テーマパークの集客装置としての環境デザインの仕掛けについてお話します。
まず概要ですが入口を入って最初のエリアがハリウッドエリアです。
それに続くメインストリートを突き当たったところからニューヨークエリアが始まります。 ニューヨークエリアの右側、 パークの真ん中にラグーンと呼ばれる大池があり、 様々なショーをしています。
ラグーンの奥がサンフランシスコエリアです。 そこから時計回りに、 映画「ジュラシック・パーク」のライドアトラクション、 ケビンコスナー主演の映画「ウォーターワールド」のショーアトラクション、 スピルバーグ監督の映画で大ヒットした「ジョーズ」のライドアトラクション、 スヌーピースタジオやウエスタンエリアの劇場へと続きます。
このように主要な都市エリアが三つあり、 それとは別にジョーズの舞台となった漁村「アミティ村」など、 映画にちなんだエリアが連結している状況です。
敷地は54haありますが、 駐車場を除くと39haで、 ゲストのエリアとしてはその約3分の2しか使っていません。 裏に施設を拡張するための用地を残しています。
アトラクションは19、 レストラン・ショップは45、 ラグーン以外の池もあり、 水を使ったアトラクションが多いことが特徴です。
各エリアでは建物形式や道路舗装、 街路樹、 信号、 看板、 ショーウィンドー、 スタッフコスチュームまでそれぞれのテーマに応じて異なっています。
多くの人は最初、 「ジュラシック・パーク」などのライドアトラクションに興味をもたれて入られますが、 劇場や路上では、 演出も細かいところまで指導された、 様々な大道芸、 歌や踊りなども行なわれています。
アメリカのユニバーサルスタジオ・フロリダや同ハリウッドがUSJの原型になっており、 そこから人気の高いものをもってきています。 しつらえ的にはほとんど変わりませんが、 入口の屋根はアメリカのパークには設置されていません。 雨の多い日本ならではの特徴です。
ライド(乗物)は、 ジュラシック・パーク・ザ・ライドで日本は右回りで米国は左回りが違うといったように、 ロケーションや形が若干違うだけで、 ほとんどアメリカにあるものをそのままもってきています。
ただ施設面で日本の法令等がアメリカと違うため、 また台風・地震などの対策で変えざるを得ない部分もありますが、 日本なりにかなり工夫をしています。
それでは、 ゲストの動線に沿ってみどころを紹介していきます。 まず、 最始にユニバーサルのロゴマークがある広場がありますが、 その下には社長室や事務所があり、 400〜500人の従業員が働いています。
パークゲートから入ると、 ハリウッドエリアです。 そこから奥のニューヨークエリアも見ることができます。 テーマパーク都市
―集客装置としての環境デザインの仕掛け―
テーマパークの概要、 魅力、 隠し味
USJは映画のテーマパークであり、 ハリウッドのパワーを様々に表現しています。
広場 |
カメラ屋の建物は1938年に建築された写真現像所を再現しています。 カルフォルニア・クレイジーと呼ばれる、 装飾性の高いデザインの建物をつくる建築家集団がありましたが、 その一人であるマーカスミラーによる建物です。 現在でも受けそうなデザインとなっています。 ここでは現像に加えカメラや写真の販売もしています。
カメラ屋隣のショップは、 1927年に建築され、 シュワブ兄弟が運営し、 主に薬を売っていたシュワブスという店も再現しています。 本物は取り壊されていますが、 ある女優が、 ハリウッドにこの店でスカウトされたという逸話もあり、 有名になった店です。
帽子屋の入口は当時の変わった帽子をイメージして造られています。
中には様々なデザインの帽子があり、 人気を見ながら店に置く帽子のデザインを変え、 たまに訪れると違った帽子が売られています。
ジョージルーカス監督の映画「アメリカン・グラフティ」にでてくるメルズドライブインという建物があります。 その入口付近には、 エンジンは載せていませんが、 その当時の車を置いています。
ユニバーサル・モンスターのロックンロールショーが行われる劇場は1930年にオープンした劇場を再現したものです。 昔、 アカデミー賞の授賞式の会場にもなっていたもので、 建物様式はアールデコで、 マーカスプリーカという建築家が設計しています。
