辻井:
みなさんご承知のように、 昨今ゼネコンという仕事は新聞やテレビ、 週刊誌を始めとするメディアで諸悪の根源のように叩かれています。 大林組も5、 6年前に新聞に名前が出る事態になってしまい、 学校から帰ってきた娘に「ねえお父さん、 大林組って悪いの?」と聞かれたことがありました。 バブルの頃は地上げを進めて町なかのコミュニティを破壊した悪党、 昨今では不況の犯人みたいな言われ方をしています。
今日はどうにかそのイメージを払拭するお話をしたいとは思うのですが、 ゼネコンの世界も競争は厳しく、 みなさんに明るい未来をお話しするわけにはいかないのが正直なところです。 入りたいと思われる方は、 心して聞いて下さい。
さて基本的なことから説明しますが、 ゼネコンとは何の略だかご存知でしょうか。 ゼネラル・コントラクターを縮めた略称がゼネコンで、 日本語に訳すと総合請負業ということになります。 コンストラクター(建設する)と思っている人が多いのですが、 実は請け負うという契約形態の方に重点が置かれているのがゼネコンという業種なのです。 大阪弁で言えば「分かりました。 何でもやらさせてもらいまっさ」と言う奴がゼネコンの正体なんですね。
誰と契約するかというと、 通常は建物を建てたい人と、 図面を見ながら「いついつまでに、 これだけの予算で工事をしてくれるか」という話から始まります。 営業が「分かりました。 やらせていただきましょう」と契約すると、 何が何でもその工事をやり遂げないといけません。 例えば、 工事が終わるまでに中東で戦争が勃発して石油がストップ、 そのあおりで工事費が急騰したとします。 50億で受注した工事が60億になったとしても、 50億で引き受けた以上はそれを守るという業種です。 あるいは、 建設現場のすぐ隣に怖いおじさんがいて「こんな工事はさせんぞ」と凄んだとしても、 建てると契約した以上はいろんな努力をしてやり遂げなければいけません。 その辺のゼネコンの事情が、 いろんな勇み足をしてしまう原因と言えるのかもしれません。
予測できない未来の事も含めて、 エイヤッと引き受けてしまう業種ですから、 いわば「男気の世界」とも言えるでしょう。 ややもすると、 おっちょこちょいと紙一重みたいな部分もあって、 出来もしないことも引き受けてしまうこともあります。
なぜそんなことになるかを、 例え話で説明しましょう。 例えば、 ユニクロが今立て続けに出店しています。 その出店傾向を見ていると、 幹線道路から1本入ったあたりに狙いを定めているようだと、 ゼネコンは頼まれもしないのに出店の特徴をつかみます。 そして、 ユニクロが出店しそうな立地条件を探し、 その土地を買っておいて、 「どうでしょう、 ここに店を出しませんか」とユニクロに持ちかけるのです。
バブルの頃まではそうした作戦が次々に当たって、 うまく仕事に結びついていました。 ところが、 バブルがはじけてからは、 ゴルフ場用に買っておいた土地は売れない、 それどころか企業からは「今やってるゴルフ場でさえ赤字なんだ」と言われ、 新たに土地を買って建物を建てようなんて声はどこからも出てこない、 ということになってしまいました。
そうこうしているうちに土地の値段はどんどん下がり、 土地を売ってしまうと大赤字、 せっかく借金してまで買った土地なのにどうにもならん。 ……というのが、 今言われているゼネコン危機のおおかたの粗筋です。
幸い大林組は、 1973年頃に同じような状況下でとても痛い目に遭ったことがあり、 今回のバブル時にはあまり土地を買っていなかったので、 財務はそれほど傷んでいません。 マスコミあたりは大林組を勝ち組だと評していますが、 日本全体のゼネコンが冷え込んで動きが鈍くなっている中で、 勝ち組だと言われてもさほど嬉しくはないのです。 現に、 ここ10年私のボーナスは増えるどころか減っています。
また、 世の中の評価は移り気です。 企業アナリストからは、 「大林組は積極性に欠ける。 よその企業のように土地を買っておいたりして、 先々の見通しを立てておくことがない。 周辺領域を広げておくのが成長モデルだが、 それが見えない」と辛口の評価をいただきました。 株価も、 清水建設に逆転されて下になってしまいました。
あまり世の中の評価に振り回されるのもどうかと思うのですが、 現実に競争が厳しいのは事実です。 みなさんにあまりお薦めできないのですが、 ここでとどめとして暗い話題をひとつ。
今、 日本の建設投資は約70兆円と言われています。 日本のGDPが約500兆円ですから、 実に建設投資がGDPの14%を占めています。 欧米では10%が妥当だと言われていますから、 日本にそれを当てはめると50兆円が建設投資市場ということになります。 遠からず、 そういうことになるでしょう。 つまり、 我々の仕事は3割も減ることになり、 ゼネコンにとってはますます厳しい時代となるのです。
これでみなさん、 ゼネコンに来ようなどどいう気はなくなったでしょう?
ゼネコンという仕事について
ではここで気分を改めて、 明るい話題に移ることにしましょう。
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