葛藤の都市環境デザイン
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紫川リバーサイドプロジェクト

 

河川敷につくられた官民複合施設

 私はこのプロジェクトに携わってから初めて北九州市を訪れたのですが、 新幹線小倉駅から市街地を歩いて10分の所に井筒屋百貨店という九州では有名な百貨店があります。 本館と新館があり、 その前を紫川という一級河川が流れています。

 北九州市は工業都市というイメージがあるかと思いますが、 以前はこの紫川も汚く、 氾濫しやすい川だったそうです。 そこで北九州市は水質浄化と治水のために川幅の拡幅と水環境の改善に取り組んでいました。

 それに関連して、 井筒屋の前の敷地で建物と護岸が一体となった整備をしようという話になり、 この「紫川リバーサイドプロジェクト」がつくられることになり、 私がこれに関わったわけです。

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紫川リバーサイド計画(北九州市)の概要。

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外観
 タイトルに「8m×100mの敷地」とありますが、 実はこの井筒屋本館前に新しくつくられた建物の妻側は8mしかなく、 長さ方向が100mという厳しい敷地条件でした。

 地上が井筒屋さんの経営される飲食施設で中華レストラン中心の「紫江'S」という名前です。 そしてその下を護岸整備したのですが、 その中に河川交流施設として「水環境館」という一種のミュージアムのような施設が仕込まれています。

 この施設の目玉として川の断面を直接見ることができる観察窓があります。 この川は決してきれいな川ではないのですが、 その汚さ加減も一緒に見ようというものです。

 この計画の特徴は、 下の護岸整備を北九州市が行い、 上の飲食施設は井筒屋という民間が整備する複合施設であることです。 また下の河川構造物(土木構造物)の上に建築構造物が乗るという意味でも複合しています。 そのため上下で仕様が大きく違うため、 この点でもとても苦労しました。

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マイタウン・リバー事業
 この計画は国土交通省のマイタウン・マイリバー制度を使った事業です。 紫川は88年に隅田川や名古屋の堀川とともに第一号指定を受け、 後で少し紹介しますが小倉10橋と呼ばれる橋のかけ替えもこの事業で行なわれています。

 この制度は、 普通なら川を拡幅して改修するため、 流域の土地を買っていかなければならないところを、 図の赤で囲った地域を事業エリアとして、 河川改修だけでなく橋も水辺も建物も道路も一体的に支援していって、 ここで川を中心とするまちづくりをしようとするものです。

 小倉の市街地は、 主に小倉中心の業務商業エリアと、 市役所や小倉城のある文化ゾーンとに分かれていました。 それまでは紫川が汚いどぶ川状態だったので、 川側がまちの「裏」になっていたわけですが、 それらをつなげようという事業なのです。

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マイタウン・マイリバー事業図説
 こういう狭い所を河川改修事業で広げるときには、 普通その部分に建っていた建物は土地の買収を受けて解体されます。 この井筒屋さんの本館の前にあった建物の場合は、 それを売ってしまわずに、 たとえ8mでもここで飲食施設をして賑わいを醸し出そうというところから、 このプロジェクトが始まりました。

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配置図
 図に示した部分が8m×100mの細長い敷地です。 下の点線が元の川の範囲、 上の点線が4m拡幅した川の範囲です。 井筒屋さんは元々12mの敷地を持っていましたが、 河川側に4mとられ、 残り8mでこの施設を計画されています。 はみ出している部分もありますが、 そこは公共施設という位置づけになっています。

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断面構成図
 断面図を見ますと、 真ん中の点線の右側が先ほどの8mの民有地です。 この点線まで河川区域を延ばしています。

 上2層は商業施設で井筒屋さんが建てます。 その3階の川表側に、 市が展望施設を整備しています。 下には河川交流施設として、 先ほど言いましたミュージアムが整備されています。

 ここで普通ならおかしいと思うのは、 こういう民間の土地の中に公共施設が入り込んでいる事でしょう。 こういうことは普通許されないのですが、 これについては「河川立体区域」という制度を利用して、 河川区域をここだけねじまげて、 井筒屋さんの土地に地上権を設定して、 整合性を持たせています。

 このような複雑な事になったのには訳があります。 最初は元々建っていた建物の地下躯体を残して使えないかということで始まったものの、 問題が2点ありました。

 一つは幅が狭く、 ミュージアムとしては使いにくいこと、 もう一つは水位との関係で地下施設から水面を見ようとすると高さを少し調節しないと見えなかったのです。 そこで建物を前にひっぱり出して護岸の中に仕組まれたミュージアムとその上の商業施設という形になりました。

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開発前後比較
 これは完成前後の写真です。 開発前に護岸にあった木などを全部取り払って整備しています。