パークの中には色々なショーウィンドーがあります。 あるショーウィンドーの中には、 「HOLLYWOOD LAND」という文字を掲げた山のジオラマがあります。
ご存じの方でしたらハリウッドの山の上には長さ135mほどの「HOLLYWOOD」という看板があります。 昔ハリウッドランドという不動産屋がこの土地を買って売っていましたが、 ロサンゼルス市が買い取り、 「LAND」をとって「HOLLYWOOD」としました。 それが現在ハリウッドのシンボルマークとなっています。
ショーウィンドーの中でそれを再現したウィットに富んだ表現です。
次のニューヨークエリアでは有名なニューヨーク57番街のメインストリートを再現しています。 建物群の裏側に「ターミネーター2:3D」の劇場があります。 劇場は外から見ると幾つかの建物に分かれて街並みとして見えるように作っていますが、 中は一つの建物となっています。
芸術家が住んでいる町、 ニューヨークの7番街も再現しています。
そこから少し離れ、 5番街にいく手前は下町の風景です。 そこは、 「スティング」などのアカデミー賞級の映画を撮影した舞台です。 ハリウッドでは、 映画を撮影した実際のセットを残してありますが、 ここではそれをそのまま再現しました。
「スティング」で、 主人公が対峙している相手をだますために散髪をするというシーンで出てくる散髪屋もつくっています。
建物だけではなく、 サインも本物と瓜二つです。 ショーウィンドーの中にある商品も基本的にはその当時と同じものとなっており、 本物がない場合にはそっくりそのまま作っています。
映画監督のヒッチコックは絵を立体的に見せる「だまし絵」をよく使いました。 USJにもニューヨーク市立図書館、 グッゲンハイム美術館、 ポーランド領事館のだまし絵があります。 実際に近づくと薄っぺらなことが分かりますが、 正面から入った時にはなかなか気付きません。
だまし絵は詳細に作ってあり、 例えば、 図書館の破風下にはラテン語で1895年から1902年までにかかって完成したといったことまで書き込まれています。
ただ、 裏側から見ると、 わざと看板であるということが分かるようにしてあります。
ラグーンと呼ばれる大池にいくと、 様々なショーが行なわれたりします。 特に夜の「ハリウッドマジック」という花火と水上で踊ったりするショーには様々な映画のシーンやサウンドがでてきます。 これには水上に浮かぶ舞台が使われ、 実は船舶免許を取った舟です。
サンフランシスコエリアにいくと釣り舟が浮いています。 先ほどのラグーンに浮いている舟は本物でしたが、 ここのものは環境演出のための偽物です。
サンフランシスコエリアのフィッシャーマンズワーフには、 ランドマークの丸いカニの看板があります。 ここのシーフードレストランは「007/美しき獲物たち」の舞台となった「ロンバーズ・ランディング」がモチーフとなっています。
このエリアにはケーブルカーの車庫があり、 その隣に「ザ・ドラゴンズ・パール」「バックドラフト」「サンフランシスコ・キャンディーズ」にちなんだ有名な建物が並んでいます。
映画「ホームアローン2」の主人公がニューヨークで冒険をしますが、 その時にでてくるフルトンマーケット、 魚の市場の一部もあります。
フルトンマーケットでは、 とれた魚を氷付けで置いてある様子が見られ、 これから出荷して売るという情景を展示していますが、 実際はトイレの横にあるため、 あまり気付かれません。
ジュラシック・パークはゲストがノリノリになるところです。
ただUSJのジュラシック・パークは歩いていける恐竜の動物園をイメージしており、 映画の孤島のものとは若干異なっています。
アプローチにはジェラ記シダ類のような昔の植物や、 恐竜の足跡なども見られます。 これらのメンテナンスをスタッフは頻繁にしており、 今日も一生懸命ガムなどを落としていました。 また壊されたジープが環境演出の一つとして置かれています。
ジュラシック・パーク・ザ・ライドのボートは約45度近い角度で落ち、 スリルがあります。 ジェットコースターを除いて、 この角度は他のパークのものと比べてもトップクラスです。
