連鎖のまちづくり
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2.連鎖のまちづくりのイメージ

 

 連鎖のまちづくりのイメージをつかんでいただくために、 まずは南船場で2002年夏に動き出したプロジェクトをご紹介します。


(1)「船場」プロジェクトの取り組み

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南船場プロジェクト
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南船場プロジェクト
 これは下が施設で上が58戸の住宅からなる小さなプロジェクトですが、 建築デザインは安藤忠雄さんにお願いし、 下階の吹き抜けから上部の住宅が見えるデザインになっています。

 これは「船場」という大阪を代表する街を活性化させることによって大阪の都心を元気づけようという目的で4年ほど前から取り組みを始めたもので「船場デジタルタウン構想」と呼んでいます。

 「南船場プロジェクト」が第一号として完成した後、 2号目、 3号目の計画も既にスタートしています。 このような小さなプロジェクトを船場の「まちなか」に沢山埋め込んでいき、 そこに居住と働くコアを一緒に作ることによって都心を活性化させようというのが狙いです。

 また、 この南船場プロジェクトの住宅は普通の住宅ではなくて、 SOHO(Small Office and Home Office)という居住と働く場が一緒になった住宅を供給しています。

 また上部のSOHOとネットワークするインキュベーター的な機能を下階の施設に入れたいと考えています。

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連鎖的コモンスペースの形成による市街地整備
 船場地区は約230haありますが、 太閤さんの時代から基盤はそのままです。 ご存じの方も多いと思いますが、 通りに歩道が無かったり、 公園に至ってはほんの小さな公園が1カ所あるだけです。 現在も地区計画の網をかけて、 建物コントロールがされています。

 そこで、 今後ここを人の住みやすい環境にするため、 建物の周辺に緑や歩行者空間などのコモンスペースを組み込みながら、 それらを「連鎖型コモンスペースの形成による市街地整備」として、 それを面的に広げていこうと考えたわけです。

 何故こういうものをイメージしたかというと、 ご存じの通り船場には駐車場とか空き地といった低・未利用の土地が沢山あります。

 実は5年前から公団で「土地有効利用事業」という不良資産になった不動産を《公団が》買い取り、 有効利用しやすいように整形し、 不動産市場に戻すという事業を実施しました。 その際に公団に持ち込まれた土地は船場だけで合計約150カ所、 10haあり、 50万円/m2としても約500億円分くらいの土地がここで遊んでいる事がわかりました。

 このゴミ塩のように散らばった小さな無数の土地を見て、 これらの土地を核として船場を活性化できないかと考え、 それには先ほどのような連鎖のイメージを展開する手法でやるしかないと思ったわけです。

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公開空地の分布・魚の棚付近拡大図
 また船場には、 総合設計でとらえた多くの公開空地の存在があります。 当初は個々の建物の公開空地だったわけですが、 それが段々連担して面白い都市の空間が生まれてきています。

 特に船場地区の北西部にある魚の棚筋あたりは、 ずいぶん公開空地が繋がってきています。 ちょうど日建設計があるところですが、 ここでは、 誰に強制されることもなく任意でこのような公開空地が連続して出来てきています。 これについても私は「連鎖」と呼べると思うのです。

 これらは必ずしも計画的にされたものではなく、 非常に偶発的ですし、 場合によっては地主がノーと言ったらおしまいです。 例えばこの魚の棚でもある有名建築家の設計した建物の所だけ公開空地が切れています。 部分的にこういうことがあると思いますが、 とにかく、 任意でもこのような全体的な都市整備が十分できるという確信を私は持っているのです。

 前置きが長くなりましたが、 私が言う「連鎖」とは、 そのようなことをイメージしているとご理解いただけるとありがたいと思います。


(2)連鎖について

 さて、 「連鎖型面整備事業」を定義すると「既成市街地における街区から地区レベルにあって、 総合的な「整備計画」(ガイドプラン)を手掛かりに、 着手できる部分から、 公民のパートナーシップによって複数の小規模な自力による建物更新事業が連続して起き、 それらが持続的に繋がり、 面的に整備が拡大していく事業」としました。

 また、 この「連鎖型面整備事業」は構造的に二つの要素から成ると考えています。

 一つは建物の「自力更新事業」です。 地主・家主などの権利者、 あるいは関係するディベロッパーなど、 主に民間事業者が自ら建物更新を行う事業を指し、 これには「個別更新」「協調化更新」「共同化更新」などがあります。

 またもう一方の要素は「連鎖誘引システム」と呼んでいます。 これは自力更新事業を連鎖させる際に、 それを先導したり、 下地・繋ぎの役割を担う事業を指し、 おおむね以下の九つのソフト・ハード事業から成り立っています。

 (1)柔らかなガイドプラン
 やはり「ガイドプラン」がこういった事業を先導していく下地になります。

 (2)適切な区域設定
 あまり大きな区域ではなく、 効果的な規模の区域を設定していく必要があります。

 (3)モデル効果
 できあがった事業がモデルになり良い感じで周辺に影響を与えることになります。

 (4)参加とルール
 いろんな方が参加し、 そこでルールが話し合われるような場づくりが大事であり、 例えばまちづくり協議会などがこれにあたるでしょう。

 (5)パートナーシップ
 (6)制度インフラ
 (7)公共公益生活基盤施設
 いわゆる生活道路や生活施設をどのように作っていくかは、 それ自体が整備の対象でもあり重要です。

 (8)種地などの土地
 「種地」というのはいろんな事業を先導的に作っていくための土地です。 先に計画的な建物をつくって、 一旦問題の箇所の住民を受け入れながら問題の所に取り掛かるという方法をとるわけですが、 そのときの受け皿となる土地のことです。

 (9)受皿住宅
 種地につくった住宅が権利者の方に移って頂く「受皿住宅」となり、 地盤を整備するときの促進剤になり、 また連鎖の際の有効な実施手法になります。

 これからいくつか事例をご紹介しますが、 それらのほとんどがこの九つの連鎖誘引システムによって自力更新が誘発され、 それが連鎖して面的な整備に繋がっていっています。 そういった所を読みとりながらご覧頂きたいと思います。

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