質疑応答 |
桁の色彩が場所によって違っているのがすごく気になります。 なぜ全線を統一することを考えなかったのですか。
榊原:桁の色彩について
森重(GK設計):
久御山ジャンクション |
第二京阪の桁の色はマサ土(火成岩が風化してできる土)の色と称しているのですが、 久御山ジャンクション、 第二外環状とは全然違う系統の色を選んでいます。 宇治川の橋は久御山ジャンクションとつながっているところなので同じ色にしています。
私は会社で橋梁や遮音壁のデザインをしている仕事柄、 今日のセミナーに参加いたしました。 今日の見学会では桁、 橋脚ともにきれいなデザインをされていると感心しましたが、 桁の所には8メートル程度の遮音壁を付けるとのことで、 それは回りの環境にかなり影響を及ぼすのではないかと思いました。
その辺はどうお考えなのでしょうか。
榊原:
当初デザインをした段階では、 この道路は市街化調整区域を通るから遮音壁は付けないという説明でした。 ところが、 後になってからあそこは付ける、 ここも付けないといけないという話が出てきてしまったのです。 ですから、 高架橋と遮音壁が一体になったデザインは考えていなかったのが実情です。
大阪府域では遮音壁がつくのが一般的ですので、 最初から一体的になったデザインを提案しています。 最初から一体化して考えるのと後から付けるのでは桁の端部の作り方が全然違ってくるのです。 遮音壁、 照明柱をうまく処理できるようにしようと言ったのですが、 なかなかうまくいかず、 高架橋と遮音壁が別々にデザインされるような結果になってしまいそうです。
それと遮音壁の問題をもうひとつ言うと、 運転席から遮音壁によって外側が見えなくなるのはどうも良くない。 ですから、 運転席から見える部分は透明なアクリルを貼って視界を確保するようにしています。
このように出来るだけのことはやっていますが、 それが全体的にどう見えるかは心もとないところです。 とは言え、 高さが違ったときにどうつなげるかなど、 重要な所は押さえています。
高速道路全体に占めるコンクリート構造物の割合は多いと思います。 今後はRC構造であっても耐久性が問題となると思いますが、 コンクリートの塗装についてはどうお考えですか。
榊原:
最近は、 コンクリート脚に塗装してあるのがよくありますね。 ですから、 塗装を考えていないわけではありません。 ただ、 私は出来ればコンクリートはその本来の表情をそのまま出したいと考えています。 せいぜい防水剤を塗布するぐらいで仕上げたいと常々思っています。
しかし、 今日出来上がったものを見ていると、 桁のPCの鉄筋を締めた後に埋め戻したところとそうでないところや桁と脚とでコンクリートの色が全く違ったりしてます。 一体的デザインと言いながら上と下なんかで色違いになっています。 ですから、 コンクリートにも色を付けることを考えた方が良いという気もします。 建築のコンクリート打ち放しのようにうまく出来ると良いのですが、 なかなかそうもいかないのが問題だと思います。
それと色の問題とは少し違いますが、 今回のデザインについては、 いろんな折りに「施工がしんどかった」という言い方をされました。 そのしんどさがコストにどれくらい響いているのかは私にはよく分かりませんが、 逆に言うとしんどい施工になるぐらいのデザインにしておく方が実は良いのではないかと考えております。 というのも、 きっちりデザインしておくと「適当に施工しとけばいいや」という安易な姿勢がなくなり、 神経を使って施工してくれて、 ものとしては良いものが出来ると期待しているからです。 「逃げが効く作り方」がいっぱいあるのが現状ですから。 そういうことが、 おっしゃる耐久性にもつながってくると思います。
感想を語らせてもらいます。 私は土木デザインをよくよく見たのは今日が初めてかもしれません。 土木デザインがどういうものか、 勉強になりました。 特に橋脚の薄さですが、 山並みを背景にしたとき、 日本の技術もここまで出来るのかと嬉しく感じました。
また、 橋桁と橋脚を一体に打っているのも素晴らしい。 普通はその間があいていてローラーになったりピンになったりしているのですが、 こういう風にすると土木構造物のディテールが表現されているなあと思います。 やはり、 ディテールが感じられないデザインは殺風景になってしまうのですが、 こういうところに土木のデザインらしさを感じられて嬉しく思いました。 それだけに、 ここに防音壁がつくのはとても気になることです。