映画「ウォーターワールド」は、 地球が水で覆われ、 生き残った人間が水上生活をし、 ドライランドという土の土地を善悪が競って探しているという話です。
ですからウォーターワールドのショーアトラクションでは、 水をかけられたり、 チームに分けて競い合ったりと、 とてもインタラクティブな演出で、 人気の高いアトラクションのひとつとなっています。
火を使ったアトラクション映画で活用されている火薬や天然ガスなどの特殊効果を使っていますが、 これはアメリカ側が特許をもっており、 企業秘密になっています。 クライマックスでは、 水上飛行機が落ちてきて燃え上がります。
映画「ジョーズ」のアミティ村には全長約8mの鮫が吊るしてあります。 そこは写真撮影スポットとなっています。
アミティ村は漁村です。 村の入口の看板には人口が9190人、 海水浴時などのシーズナルな時は55313人と書いてあります。 これは、 本当に数えたかのように錯覚します。
アトラクションを待って、 ゲストが並ぶエリアは、 待っている間退屈しないよう漁村風景の再現などの環境演出をしています。
たとえば石碑などが置かれています。 海難事故で亡くなった人に対する追悼の意や、 海で働く人に対する感謝の意を込めて、 このような石碑がアメリカにはあり、 それをここでも再現しています。
ここではジョーズのライドボートアトラクションで観光船であるボートが出て、 冒険をして湾内を一周回って戻ってくる設定です。
対岸は奥行きを出すために建物は若干小さく作ってあります。
水上飛行機の乗り場を摸したところには、 鞄やプロペラを置くといった環境演出をしています。 建物の前のポールについているサインの上部には、 さりげなくANAの文字が入っています。 ジョーズのエリアは全日空(ANA)がスポンサーだからです。
続いてウエスタンエリアには劇場が2つあり、 ファミリーで楽しめるショーアトラクション、 ザ・ワイルド・ワイルド・ワイルド・ウエストスタントショーやアニマルアクターズステージをやっています。 皆さんはあまり行かれませんが私は好きなところです。
セントラルパーク(公園)もありますが、 そこの岩は、 古く見せるためのエイジングの技法を用いたもので、 コンクリートに様々なものを付着させて作っており、 本物の岩ではありません。
このようなエイジングの手法を用いると、 剥げた場合などのメンテナンスをしなければならず、 手間やお金もかかります。 これはユニバーサルのこだわりであるといえます。 ラグーンにあった木や杭なども、 エイジングの手法を用いたつくりものが殆どです。
アメリカはユニバーサルデザイン、 バリアフリーが進んでいます。 USJでは誘導ブロックをあまり使っていません。 音声誘導装置などの機械で自分の居場所を知ることができ、 アシスタントの犬なども劇場に入ることができ、 また車椅子で乗れるようなライドもあります。
これらは今まで日本のテーマパークではあまりなされていませんでしたが、 車椅子や視覚障害者、 聴覚障害者の方のゲスト比率もかなり多いこともあり、 ハード・ソフトの対応を我々は心がけています。
そういったこともあり、 学生さんが調べに来ることもあります。 この前は関西大学の学生さんが、 色々なデータを集め修士論文などに使おうということで来られていました。
色々なユニバーサル映画の特徴的なシーンを集めたパレードもあります。 パレードには、 たとえば映画「ハムナプトラ」に出てくるロンドンの2階建てバスなども登場します。 ディズニーの場合はおとぎの世界であるため、 多くのシンデレラの登場などがありますが、 USJは映画そのままのシーンや俳優、 演出でぶつけるというパレードとなっています。
(いままで紹介しました内容、 建物の由来、 バリアフリー等についてUSJ公式WEBサイト:www.usj.co.jpから詳しい情報が得られるものがあります。 )
パートを除く職員は約1100人おり、 それ以外にゴールデンウィーク等には繁忙期の非常勤も含めると延6000人近くになります。 外資系のサービス企業としては大きい方であるといえます。
