 眼科・内側の開口部((C)by松村芳治)
 外側の開口部を少なくした代わりに、 広場に面するところは開口部を広くとりました。 僕のイメージは、 この広場でおじいちゃん、 おばあちゃんがひなたぼっこをするというものです。 新旧の建物の間にはスロープを入れています。

画像mi069
ライフスクエア、 北側の夜景((C)by松村芳治)
 北側のファサードが暗くなるのがいやだったので、 オパーリンというガラスブロックを使いました。 夜、 電気を付けると室内の明かりが透けて見えます。 ガラスブロックで視線は遮られますが、 うっとうしくならないよう気をつけました。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