再開発地区計画制度は、 1988年(昭和63年)に出来ました。 当時は「遊休地を積極的に使おう」という土地の有効活用という考え方が強く、 今になってみるとバブル経済時代の亡霊だという見方があるかもしれません。
しかし、 バブル経済時代に制定された再開発地区計画は大阪市内にもたくさんあり、 今はそれが立ち上がってきている時期です。 それらをちゃんと評価し、 今後どうあるべきかを検討しなくてはいけないだろうと考えています。
再開発地区計画という制度に期待するもの
再開発地区計画とは
再開発地区計画とは、 都心の遊休地などを対象に、 合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図るために、 一体的かつ総合的な市街地の再開発を実施する地区計画ですが、 とくに民有地を活用しながら公共的な空地を計画的に作っていくことのできる制度です。 この制度を研究室の学生に調べてもらったので、 紹介します。
再開発地区計画(都市再開発法7条8の2) |
本地区計画の中で定められるものとしては、 「区域の整備及び開発に関する方針」と「再開発地区整備計画」があります。
前者は、 マスタープランに当たるものです。 その中に「主要な公共施設の配置」が定められていて、 これらは2号という条項にかかる施設なので「2号施設」と呼ばれており、 2号施設としては、 道路、 公園、 緑地、 広場、 その他の公共空地を定めることになっています。 これらの施設の上位には、 都市計画決定された道路や公園などがあるのですが、 それらより下位の位置づけの中で公共施設を作り出そうというものです。
さらに、 後者の「再開発地区整備計画」の中に、 地区施設というものもあります。 これは主に街区内の居住者が利用するものと位置づけられていて、 施設内容は、 道路、 公園、 緑地、 広場その他の公共空地となっています。 利用者が限定されているとは言え、 施設の性格としては2号施設と同じようなものです。
ですから、 再開発地区には、 都市計画施設、 2号施設、 地区施設と3段階の公共施設が存在する複雑な制度になっています。 全体の計画を見ながら、 公共施設を有効に生み出し、 より良い環境を作っていこうということがこの制度の主旨になっているのです。
作られる建築物には、 用途や容積率、 建蔽率等が緩和されます。 また、 高さや斜線制限も緩和されます。 そうしたボーナスを伴った制度でもあります。
この制度の中で、 さらに空地の種類を複雑なものにしているのが「有効空地」という概念です。 これは「敷地の中に有効な空地が確保されていれば、 斜線制限を適用しない」という条項に係る空地です。 2号施設でも公園や広場のような性格のものであれば有効空地となりますし、 地区施設であっても有効空地であったりするわけです。 さらに、 敷地単位で総合設計制度が用いられ、 その公開空地があれば、 それも有効空地である場合もあります。 再開発地区計画地区を調べていくと、 2号施設、 地区施設の空地や有効空地(公開空地)が入り乱れていて、 名前も性格もどんなものか分かりづらいところがあります。 日本の都市計画制度は本当に分かりにくいと思いながら調べています。
2号施設、 地区施設、 公開空地、 有効空地の分布 |
この再開発計画制度の特徴のひとつには、 地区整備計画を最初に全部決めなくても良いということがあります。 段々と作っていく中で考えればいいということから、 この湊町地区でも斜線部分はまだ計画段階です。 時代に合わせて地区施設を生み出す仕組みになっています。
西梅田ガーデンシティ |
西梅田ガーデンシティの歩行者専用通路 |
これらの再開発は確かにバブル経済時代の亡霊のような性格もあるのですが、 空間を構成する材料には良い物が使われています。
写真は歩行者専用通路です。 大阪駅方向を見た風景です。 また公開空地には広場が作られていて、 歩行者通路との連続性も考えられています。
西梅田ガーデンシティの利用状況 |
赤字で示したところではオープンカフェのようなものが置かれていて、 休憩スペースとして使われているようです。 また、 仮設店舗も出されています。 本当はしてはいけないのでしょうが、 スケートボード遊びもここでされています。
また、 日本の公共空間では必ず出てくるのですが、 駐輪も見られます。 せっかくいろんな空間を作っても、 すぐ自転車やオートバイに占有されてしまうのが現状です。
2000年10月から2001年11月まであったイタリア料理店の屋台 |
自転車等の放置について |
自転車交通のための施設が今までの都市施設の中では十分作られてないことが、 こうなってしまう大きな要因なので、 その解決策も考えねばならない問題です。
「再開発地区計画」地区のオープンスペースの管理・利用面での特性 |
公共が管理することによる長所は、 将来にわたってちゃんと維持管理していく保証があること、 しかし短所として毎日の管理が行き届かず、 例えば植木の剪定や水遣りが不十分になる可能性があります。 いつの間にか公園にホームレスの方のブルーテントが出来てしまうということもあり、 現に西梅田地区でもいくつか見られます。
一方、 民間の管理の長所はいろんなイベントが出来たり、 オープンカフェの利用ができたりと、 利用者のニーズに合った望ましい状態での利用が可能で、 管理も質の高い状態で維持されることが多いことです。 ただ、 民間に任せておくと、 利用がどんどん営利目的になってしまう恐れがあり、 公共性という点からは疑問が出てくることになります。 また、 管理が滞れば、 空間の質も悪くなってしまう危険性もあります。
さらに、 今は公開されていても、 民間側の都合で公開されなくなる可能性も否めません。 例えば不法駐輪を防ぐためのカラーポール等を置いて、 空間の利用を拒否することもその一例でしょう。 つまり、 空間の機能性や将来性への不安が民間管理の場合にはあるということです。
公共・民間管理以外に、 その両者が一体となった協議会による管理方式もあります。 この場合、 地区全体で空間管理の質がそろうという長所がありますが、 何か問題が起きたときに、 解決のための意志決定に時間がかかるという短所があるようです。 さらに、 管理費に対する考え方の違いから協議会メンバーの中から異議が出て来るという問題、 つまり自分のところはあまり公共施設を持っていないのに何故同じ金額を維持管理に負担しなければならないのかという話が出てくる可能性があります。
このようにいろいろな管理のあり方を見てきますと、 民間管理は面白い利用ができ、 本来望まれる公共空間の使い方、 つまり再開発地区計画制度が意図した使い方に近いのではないかと思いました。
大阪市は、 地区施設は公開空地の基準でと言っていますが、 指導する行政、 建物を作ろうとする民間それぞれの側のプランナーやデザイナーが、 「この制度はこんな風に利用すると面白い空間が作れる」ということを分かっていないと、 この制度を有効に生かせないのではないかと思います。 今後、 市街地のいろいろな建物が更新されていくわけですが、 その際にこの再開発地区計画制度にあるような公共空地を生み出す仕組みが使えていったらいいと思うわけです。