魅力ある個性的な“地域デザイン”を求めて
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質疑応答

 

 

仕事の経験と研究

鳴海

 仕事と論文の書き方が違うので最初はとまどったというお話を冒頭にされたんですが、 研究と仕事をされることの違いというのは、 相当あるものでしょうか。

田村

 幸いにも、 私の場合は1年間建築事務所におりまして、 市街地の建築の設計やマスタープランづくりに携わりました。 その後オオバという総合建設コンサルタントに入ったのですが、 入った時は宅地造成ブームでしたので、 宅地造成のための絵を描くという仕事が多かったのです。 私自身は建築をやるためにオオバに入ったのですが、 そういう仕事がないものですから、 どちらかというと周りの緑や商業などをやったり、 一方で土木の造成計画の考案づくりなどもしました。 ですから色んな事を複合的に同時並行的にやっていました。

 また仕事で西日本のいろんな地域に行きましたので、 結構趣味と実益を兼ねていると言いますか、 何でも面白いんですね。 そういう意味では会社が良かったのか上司が良かったのかよくわかりませんが、 結構いろんな事を自由にやれ、 悪く言えば根無し草のようなところもありました。 そういう経験が今回の地域の文脈とか地域デザインというかなりマクロで広範な研究テーマに寄与したのではないかと思います。

 学術論文として査読を通す苦労はありました。 当初、 宝塚新都市の事例でご説明した標高と住宅地の立地動向や人口分布のクロス、 あるいは地形、 地質的に急傾斜の硬岩領域に新しい都市づくりが移ってきているというような話をまとめて土木計画学会に出したんですが、 みごとに落とされました。 学術論文というのはなかなか厳しいという印象です。 以降は、 土木は駄目だということで、 都市計画学会と建築学会でいろんな先生にお世話になりながら出したんです。


各分野のコラボレーションのために

稲田(関西学院大学)

 各専門分野の協働が必要であるとおっしゃっておられたのですが、 具体的にはどんなふうに行ったのかをお話しいただきたいのですが。

田村

 今のところ具体的な実績というのはまだなくて、 今後の希望も含めて書いている部分もあります。 一つは先ほどご紹介した東播磨の情報公園都市の基本設計に先立って自然共生型の土地利用の研究会をやりましょうと鳴海先生の方から提案があり、 緑系、 住宅建築系それから土木も含めたまちづくり系の専門家がコラボレーションして研究会を行った例があります。

 また、 まちづくりは地域の人が主体ですので、 行政がお金を持ってどこかのコンサルタントに発注してやった、 できたという話では済まない時代になってきているのではないかと思うんです。 それはもう2百万とか5百万とかのお金の額の問題ではなくて、 やはり発注する姿勢の問題と、 仕事の受け止め方の問題だと思います。

 では誰が受け手になるのかという問題になるんですが、 一つの提案としては、 そういうコラボレーションが本当に必要な業務・調査・研究については、 大学なりが頭になってそれぞれ優秀な専門家がプロジェクトごとに集まり、 いろんなコラボレーションを図るということが必要なのではないかと思います。 今はどちらかというと公共のコンサルタント業務は、 指名競争入札で、 出来ようが出来まいが何社かを指名してお金の安い所に頼むということが大半なんですね。 その辺の発注の仕方から考えなおさないと本当にお金の無駄遣いになると思います。


震災後のプレハブ住宅ブームについて

杉本(大阪大学)

 森具の住民評価のアンケートの結果についてですが、 プレハブ住宅やマンションをそれほど嫌だと感じていないという結果にちょっと驚いたんですが、 このアンケートは計画される前に実施されたものなのでしょうか。

田村

 計画してまちがほとんど出来上がった段階で、 検証のための調査として実施しました。 2年前でしたでしょうか。 最近です。

杉本

 この結果に対してご意見かご感想がありましたらお願いします。

田村

 道路や公園が出来て良くなったと評価してくれる、 あるいは近所づきあいなどは逆に少し悪くなったなどというのは分かるんです。 震災前に近くだった人が転出したり、 同じ地区内でも離れた所に行って近所づきあいが疎遠になったなどというのは、 まちが成熟していく中で新たなコミュニティが生まれたりするので、 それはそれでもいいと思うんです。

 ただ、 プレハブ住宅云々については、 一つは震災前の住宅が明治や大正、 一部は江戸に出来たような老朽家屋ですので、 ほとんど全壊してひどい被害にあい地区内で四十数名が亡くなっているものですから、 やはり新しい住宅は堅牢なものでなければならないということではないかと思います。 また何がなんでも早く住宅を手に入れたいという思いが強くあったのではないかとも思います。

 震災直後からプレハブメーカーがどんどん入ってきて色んなピーアールをしてお客さんのニーズを掴んだということが相まって、 地元の人たちはそう悪いと思ってないですね。

 私も全面的に悪いとは思わないんですが、 やはり味気ない。 在来工法ですと、 時間と共にエイジングと言いますか、 いろんな歴史が刻まれて味わいが生まれて来るんですが、 プレハブの場合は出来た時が100%で後は下がる一方です。 そういう意味で、 プレハブメーカーと連携して、 一緒に勉強しながら地域に合ったプレハブ住宅のあり方が検討できなかったかという思いはあります。


数をこなす仕事ではなく

鳴海

 この論文の成果はみんな、 お金を貰ってやった仕事なんですね(笑)。 それはお客様にも感謝しなければいけませんが、 普通にやっている報告書では論文は書けないと思います。 なぜ田村さんがやった仕事で論文が書けたかと言うと、 やはり数をこなしていくような仕事のしかたを多分しなかったからだろうと思います。

 例えばお役所がこんな報告書をつくればいいというのに対して、 田村さんは相当抵抗して、 というよりも、 積極的にこういう考えで作業をやりたいという主張をそれぞれの仕事でされたので、 それを活用して研究論文が書けたのだと思います。

 先ほども入札の話がありましたが、 安く仕事が落ちてしまうと、 出来るだけ手短かに仕事をこなしていこうという傾向になってしまいます。 そういうことばかりをいくらやっても、 田村さんのように論文は書けません。 田村さんはラッキーだったのかもしれませんが、 おそらく相当執念深く一つひとつの仕事をやってきたのではないかと思います。 長い期間続けてきた仕事を、 それぞれ一歩一歩みんな執念深くやったという成果ではないかと思います。

 これからこういう仕事に携わる人に対して、 たくさんやって数をこなす事だけが仕事ではないと言いたいと思います。 まちづくりの仕事はとても息が長いし、 たとえ調査でも真剣にやれば活きてきます。 田村さんが、 なぜこういう仕事ができたのかということを想像してみると、 面白い人生だと思います。 これからもこの仕事を活かして、 より一層すばらしいまちづくりに取り組んでいかれることを期待したいと思います。

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