それと、 色彩についてですが、 私もコンクリートの素材を生かす色は良いと思います。 耐久性を高めるために塗装を吹き付けるにしても、 コンクリート系の色にした方がいいと思います。 こういう土木構造物はやはり無彩色がふさわしい。 あるいは現地の土の色に近いものにするとか。 土木構造物の色彩が目立つのは良くないでしょう。
先ほど、 打ち継ぎや後で補修した所が目立つから色を塗った方がいいかもしれないとのお話がありましたが、 それについては僕もそうだろうなと思いました。 パネルの痕なんかもたくさん出ていますが、 そういうのをきれいに仕上げるのは難しいし、 パネルの痕がデザインとして見られるかというとそうとも言い切れなくて、 やはりそういう時は上から塗った方がいいかもしれないという気がしました。
ただ、 洛南道路をバスで走りながら遠くに見えるブルーを見たとき、 あれはちょっとイカンのではないかと実は思いました。 橋の存在感を出しすぎていて、 目立ちすぎます。 土木構造物は存在感を出してはいけないと僕は思っていますので、 あのブルーはいただけないとその時は思いました。 しかしながら、 三川合流の所で空を見上げた時に、 このブルーの色はいいんじゃないかと思い直しました。 土木のデザインは色ひとつとっても、 難しいものがあると思います。 結局どうするのがいいのかよく分からないまま、 帰ってきたわけです。
最後に、 先ほどの森重さんの「なぜ色を統一しなかったのか」の質問についてですが、 土木構造物が非常に長い距離にわたる場合、 その土地によって合う色があるはずですから、 全体を同じ色にする必要はむしろないのではないかと思っています。
そんな風にいろんな事を考えさせられまして、 今日はいい経験をしたと思います。
僕も道路設計の仕事をしていますのでこの道路計画は以前から知っていて、 緑を多く使った道路ということで興味を持っていました。 とても広い60メートル幅の道路の中に緑を配して、 斜面からの緑を広げていくというお話ですが、 道路の効果を考えた場合どうなんでしょうか。
道路にはアクセス機能とトラフィック機能がありますが、 遠くから眺めるとこの道路はグリーンベルト状になっていて、 それによって地域が北と南に分断されて地域格差が起こるのではないかと気になりました。 道路は誰もが利用しやすいようにアクセスを造ることも大事だと思うのですが。
道路が出来た後にマーケットが張り付いて、 そこに人が集まって地域が活性化することも期待されています。 それなのに、 森が出来ることでその機能が遮断されてしまうのではないかと思います。 その反面、 森が出来たことで別の活性化があるのかもしれないと期待しています。
森が出来た後の道路と地域の将来像について、 どうお考えなのかをうかがいたいと思います。
榊原:
道路の基本的な構造自体に関わっているわけではないので、 ご質問の内容に関する意見を言う立場にはないのですが、 第二京阪道路の場合には地域へのアクセス機能より、 スルートラフィック機能を重視しているはずです。 そのかわり副道を付けて、 副道同士がスムーズにつながることを考えています。 ですから、 おっしゃられたように道路が出来て、 そこに店が集まってくるという今までのやり方とは違うことになります。 よくバイパス景観という言い方をしますが、 私は第二京阪道路沿いではそんな景観は出来てこないだろうし、 その方がいいと思っています。
大阪府域ではまだその辺の議論があって、 地元の市町村からは道路とその沿道の関わりを密にしてほしいという意見が出たりします。 それに対して国交省側はそういう作り方を考えていないようで、 むしろ一般道でも通過するだけの道として計画しています。 通行中の車がレストランやガソリンスタンドに寄るという使い方は想定していないという言い方をしています。 私もこの第二京阪に関してはそれで良いと思っています。 道路には高速道(専用道)・一般道・副道の3種類があって、 店舗が並ぶ沿道は副道とつながる形でいいと思うのですが、 いかがでしょうか。
和田:
今の説明ですと、 高速道路と一般道はスルートラフィックという同じ機能なんでしょうか。 しかし、 車を運転していて、 ちょっとコンビニに寄りたくなることってあるでしょう。 そんなときもわざわざ副道に下りて行かなくてはならないのでしょうか。 そういうのも、 道路の使われ方としては淋しいような気がしますが。
