祭りとコミュニティ
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伝統的祭りと地域社会−「コミュニティと祭り調査2002」より

 

 祭りはにぎやかに行われているように見えるのですが、 実際はすぐ近くに住んでいる人でも参加していない人が大勢いることが聞き取り調査をしているうちに分かってきました。 そこで、 祭りとコミュニティの関わり方について調べてみました。 つまり、 祭りに参加しているのはどういう人たちなのか、 また祭りに参加すると何か人生に有意義なことがあるのか、 なぜ人は祭りに参加するのか、 祭りは地域に貢献しているのか、 祭りは今後どうなっていくのかといったことです。

 それを誰に聞けばよいのかが問題なのですが、 まず祭りに参加している人たちに質問票を配りました。 祭りに参加している人たちはほぼ全員が氏子なのですが、 その中でも役割分担があって、 神輿を担いだり引っ張ったりしている人だけでなく、 町内からお祭り費用を集めたり警察へ折衝しに行ったりしている人もいます。

 次に氏子ではない周辺居住者として、 祭りが行われている地区の校区内の「戦後の住宅」に住んでいる人たちに質問票を配りました。 近くに住んでいますから祭りを見に来る人もいれば、 近くなのに祭りを見ない人もいるだろうと見込みました。

 言い忘れましたが、 この調査は貴志地区だけでなく、 大阪の祭りや兵庫県の網干の提灯祭りなど五つの農村地区の祭りを取り上げて調査した結果です。


どんな人が祭りに参加しているのか

 参加しているのは、 子供からお年寄りまで多世代にわたる男性ばかりです。 女性はほとんどいません。 また3世代など多世代にわたる家族構成の人が多くなっています。

 8割は生まれたときからその地域に住んでいる人でした。 半数の人が町内会や氏子、 檀家の集まりに積極的に参加しています。

 職業は半数がサラリーマン、 4分の1が自営業、 残り2分の1が無職、 つまりリタイアしたおじいさんがけっこう祭りに参加していることが分かります。 また、 半数の人が職住一致か職住近接です(農業もこれに含まれます)。

子供の頃の祭り経験の有無
 
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子供の頃の祭り経験の有無
 
 祭りの経験が人を祭りに駆り立てるのかという疑問がありましたので、 「子供の頃の祭り経験の有無」も聞いてみました。 祭りに実際に参加している人たちの過去の祭り体験が36.2%です。 氏子ではなくその地域に居住している人たちはその土地生まれでない可能性が高いのですが、 その人たちの23.2%は祭り体験がありました。

 参加者、 居住者に拘わらず日本人の80%以上の人が祭りに参加したことがあるか、 見たことがあると答えています。 ですから、 今祭りに参加していない人が特に祭りの経験が乏しいというわけではないのです。

その祭りの、 どのようなことが思い出されますか
 
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祭り体験と思い出
 
 祭りの、 どのような場面を思い出すかを聞きましたが、 体験者と非体験者で大きな違いがありました。

 祭りに参加したことがある人には、 神輿の鮮やかな色、 お囃子の音などが思い出として残っています。 ところが見に行っただけの人やほとんど参加していない人には、 祭りそのものではなくその時の夜店のことが思い出として残っています。 祭りの中に入るのではなく、 周辺にいたということです。


人はなぜ祭りに参加するのか

人はなぜ祭りに参加するのか
 
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人はなぜ祭りに参加するのか
 
 なぜ祭りに参加するかも聞きました。 この質問は参加している人を対象に行ったのですが、 世代や時代によって様子が違ってくることが分かりました。

 56歳以上の方で答えで多かったのは「役割を担う年齢になったから」「村の中でそういう立場になったから」という理由です。 ところが30歳以下になると「自分から参加したいと申し出た」「友人、 知人に誘われた」「親のすすめ」という答えが目立っています。

 つまり、 年輩の人が若かった戦後すぐの頃は村人の務めとしての公的な動機だったのに対し、 現在では個人で参加するしないが決められる自由選択になってきているのです。 どちらかというと、 年輩の人ほど「地域の付き合いが大事」が参加の動機であり、 若い人は「雰囲気が好き」と祭り好きの人が積極的に参加している実態になっています。

祭りに参加して思うこと
 
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祭りに参加して思うこと
 
 さて、 祭りに参加しての感想を聞いてみたところ、 これも世代によって答えが違っています。 一番頑張っているのは中年男性(30〜55歳)で、 この人達は祭りを自分が主人公になれる年に一度の晴れ舞台だと捉えています。 自己陶酔型です。 しかしその前後の年代の人たちは「自分の街が素晴らしいと思える時」という答えが多く、 どちらかというと祭りを見ているという印象です。 年輩の人の感想では「町中が一体化できる」という答えも多くありました。

周辺居住者の祭りとの関わりは?
 
