淡路景観園芸学校の現在と未来
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住民参加型まちづくりの実例

 

ひとはくキャラバン

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ひとはくキャラバンin北播磨(加美町)/箸荷(はせがい)の地紅茶と地酒
 では、 住民参加型の一つの方法についてお話ししたいと思います。

 人と自然の博物館では、 立地上の理由もありますが、 なかなかお客さんに来て頂けないので、 お客さんの数をもっと増やそうということで出前博物館をしていますが、 その一環で「ひとはくキャラバンin北播磨−水辺の体温を測ろう−」というイベントをしました。

 地域の人達と実行委員会をつくって取り組んだのですが、 その活動を通じて地域の人達が自ら「はせがい紅茶」という特産品や、 「かみ芝居」という名の日本酒まで開発しまして、 今も道の駅で売っています。

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川の体温マップ
 本題の川の体温を測ろうというイベントには博物館からはGISのソフトと専門的ノウハウを持っていき、 地域からは30組が参加してくれました。

 具体的には2002年8月18日、 杉原川(加古川の支流のひとつ)の最上流(加美町)から加古川合流地点(西脇市)までの各ポイントにそれぞれ分かれて、 午後2時に水温計を一斉に川の中につっこんで川の表面から10cmのところの水温を測った後、 どこで計ったかという記録と水質サンプルを持って帰ってくるというものでした。

 この日はちょうど午後2時の気温が28℃でしたが、 最上流の加美町あたりでは水温は18℃でした。 ところが西脇市あたりでは気温と同じ28℃だったのです。

 このとき兵庫県河川課や国土交通省姫路土木事務所の方も来られていましたが、 この結果を見て「どうもここから下は河川をきれいに整備し過ぎてしまったな」といった話が出ました。 また、 地域住民の方も一杯おられて「この上には一杯バイカモが生育しているよ」とか「蛍が住んでるよ」とかいう情報が寄せられ、 楽しいイベントとなりました。

 単純な事ですが、 まさに住民参加で一斉にするからこそ実現できた調査でした。 私達は「国内初の試み」などとハッタリも言いましたが、 実際こういった参加型のデータを上手く使っていかないと、 これからの自然環境は維持できないだろうと思います。

 これを言ってしまうと自分で自分を否定しているような気になりますが、 アカデミックな植生図をいくら広げても、 地域づくり・まちづくりには通用しない時代になってきたのではないかと思い、 これをご紹介しました。 詳しくはホームページ「川の体温を測る!」を見てください。


水生昆虫の封入標本作り

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水生昆虫の封入標本・サンプル
 我々の博物館では「人と自然の会」というNPO活動団体がいまして、 その中で封入標本サークルというのがあります。

 封入標本というのは、 プラスチック樹脂に生き物を封入したもので、 上下左右どこからでも虫を見ることができます。 ただ素人が作るのは難しく、 しかし業者に頼むと1個数万円するのであまり発注しないようなものでした。

 ところが、 サークルに参加されている住民のお一人がこの封入標本を自分で作ってくれたのです。

 実はプラスチックを一気に入れると熱で中の標本が変色するのですが、 彼は建設会社の設計長をされていた事もあって、 プラスチックの場合もコンクリートを打つのと同じだということで、 樹脂の層を重ねて透明な標本を作るノウハウを独自に開発してしまったのです。

 さらに今まで公表されていなかった封入標本の製作方法を、 インターネットで全て公開してしまったため、 今すごいブームを起こしています。 また子供達には博物館に来たときにこういった標本づくりに参加する事で印象深い体験をしてもらっています。

 こういう力をどう上手く運用していくかが課題だと思います。


生き物情報の共有と公開

 もう一つだけ紹介します。

 これは我々と瀬戸内海で結ばれた六つの博物館が協力して、 生き物に関するデータベースをインターネットを活用してバーチャルに共有しようという話です。

 博物館とか研究機関というのは、 大方こういったデータベースを自分の所だけで持っているものですが、 我々はこれら六つの博物館をバーチャルに結び、 どの博物館ででも検索をかけたらどこかの博物館でヒットするようにしようということで、 検索エンジンを共有しました(インターネット自然誌GIS・環せとうちいきものマップhttp://www.naturemuseum.net/webgis/hajimeni.html)。

 また、 例えば皆さんがこれから仕事で「アカマツ」について調べるとします。 普通なら漢字の「赤松」で検索すると思いますが、 実はプロの博物館の人間ならカタカナで表記しないと検索でヒットしない事を知っています。 そこで、 どう書こうがカタカナの「アカマツ」に変換するような設定を検索エンジンにのせて、 どこかでヒットできるようにしたりしています。

 またこれには、 住民参加で作ったデータに、 住民も平等にアクセスできるようにしていこうという目的もあります。 このように自然環境情報も皆さんと一緒に共有していく時代に入ってきたと思います。

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同上・イワナとトビゲラの生息図
 これはその一例で、 イワナとトビゲラの分布域を示すマップです。 拡大縮小もできますが、 あまり詳細データを載せると捕獲されてしまうおそれがあるので、 あまり詳しくは載せていません。

 またこの中で大事にしているのは、 解説をしっかりしようという事でした。

 先ほどトビゲラと呼んだのは正確には「コカクツツトビゲラ」と言い、 葉っぱで自分の住処を作って生きている虫ですが、 これとイワナは川縁に広葉樹が生い茂る淵などに住んでいます。

 というのもイワナは淵の周りの木から落ちてきた虫を食べて生きているし、 またこれらの植物が葉を落とすことで、 その落ちた葉っぱを身にまとって生きているわけです。 決してこれらの生き物は別々に生きているのではなく、 こういった環境の中で系として生きてるのです。

 こういった事を住民の方々に知らせて勉強していもらいたいという話を今しています。

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鮎の分布マップ(市川)《分布マップのみ採用》
 また、 これは市川の鮎の分布図ですが、 これによると調査日にもよりますが上流と下流に沢山鮎がいるのに中の部分にはいません。 これはなぜかというと、 上流にいる鮎は琵琶湖から放流したもので、 下流の鮎は天然遡上したものですが、 堰堤の設置などの河川改修によってそれ以上、 上れないからなのです。 このデータを見た河川課の方はおどろかれていたそうです。

 このような事が我々の地域で沢山起こっています。 これを住民参加で調べていくとわかっていく、 そんな話がずっと動きつつあります。

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