葛藤の都市環境デザイン
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

 

「つなぐ人」としての私の役割

 

情報をつなぎ説得する

 まず、 こういう施設の担当は初めてですので、 当然、 技術的に押さえるべき所は押さえていかなければなりませんでした。 これが時間的にも精神的にも大きなエネルギーをとられました。

 例えば、 先ほどの観察窓を清掃しようとすると、 水族館なら水を抜くことができますが、 ここは自然の川なのでそうはいきません。 またこの川は塩分を含むので防水の劣化の具合が全く違うなど、 そういった細々したことをいろいろ検討しました。

画像h22
技術的検討例1 透過性護岸
 これは観察窓の前にある透過性護岸です。 上流から流れてくる色々なものから窓を防護するためと、 魚を集める魚礁みたいなものをつくるため、 その構造、 形状など色々と検討しました。

画像h24
満潮時(下)と干潮時(上)
 あるいは、 こういう施設では川の中だけではなくて小倉城が見えるべきだとか、 そしてそれがどういう風に見えるかということも検討しました。 ここは干満差が2mくらいあるので、 満潮時と干潮時でもちゃんと見えるかということも検証しました。

 これがそのCGで、 干潮時には小倉城や対岸の文化ゾーンも見えますと説明しました。

画像h25
技術をつなぐ
 例えばアクリルの掃除はどうするのか、 藻をつかないようにするには、 魚寄せの方法は、 といった諸々の問題について私が水族館に聞いたり、 アクリルメーカーに聞いたりするわけですが、 一つ気づいたのは、 こういった技術はいくら集めても「抜け」があるのです。 というのも、 アクリルメーカーの人はアクリルのことしか知らないし、 水族館の方は水族館のコントロールされた水槽のことしか知らないので、 結局そういった「抜け」を繋いでいく人がいないと、 ああいう形にならないのです。

画像h26
人をつなぐ
 私はそこまでの認識がないままプロジェクトを始めてしまったのですが、 だんだんと「つなぐこと」が重要ではないかと気づいてきました。 と同時に、 私自身にそんな知識はなかったので、 重荷にもなってきたわけです。

 ただ最初に提示した「想い」は、 ややもするとこうした日常のことで手一杯になって忘れそうになってしまいますが、 それでもやはり忘れてはいけないと常に思っています。


目指すことを実現するには

画像h27
めざしたもののゆくえ 構想をしっかり持ちつづけないと侵食されていく
 敷地面積が800m2程度ですが、 こういうプロジェクトでは多数の関係者が出てきます。 北九州市でも6つの部署、 井筒屋の社長とスタッフの方々、 当社担当者と関係の専門会社等々といった人達が皆、 バラバラの事を言い出す場合、 集約する役割がいないと先ほどの絵のようにはなりません。 実際にはあの絵をどんどん崩されそうになるのを、 いかに防ぐかということになってきました。

 ただそのときも、 最初の思いを忘れずにやっていくということは貫いたつもりなのですが、 実際には私が若かったせいか、 技術的な検討とか関係者の意向とかがだんだん出てきて、 最初思っていたことの多くのことは、 他のことでとって代わられました。

 一つは自分の思いの中にいろいろな意向があるということで、 そのこと自体は悪くないと思うのですが、 いかんせん一つ一つが消極的技術、 あるいは責任回避という名を持って入ってくるのは喜ばしいことではないと思います。

 もう一つは、 結局頑張って完成したものがトータルに良くなくては、 これは評価としてはダメだなと、 反省も含めてそう思います。

画像h28
形への収斂
 例えば観察窓ですが、 ここでもできた事とできなかった事があります。

 護岸の部分は、 最初はコストダウンのため打ち放しにする予定だったのを自然石を張ることにしました。 また、 魚は滝に集まってくるということで滝をつくりました。

 一方、 防護扉という観察窓を守る雨戸みたいなものをつけたのですが、 ステンレス剥き出しのままとしたのは興醒めだったと反省しています。 また防護扉のモーターも当初隠す予定でしたが、 ぽこっと出っ張ってピカリと光った状態で置かれています。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