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指標行動(任意活動・社会活動に関して)

 

 最後に「さて、 季節は春」という言葉で締めくくりたいと思います。 陽気も段々と良くなったので、 これからの季節、 会場にお越しのみなさんも外気にもっと触れましょうと言いたいわけです。 そのためにはどんなオープンスペースが望ましいのでしょうか。

 そのことを考えるために、 オープンスペースでの私たちの行動がどんなものであるかを調査研究してみようと思っています。 この研究はまだ始まったばかりですが、 「指標行動」という概念で取りまとめられないかと考えておりますので、 それをご紹介したいと思います。

 先ほど言いましたJ・ゲールの〈必要活動・任意活動・社会活動〉の概念に対し、 私たちは「ある行動が行われるのは、 そのための条件がその場に整っているからだ」という仮説を立てています。 つまり、 行動がなされるかどうかには、 その空間の構成や質との間に何らかの法則性が関わっているのではないかということです。 その法則性が解明できれば、 ある種の行動をもってその環境を評価するツールにすることができるのではないかと考えています。 それが「指標行動」という考え方です。

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任意活動・社会活動に関する指標行動
 行動を起こす条件としてあげられるのが、 まず「物理的な空間」です。 これは建物のデザイン、 そこにベンチが置いてあるか否か、 周辺施設がどんなものか、 日当たり、 風通しはどうか、 樹木はあるのかということなどです。

 次にあげられる条件は、 「社会制度・規範」で、 法律や社会的通念、 ならわしといったものです。 また、 その場所の安全性や自由度が担保されていないと、 そこで何かをしようという行動は起きませんので、 それらも重要な条件です。

 それから、 そこにおける人々のつながりやつきあい度、 つまり「コミュニティ」の条件も行動を左右する条件になるのではないかと考えています。

 また、 最後にあげる条件としては「属人的な要素」があります。 これが行動を決める条件としては一番大きいと思われますが、 行動を起こす人の生活習慣や生活スタイル、 生活の中での嗜好・要求、 経済力など、 その人自身に属する条件です。

 ひとつの行動を起こすにはこれらの要因が複雑にからんでいると思われますが、 例えば、 ある街に行くといつもおばあちゃんが椅子に座っていて、 その周りで子どもたちが遊んでいる風景に出会うと、 何となくほっとするということがあると思います。 そういう「ほっとする」空間というものが有している質を「外に座っているおばあちゃんの存在」という指標によってとらえ整理しておくことによって、 別の場所でも同じ行動が見られたら、 その空間もさきほどの空間と同様の質を有している場所であると判断できないかと考えています。

 もともとこの整理法は、 昨年鳳コンサルタントの佐々木さんや堤さんと一緒に神戸・阪神間での復興住宅における外部空間の利用状況について調査をする中から生まれてきた概念です。

 これをヒントに今年、 研究室の学生の一人に「お昼に外で弁当を食べる行動」を調査しました。 どんな人がどんな空間でどんな風にお弁当を食べているかを調査したわけです。 今とりまとめている最中ですが、 彼によるとお弁当のタイプによって傾向があるようです。

 手作り弁当を食べている人たちは、 いわば常連さんなのですが、 自分たちのオフィスの近くにある気持ちのいい空間を知っていてそこを選んでいるようです。 つまり、 椅子に座れるなど、 ちゃんとした装置のある空間です。 コンビニエンスストアで買ったお弁当を食べるサラリーマン達は、 地面の腰掛けられるような段差があるところに座って食べているそうです。 お弁当はたいていご飯が主役ですから、 水平に持って食べられる場所を選ぶわけですね。 同じコンビニエンスストアで買った食事でも、 パンやサンドイッチ、 おにぎりなどは立っていても食べられますから、 ちょっとその辺の休憩できるところでつまむという感じで食べているそうです。

 このように、 さまざまな人間行動がどんな環境デザインのなかで行われているかを、 見ていこうと思っているところです。 そうすることで、 外気との触れあい、 すなわち屋外生活を私たちの手に取り戻し、 それを通じて多大なエネルギーを投じて空調された建築空間で過ごす時間を減らして、 環境負荷をかけない環境にやさしい都市生活スタイルを展開する、 そのような都市空間を目指せないかと思っている次第です。

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