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水環境館(川をのぞく観察窓が奥に見える)

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同上 河川観察窓
 さて、 その水環境館ですが、 いかに北九州市が水環境の改善に取り組んできたかということをわかりやすく解説したミュージアムです。 観察窓がある他、 床に航空写真があってルーペで拡大すると自分の家が見えるようになっています。 これは滋賀県立琵琶湖博物館にもあるものです。 開館当時は人気を博しました。

 水はきれいとはとても言えないのですが、 北九州市の人に言わせれば、 これでも素晴らしくきれいになったそうです。 魚はほとんどいませんが、 たまにチョロチョロと泳いでいると、 逆にそれが大きな喜びになるという具合です。 地元の人にとっては、 汚れた川に魚が戻ってきたという感覚なのでしょう。 変わった水族館というか、 そういう意味では自然とダイレクトに向き合える空間になったと思います。

 このように魚がきたり、 たまにラッキーな人はドジョウらしきものやカニを見つけることもあります。 私はボラぐらいしか見かけたことはないのですが、 ここはもともと汽水域なので、 淡水魚と海水魚の両方を見ることができるそうです。

 来観した人が紫川にもう少し魚の種類を増やしたいと思うような施設にすることが、 これからの目標です。

 この何もない茫漠とした水を見ているとヒーリング効果もあります。 皆さんも小倉に行かれた際には是非100円払って見て頂きたいと思います。

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護岸整備
 護岸については、 他の場所は石でできていますが、 ここだけは商業施設の前ということで都市性を演出するためボードウォークにしました。

 またポンツーンはイベントに使おうということと、 将来遊覧船が来たときは船着き場にしようということでつくりました。 構想ではもっと大きい構造体だったのですが、 色々な葛藤の中でしぼんでしまいました。

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地上部商業施設「紫江'S」
 地上施設はこの写真のような中華レストランを中心としたものになっています。

 ちなみにこの施設の企画は元々イタリアンレストランなどの複合したものだったのですが、 社長がこれから着工というときに台湾に行き、 「やっぱりこれからは中華だ」という実感を得て、 変えてしまったそうです。


事業の流れ−みなもシアター

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事業経緯と私の提案 フロー図
 事業の流れを説明したいと思いますが、 もともとは井筒屋さんの描いた案に北九州市長がこれは良いと言うことで、 ガッチリ手を組まれたのが始まりでした。

 ところがその案は法規的にはかなりの問題がありまして、 その後話が進んで担当者レベルになるに従って、 段々と思惑が違ってきてしまいました。

 そして私が入った頃には、 市側は「井筒屋さんのために頑張ってる」というし、 かたや井筒屋は「北九州市のため、 しょうがないから力を貸してあげてる」というニュアンスになっていました。

 その中で、 北九州市のある局長さんから、 このような状況はよくないということで、 もっと全体的な考え方を提案する機会をいただきました。 私は外部から来ている人間だから言えるのかもしれないのですが、 小倉の街はやはり福岡や門司といった観光地に対して、 これからの発展が危惧される所があると思いましたので、 「小倉の発展」という大きな合意点に向かって皆さんで頑張りませんかという提案をしました。

 その提案を、 今となっては恥ずかしいのですが「みなもシアター構想」と名付けました。

 「シアター」というのは紫川が舞台で、 その周りにいろいろ整備されたものを客席に見立てるということです。 ですから都市資産が集中し、 マイタウン・マイリバー事業で投資をした所をやはり表舞台にしなくてはいけない、 それこそが小倉の生きる道だと訴えました。

 その中でもこのリバーサイドタウンは親水性も高いということで、 特等席になる施設にしたいという提案をしました。

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初期全体構想 舞台と客席の「見る」−「見られる」関係づくり
 これが私の最初の「想い」である初期全体構想です。 真ん中が舞台となっていて、 他にいろいろ施設を整備しようというイメージです。

 どの施設も川の方を向くのだ、 ここではイベントをやっていくんだ、 それに皆が協力していくというような姿を描きました。 こういう見る・見られるということが都市デザインとして必要なのではないかと思ったのです。

 反対側から見た井筒屋さんのイメージも描き、 やはり全体として今ある建物に囲まれた中で、 「舞台」とその「背景」という観点からデザインを決めていくべきではないかという提案をしました。

 また最初は真剣に噴水を上げようとか、 ポンツーンについてもイベントのときには引っ張り出せるようにしようとかいうような、 かなり絵空事的な大胆な事を描いていましたが、 後々縮小化されていきました。

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初期全体構想 最終目標は小倉の人々にとって幸せな都市空間
 この案自体は局長に非常に気に入っていただき、 その後、 例えば連絡協議会の場で発表させていただいたりしました。

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