榊原:
商売をされる方の立場に立つと、 道路と店舗は密になった方がいいでしょうが、 道路とはあまり関わりを持ちたくない一般住民も多いでしょう。 環境面の問題もあります。 そう考えると、 道路施設は隔離された感じの方がいいのではないかと思います。 ただ、 場合によって地域が分断されてしまうという問題は出てくるかもしれません。
宮前先生、 何かご意見はありますか。
宮前:
土地利用のあり方によって、 道路構造や緑のあり方も変えていくべきだというのが私の意見です。
今日見ていただいたところは、 一部に工場がある準工業地域ですが、 それ以外は調整区域で農地をそのまま持続していく地域ですので、 広がりのある景観をつくりだす工夫が求められます。 一方、 ニュータウンエリア(ローズタウン)に入るところでは、 道路の上部に駐車場やショッピングセンターを大規模に作る予定ですので、 賑わいも感じられる空間づくりが必要です。 また、 大阪府域では市街地が連担しているところですので、 副道の利用も考えながら緑と歩道の配置をしていくことが今後必要になってくると思っています。
このようにいくつかのパターンが連続していく道路になっていくだろうと思います。
和田:
その時の歩道のあり方はどういう風になるのでしょう。 今ですと、 副道と一般道の間に歩道が挟まれる形になっていますが。
宮前:
今日見ていただいた歩道は、 たまたま河川に隣接していたので遊歩道的な形になっていますが、 歩道が一番外側にある場合、 つまり沿道とそのまま密接に関係しているところもあります。 土地利用によって道路断面も変わってくるのではないでしょうか。
高速道路からそのままショッピングセンターに入れるという事例を、 もう少し詳しく教えて下さい。 初めての試みだと聞いたのですが。
榊原:
松井山手のあたりですが、 あそこにパーキングエリアが道路のすぐ上に出来ます。 そこから車を置いて自由にどこへでも行ける構造になっています。
道路やその回りについてはデザインされているのですが、 橋脚の下はどうなっているのでしょう。 けっこう広い空き地が出来ますが、 そのあたりも考えておられるのでしょうか。
榊原:
橋脚の下の部分は、 基本的には一般道路になる場合がかなり多くなります。 ただ、 橋脚の下に2本の道路にはさまれた形で空き地ができます。 そういう所はいつの間にかゴミが捨てられて汚くなってしまうことが多いので、 どうしたらいいかの提案はしています。 とは言え、 なかなか良い案が少なくて決定打はないのですが。 少なくともフェンスを立てるのではなく、 一段高くした土盛りにしようかということを考えています。 ここもあまりコストはかけられないのですが、 いろいろと検討はしています。
大阪の千日前の阪神高速道路の下は、 いろいろ作っていますよね。 こちらの道路でも同じようなことが出来ないかという検討はしています。 ただ、 実際問題として何が出来るかを考えると、 コスト問題があって、 多分あまり何も出来ないだろうと予測しています。
それから、 高架下を何かに利用できないかという地元からの要望はあるのですが、 国交省は基本的には難しいという言い方をしています。 要するに、 道路としてだけ管理する形になっているわけです。
しかし久御山ジャンクションの下なんかを公園化するというのなどは、 できれば面白いと私も思っています。
私が気になったのは、 皆さんもおっしゃられていましたが色彩のことです。 色彩の選定に関する動機付けや理由付けは、 納得できないと思いました。
一般の人は理由付けなんか関係なく見て、 パッと好きか嫌いかを決めてしまいますよね。 見る人に「実はこの色はこれこれこういう理由で」と説明して回るわけにはいきませんし、 理由とは関係ない感覚的な部分が大きいなあと思います。 きっと「こんな色でいいんじゃないか」という不確かな部分でしか色彩は決められないのかもしれません。
好き嫌いはいろんな人の好みもありますし、 みんなが見ていいと思える色なんてないんじゃないでしょうか。 そうすると、 一般的に好まれる色を選定するしかないのかなと思いました。
榊原:
色の決め方は、 いろいろと候補を選びながらも最終的には「エイッ、 これで行こう」と、 白羽の矢を立てるみたいな感じで選んでいます。
長沼:
しかし、 いただいた「京都第二環状道路色彩デザイン基本方針」には「論理的な選定であること」と書いてありますが。
榊原:
