前田(学芸出版社):
ベネチアに水路ができ美しいまちができたのは、 水路が経済を動かす大動脈でベネチアの生命線だった時代のことだと塩野七生が書いていました。 ルネサンス以降に交易がダメになってからは、 お話にあったように水路が埋めたてられて流れが悪くなり臭くなってしまったといいます。 やはり、 経済の裏付けがなくなってしまうと、 せっかくの水辺景観が失われていくのは、 ベネチアでも避けられないことだったんだなと思いました。
別の言い方をすると、 確かに先生がおっしゃられたように日本ではどんな土地でも値段が付いたわけですが、 そのことによって戦後の高度成長がありました。 最近はぐらついていますが、 土地を経済活動の中で回すことで日本の経済的豊かさが形成されてきたのです。 もし、 それをやめてしまうと土地が暴落して困るじゃないかと考える政界人が大勢いて、 もう一度土地と株の値段を上げようというのが構造改革だと言っているわけです。
それが日本の大勢だとすると、 金澤さんの話はやはり学者の甘い話だと言われかねないのですが、 その点についてはいかがですか。
金澤:
ベネチアについては、 過去にベネチア大改造計画(例えば、 鉄道や道路網を市街地まで伸ばすとか)がいくつかあったのですが、 ことごとくつぶれました。 たしかに、 水路が埋めたてられるなど微細な部分で失われた景観はあるのですが、 大勢において過去の文化を継承していくという視点が失われたことはありません。
戦後の日本は過去の文化より、 経済の方を優先しました。 モデルはアメリカです。 郊外に大型店ができたり、 ショッピングモールができたり、 セキュリティの会社が続々誕生するのを見ていると、 まるっきりアメリカになろうとしていると思えます。 アメリカのシステムが今、 どんどん日本に入っているのです。
しかし私は、 環境問題やいろんな問題に対するアメリカの対応を見ていると、 日本はアメリカよりむしろヨーロッパをお手本にした方がいいんじゃないかと思っています。 ヨーロッパの文化的な保守性をお手本にするんです。 そうすることで、 ベネチアにはあれだけの形が残っています。
土木の人とお話しすると、 「我々が港湾や道路、 鉄道をつくったから日本は経済成長できたんだ」と言います。 それはその通りでしょう。 しかし、 ドイツの例を見て下さい。 ドイツの国土は戦災で大都市だけでなく、 小さな村々まで焼失しました。 しかし、 戦後の再建の時、 ドイツは昔の姿のままにまちを再建したじゃありませんか。 その上、 経済成長まで達成し豊かな生活と労働時間の短縮を実現し、 今は環境問題に率先して取り組んでいます。
それに比べて日本はどうか。 誇るべき文化を引き継いできたはずなのに、 経済成長と引き換えににかなりのものを失ってきたんじゃないですか。
ただ、 私が今面白いと思っているのは、 戦後の経済最優先に代わる新しい価値観が出てこようとしていることです。 土地を例に出すと、 今までの土地所有ではなく「定期借家権」が出てきました。 所有権と利用権を分離する動きが出てきたのです。 利用という概念が価値観を持ってくることで、 今までの体系が代わってくるように思います。
バブルがはじけたときよく分かったのですが、 日本の資本主義は使いもしない土地の価値を名目上膨らませて成長してきました。 バブル時に「日本の土地の評価額でアメリカ全土が買えるよ」と言われましたが、 バブルが終わってみると土地の値段は当時の3分の1か4分の1しかないことが分かりました。
土地の問題について言えば、 日本では法律家も経済家も都市計画家も土地問題を扱ってこなかったと言えるでしょう。 誰も関心を持たないし、 政策論的に見つめてこなかったツケが今回って、 土地を全て金に換算できるという経済原理だけが暴走してバブルになったと私は考えています。 ですから、 土地に関する問題について、 お若い方、 法律家、 経済学者、 社会学者などいろんな方々が勉強していただきたいと思っているところです。
景観と経済問題
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