古の中のアヴァンギャルディズム
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壁の工法

 

左官と壁

上山

 左官工事が飛躍的に発達したのは近世城郭建築によるところが大きいと言われています。 お城は高い意匠性、 防火性、 耐久性を持ち、 権威、 象徴を表わすものでした。 その技術は土蔵の防火性を高めるために使われました。 一方、 千利休によって大成された茶室では白漆喰の左官文化が花開きました。 それが武家や豪商の邸宅に広まり一般化したのです。

 最近になり、 湿度を調節する性質を持ち、 保温力がある土壁が見直されるようになりました。

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施工手順
 大壁の施工手順は壁下地づくり(小舞掻き、 下げ縄、 樽巻き)、 荒壁塗り(荒壁付け、 裏返し、 貫伏せ、 大直し、 ムラ直し)、 中塗り(小直し、 中塗り)、 砂ズリ漆喰、 仕上げ塗りとなっています。 砂ズリ漆喰は乾き具合の調整をするものです。 仕上げ塗りは最高の化粧です。

 真壁では壁下地づくり(小舞掻き)、 荒壁塗り(荒壁付け、 裏返し、 ムラ直し、 小直し)、 中塗り、 砂ズリ漆喰、 仕上げ塗りとなっています。

 軒廻りは垂木に縄を巻く樽巻き、 荒壁塗り(揚塗呼土、 樽巻こすり、 大直し、 ムラ直し)、 中塗り、 砂ズリ漆喰、 仕上げ塗りとなっています。

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大壁断面図
 大壁は図のような断面構成となっています。 表側は全部で7〜10の工程があります。 下げ縄は30cmぐらいです。 30cm間隔に、 かつ馬乗り状(千鳥でかつ下げ縄を開いた状態)にいれて壁土が下がらないようにしています。 裏側は7工程です。

 玉打ち荒壁の厚みは21〜24mmもあります。 大直し、 小直し、 中塗りは9mmぐらいです。

 なおずっと古い蔵には小舞竹の代わりにモロギを使っているところもありました。

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真壁断面図
 四つ割とか六つ割りの小舞竹を使います。 図ではうまく書けなかったので縄が巻き付けられたように見えるかもしれませんが、 本当はぐいちぐいちに編んでゆきます。


柱と小舞

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横竹受けの柱のしゃくり
 次は柱を見ていただきます。

 これは大橋家です。 小舞竹を固定する柱の様子を写したものです。

 この段々になった部分に竹を載せ、 釘などで固定します。

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小舞下地(真壁)

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小舞下地(大壁)
 真壁と大壁の小舞です。 割った竹を3ヶ所編みます。 真ん中と中に入ったところを編んで行きます。 古い壁では上下(土台と梁)に穴をほって竹をはめ込むこともありました。

 真壁では割った竹を小舞掻きに使い柱の芯で納めています。 このため内外とも柱を見せることができるので住宅やお寺で使われました。

 大壁では柱の外側に水平に間渡し竹を渡します。 写真の下がっている縄は下げ縄です。 お城や蔵など壁の厚みが必要な場合に使いました。

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大壁小舞組。 間渡しに縦竹を取り付ける
 柱の外側で柱と柱をつなぐように水平方向に渡している間渡しが見えています。 間渡しと貫との間に縦にいれるのが縦竹で、 縄で固定しています。

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大壁小舞掛け
 これは大壁小舞掛けで下げ縄が取り付けられた状態です。 下げ縄がかなり入っていることが良く分かると思います。 壁土が下がるのを防ぐためのものです。

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小舞組み(軒廻り)
 妻の矢切部の樽巻きの状態です。 破風の部分では軒の形状に併せて樽巻きしてあります。 壁の凹凸は特別な下地を行いますが、 そのときは巻き縄竹といい、 竹に縄を巻いて調節します。 そういう場合は麻の縄かシュロ縄を使います。 画面で黒く見えているのがシュロ縄で、 巻き縄竹を付けた下地が下がらないように釣り上げています。


壁土

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壁土
 壁土をつくるときは、 古い壁土4にたいして、 新しい土6を入れます。 田圃の底土とか山から取ってきた新しい土は生きているので、 そのままでは使えません。 蔵なんかを倒したときに出てくる古い壁土を大事にとっておいて混ぜないといけないのです。

 スサは中塗りの粘りを調整するために各自が配合を考えて入れるものです。

 図にはありませんが、 中塗りの後、 砂ズリを入れた後に上塗りをします。

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荒壁土をつくる
 壁土は小舞に絡み付くように粘土性のものを使います。 古い壁土は固まっていますので、 水に浸して柔らかくして、 新しい土やスサ(細かく刻んだ藁)と混ぜて鋤で切り返し、 足で良く混練りします。 これを数回繰り返し、 一夏寝かします。 この状態を養生と言いますが、 養生中にも何度かかき混ぜます。

 そうすることで藁が発酵し分解され、 粘着力をますばかりでなく、 割れにくい壁土となります。 暑い夏に寝かしておいて痛ませて使うということです。


荒壁

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荒壁玉打ち
 大壁に玉打ちしているところです。 荒壁土を玉状にしたものをなるべく向こう側に出るように投げ付けるように打つわけです。 昔の人の知恵が良く分かる方法です。 ゴム手袋が鏝になっています。

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真壁の荒壁付け
 これは真壁の荒壁付けです。 古いものではシュロの葉っぱを貼ったものも出てきますが、 普通は藁をはっています。 今では寒冷紗を入れることもあります。

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軒先揚塗呼土
 呼び土を上から入れている状態の写真です。 左が妻側、 上が軒先です。 板を貼る前に上から呼び土を入れます。

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軒先揚塗呼土(下からの見上げ。 蛇腹)
 それが写真のように下に出てくるわけです。

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裏返し
 大橋邱の西側の米蔵の中です。 これは大壁の裏返しです。 貫と貫の間をまず埋めて行きます。 一辺には塗れないので、 少しずつ厚みを持たせて行きます。 貫はその後で塗ります。

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大直し
 だいたいの形をつくる大直しです。 四つ角に下げ振りをおろし、 水糸をはり、 定木を貼りつけ、 定木に合わせて壁土を塗ります。 角や直線の役物を作る為に定木を使っています。

 軒下のアールの部分が見えています。


中塗り

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軒先付送り
 歪みが出ないように、 中塗り土で縄を塗りこむ工程です。 ケラバには下げ縄が見えていますが、 アールのほうに土で塗りこんでゆきます。

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大直し付け送り
 上のほうが蛇腹、 アール、 くりのどとケラバが見ています。 画面の下側に瓦庇の台があります。 そこに瓦が一枚ずぼっと入ります。

 壁は、 まだちょっと荒が残っています。

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小直し
 小直し中です。 窓の上のちょっと穴があいているところに瓦庇がはいるわけです。

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中塗り
 中塗りの写真です。


上塗り

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軒先漆喰。 窓廻り
 窓廻りです。 鉄格子みたいなものが入っています。

 上塗りでは役物から仕上げて行きます。

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軒先漆喰。 軒先回り
 軒先回りに砂ズリをかけているところです。 蛇腹や破風など上の役物は仕上がっています。 米蔵の東面です。

 砂ズリのあと、 水分の引き加減によって上塗りをかけます。 泥の上にすぐ塗ると、 水分の吸い込みが大きいので、 上塗りが間に合わないし、 壁が大きいと塗り継ぎが必要です。 砂ズリは調整のために絶対に必要です。

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