ああ、 それはブルーの橋がある道路ですね。 あれは環境色という言い方をしていますが、 全体の環境の色彩の中で支配的な色は何かを考え、 それに合う色としてブルーを選んだという経緯です。
長沼:
それもやはり、 絶対多数が好む色として決められたという感じがするのですが。
井口:
私も色彩について、 ちょっとひとこと。
土木の色彩の場合は、 建築やインダストリアルデザインとは違う色の選び方があると思います。 土木は巨大だったり延々と続く構造物だったりするので、 存在自体が回りの色彩を超えて支配的な色彩になることもあるんですよね。 現在ある環境の色彩を壊すような土木は、 私は許せない。 ですから、 土木の基本は無彩色であってほしいんです。
ただ、 三川合流の地点で説明の方が「ここは支配的な色が空と川の色ですのでブルーに決めました」と言われた時、 その気持ちが分かるような気がしました。 例えば、 海に架かる橋が無彩色だったら私もイヤだろうと思うんです。
ですから、 土木の場合は支配的な色彩にどう合わせるかがポイントになってくると思うのですが、 もう一度言うと土木構造物自身が支配的な色になるのはまず止めた方がいいと思います。
榊原:
久御山ジャンクションの色を決めた当時、 僕が感じていたのは、 この頃の土木構造物の色は曖昧かつ無性格で変に汚い色になっているということでした。 それ以前に土木が自信を持っていた時代は、 例えば名神高速道路は赤を基調色にしていました。 あの時代の土木はたいていがそうでした。 大阪港の港大橋なんかも赤ですね。 後の時代になるにつれ、 変な色になってしまいました。 明石海峡大橋なんかがその典型だと思うのですが、 あの妙な緑色は最悪だと思います。 とにかく自己主張をしない色、 無難な色を選んでやっているようでした。
ですから、 久御山ジャンクションの時は、 自己主張したっていい、 はっきりした色を選ぼうと提案してあの色を選びました。 毎日通勤の時にあの場所を通り、 今は気になると言えば気になりますが、 おそらくあの色が地域の性格を作っていくことになるだろうと思っています。 そして、 それでいいと思っています。
あそこはそれまで何もなかった小椋池の干拓地の中に出来た土木構造物ですから、 それなりにいいんじゃないかと思っているのですが。
井口:
橋をデザインする土木の先生に伺った話ですが、 橋はシンボリックな存在で、 橋自体だけでなくその足元も大事だということです。 有名な橋は、 どちらもちゃんとしているという話でした。 だから、 地区のランドマークとして土木構造物を作るときはおっしゃるように存在を主張して当然だと思います。 久御山ジャンクションがそんな存在なら、 色の選び方としては妥当だと思います。
試験植栽地について感じたことですが、 ずいぶんと立派な木を植えられているなと感心しました。 ただ、 植栽密度が高いように思います。 数年経つと木同士がけんかして、 成長が悪くなるのではと気になりました。
(また、 橋脚の近くで、 以前からあった大きなセンダンの樹を保全していましたが、 非常に良い前例になると思います。 )
宮前:
おっしゃるとおりで、 あの場所は試験植栽地として作られたものです。 つまり、 ピアの高さに対して、 緑のボリューム感を示すために、 デモンストレーションとして大きな木を植えたものです。 植えてからずいぶん成長していますから、 高木の下に植えた木で枯れてしまったものがあるのもお気づきだと思います。
実はこれから問題になるのは、 実際に植栽していく所がコスト削減のために貧弱なものにならないかどうかです。 そうならないように願っています。
司会(前田):
質問がなければ、 今日はこれで終わりにいたします。 皆さま、 今日は長時間お付き合いいただきましてありがとうございました。 榊原先生、 宮前先生、 いろいろとありがとうございました。
遮音壁が景観に及ぼす影響について
北野(積水樹脂デザインセンター):
コンクリート構造物の塗装について
井上(浪速技研):
土木デザインについての感想
井口(京都造形芸術大学):
緑を使った道路の機能性について
和田(浪速技研):
ショッピングセンターの設立
井上(浪速技研):
橋脚の下のデザインはどうなるのか
坪倉(キタイ設計):
再び色彩について−土木の色彩感覚とは
長沼(JUDI中国・倉敷市):
試験植栽地の木について
中村:
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