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周辺居住者の祭りとの関わりは?
 
 周辺居住者はなぜ祭りに参加しないのかを知りたかったので、 この人達にも祭りについて聞いてみました。 祭りの存在を知っているかどうかの質問には、 30%ぐらいの人が「知らない」あるいは「知っているが一度も行ったことがない」と答えています。 「見に行ったことがある」が44%いて、 「毎年見に行く」と答えた人も20%いました。 ただ、 神輿を担ぐなどして参加している人は2.5%しかいませんでした。 近くに住んでいても、 祭りには参加できないのです。

祭りを見に行くようになったきっかけ
 
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祭りを見に行くようになったきっかけ
 
 祭りを見に行くきっかけとしては「面白そうだったから」という理由のほか、 「子供に見せたかった」「子供が行きたがった」など子供を媒介にしたきっかけが多いようです。


祭りは地域に貢献しているか

祭りの役割は何か
 
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祭りの役割は何か
 
 祭りは地域に貢献しているのか、 祭りの役割について尋ねてみました。 これは参加者、 周辺居住者にさほど答えの差は見られず、 「文化・伝統を伝える」が最も多かった答えです。

 参加者に多かったのが「地域の結束を高める」や「若い人が礼儀、 社会性を学ぶことができる」という答えですが、 周辺居住者は参加者に比べるとそのような評価は高くありません。 祭りの良さは参加しないと分からないものだという結論になってしまいました。

居住はふるさと意識に結びつくか
 
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居住はふるさと意識に結びつくか
 
 次にふるさと意識について聞いてみました。 祭り参加者では「ここにずっと住み続ける」と答えた人は8割以上になります。 そして「ここがふるさとだ」と答えた人も8割以上で、 これはよく分かる答えです。

 しかし、 周辺居住者の方は「ここに住み続ける」と答えた人は約6割いますが、 「ここがふるさとだ」と思っている人は26%しかいません。 周辺居住者の34%は「ふるさとは別にある」と答えています。 つまり、 お祭りをずっと参加し続けていないと「自分の町だ」とは思えない仕組みになっているようです。


祭りは今後どうなっていくのか

参加者が思う今後の担い手
 
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参加者が思う今後の担い手
 
 祭りは今後どうなっていくのかを参加者に尋ねてみました。 56歳以上の多くが「その町に住む人は、 できれば全員でやるのが望ましい」と思っています。 ただ、 「その町」というのは現在の拡大した市街地のことではなく、 自分たちが知っている昔ながらの旧集落をイメージされているようです。

 それに対し、 29歳までの若い人たちは「よそに住んでいても、 地域になじみがある人でやりたい人がやればいい」と考えている人が一番多く、 44%がそう答えました。 年齢が若くなるほど、 地域とは結びついていないことが分かります。

居住者が思う関わらない理由
 
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居住者が思う関わらない理由
 
 次に祭りが行われる地区やその近くに住んでいながら、 祭りに関わらないのはどういう理由なのかを聞いてみました。 若い年代からは「忙しいから」という答えがまずあがりましたが、 56歳以上では、 「若いときから祭りに関わっていたならともかく、 この年になってからは入りづらい」という答えが大半でした。

祭りに参加しない人の地域活動
 
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祭りに参加しない人の地域活動
 
 では参加していない人はどんな地域活動をやっているのかを聞いてみると、 30歳以上の半数が地域の自治会や町会単位で行われる活動に参加しています。 しかし、 神社の氏子会やお寺の檀家行事には全くと言っていいほど参加していません。

 ですから、 地域と離れて暮らしているわけではないけれど、 地域の伝統的な行事になると全く手も足も出ないという状況にあります。

子供や孫に祭りを体験させたいか
 
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子供や孫に祭りを体験させたいか
 
 「祭りを体験させたい」という意向は80%を超え、 参加者も居住者も共通しています。 ところが居住者に際だって多い「機会があれば体験させたい」(41.7%)という回答がくせ者で、 裏返せば「その機会がない」というのが実情のようです。 子供会を通じての参加はどんどん受け入れてもらえるけれど、 青年会以上の参加となると敷居が高いという現実があります。

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