ライセンス料については、 例えば東京ディズニーランドのライセンス料は入場料が10%、 物販が5%で、 平均すると大体7〜8%を払うと聞いていますが、 USJのライセンス料も大体同じレベルです。
ユニバーサル社は、 約90年前に映画制作会社として発展した企業ですが、 ハリウッドの撮影所の映画のセットを一般の人々に公開したことが、 このユニバーサルスタジオの発祥といわれています。
外国人の方はエンターテイメントする人を含めると、 時期で差はありますが200名近くいます。 アメリカやオーストラリアなどからローテーションで来られている人が多く、 大体半年契約で帰っていきます。
年間集客数が500万人以上の規模のテーマパークは、 私が調べた結果、 世界中で16〜17カ所あります。 そのうちディズニー系が七つ、 ユニバーサル系が五つで、 あとは韓国のエバーランドやロッテワールドといった比較的大きなテーマパークがある程度です。 500万人以上の規模のテーマパークはディズニーとユニバーサルが大半を占めているといえます。
このようなテーマパークができたのは、 先ほど述べたように映画スタジオを一般の人に公開したこともありますが、 その他に大きく三つ考えられます。
まず一つは、 様々な科学技術、 軍事技術を紹介する博覧会が定着したことが挙げられます。
1851年のロンドン博で水晶宮の建設など工業製品などを祝祭的に展示することが始まり、 1855年のパリ万博では最新のエレベーターを使用したエッフェル塔で人々に驚きを与え、 このような産業博がその後も開催されて積み重ねられてきたという経緯があるといえます。
ユニバーサルの色々な機械、 パイロ(花火)の技術、 3次元の映像、 音響、 センサー、 ライドを動かしている電気のシリンダーなどは、 軍事技術も含めた先端技術を何年もかけて安全性を確認し、 その上で導入、 使用しています。 このように、 テーマパークのルーツの一つは技術博覧会だと考えられます。
二つ目は、 ディズニーとユニバーサルに限った話になりますが、 古い町並みの環境演出としての活用が挙げられます。
欧米の古い町並みは世界大戦前後から評価され、 近代建築を含めた歴史的建造物の保存再生運動がおこりました。 それが観光地や人々の癒しの場として認識され、 このようなテーマパーク作りがはじめられたと考えられます。
USJでは、 このような環境イメージを演出的に活用し、 1920〜1930年の古い時代や未来にタイムスリップさせたような建築様式の錯綜などにより、 人々に日常的なことを忘れさせ、 心の高揚や安らぎを合わせてもたらすということもひとつの重要な要素としています。
三つ目に、 米国の映画産業そのもののノウハウと、 贅沢な資金力を使うということで成熟したといえます。 一つのアトラクションをつくるにはかなりの準備期間、 助走期間が必要で、 また、 お金もかかります。 エンターテイメントとしての色々な踊りやアトラクションをアメリカの方からもってくる、 また、 映画産業としての資本を導入することによって成り立ったといえます。 さらに、 非常に精巧なセンサーのような科学技術については、 日本だけの技術ではまだ無理であると思われ、 アメリカで作られたものや様々なノウハウを導入しました。
テーマパークと映画産業−成立の要因
運営会社は「(株)ユー・エス・ジェイ」であり、 アメリカやイギリスなどの外資が34%、 大阪市と民間企業43社が66%の出資比率で構成されています。
敷地地図 |
USJはまだ土地を買えるほどのお金を持っていないため、 現在パークがある場所は借地となっています。
資金調達は、 原則担保なしで、 計画事業そのものの事業性を評価して投資するプロジェクトファイナンスという手法を採用し、 官民をあげた新しい大規模な取り組みとなっています。 これは日本ではかなり大きなプロジェクトファイナンスで、 イギリスのファイナンス専門業界誌からその年の賞をもらっており、 ユニークな点の一つです。
また、 ある銀行系研究所の試算では、 初年度の雇用効果は約2万9000人、 経済波及効果は建設等を含めているので実際はすこし少ないと思いますが、 約6000億円といわれています。