連鎖のまちづくり
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4。 まちづくりの方法としての連鎖

 

(1)連鎖型面整備事業の制度的枠組みのイメージ

 連鎖型の面整備事業が全てうまくいっているとは私も考えていません。 展開していく上で難しい点がたくさんあります。 しかし、 部分の改造を全体に広げていくにはこのやり方しかないのではないかとも思っています。 従来のように土地を買ってから面的整備を進めるというやり方もありますが、 今はそれがやれる時代ではありませんし、 その方法のみがいいとも思えません。 小さい事業をいかにつないでいくか、 またそれを任意事業でやるか法定事業でやるか、 あるいは選択制にするかなど、 そういう手法が今後は求められていく時代になると私は考えています。

 今申し上げた二つの事業、 自力更新と連鎖誘因システムを、 例えば小規模連鎖事業とか総合的まちづくり支援制度に組み立てれば、 ひとつの課題地区の中で基盤整備をやりながら上物整備も進む、 まちづくりの連鎖が進んでいきます。 お互いの事業をやることによって連鎖効果が上がっていくわけですが、 重要な地区は法定区域として定める方法もあります。 ハーバーランドの例で見たように、 任意事業として集合住宅を建てる場合は、 法定ではなく民間で自由にやればいいと思います。 基盤整備をしながら核となる地区を指定していくことによって、 こうした連鎖型のまちづくりが可能になっていくと考えております。

 ただ、 こうした手法は必ずしも新しい発想ではなく、 実は国の制度としてはどんどん先行してつくられています。 ですから、 このやり方は珍しくも何ともない状況になりつつあります。 しかし、 都市計画事業で全てが出来るわけではないんですね。 都市計画の手法を有効に使うところ、 そうではなく任意事業を使うところと使い分けながら面的な整備を広げていくことが必要なのではないかと思います。 そんな使い分けの手法を確立できないかと考えているところです。


(2)備えるべき五つの要件

 時間が限られていますので、 ここでは五つの要件のタイトルのみ紹介させていただきます。

 (1)計画面:柔らかな計画へ
 (2)事業面:小規模事業を部分から全体へ
 (3)制度面:多様な制度の拡充と組み合わせ
 (4)主体面:参画と新しいパートナーシップ
 (5)持続的展開:態勢とプロセス支援
 最後に、 こうした事業のモデルとなるような例を紹介して締めくくりとさせていただきます。


(3)事例:神谷一丁目地区、 街区再編プログラム(東京都)

画像d02
昭和61年当時の状況と平成8年度現在
 東京都北区に神谷一丁目地区という街区があります。 地下鉄、 JRの王子神谷駅という駅の周辺です。 工場と住宅が密集している住工混在地区ですが、 工場の跡地を公団が買収して事業を始めました。 その時、 工場跡地だけでなくその隣の住宅密集地も一緒に整備しようということになりました。 整備前と整備後の図を比べるとお分かりのように、 整備前のこの地区には幹線となる道路がありませんでした。 そこで幹線道路と共に、 クネクネしていた道をまっすぐにつないだりして回遊性のある道路を地区内に整備しました。

 公団の面開発事業(高層高密度住宅団地づくり)と基盤整備事業とリンクさせていたことがミソでして、 実は住宅整備で上がった利益を周辺地区の整備事業に充てています。 普通は開発負担金を取られるものですが、 この場合はそれを免除してもらって、 その代わりにそれに相当するお金も周辺地区整備のために投資しています。

 いろんな制度メニューを使いながら、 用地買収や用地交換をしたりして整備を進めていきました。 これは、 住環境整備モデル事業という制度を使っています。 今は木賃制度と一緒になりましたが、 だいたい同じような感じで整備がされています。

 この地域は工場アパートが点在していたのですが、 それを集約することで住工混在を解消しました。 それから、 道路整備に伴って住まいを移転する人のための受け皿住宅を用意しました。 また、 つい最近出来た共同住宅があるのですが、 それが出来たおかげで道路を通すことが出来ました。 このように、 いろんな事業が進みました。

画像d08
老朽(不良)住宅の改善実績図
 その結果、 地域内でも自力更新事業が進みました。 黄色で示したのが自力で建て替わった住宅ですが、 これは接道条件が良くなるなど地区内で基盤整備が進んだことによって家を建て替えたという例です。 基盤整備を進めたことで、 これだけの効果が上がったという一例です。

 さらに、 連鎖の効果は地区外にも波及しています。 神谷一丁目地区の隣の地区に大きな工場があったのですが、 それが移転したことでその跡地もテコに整備が進んでいます。 それは幹線道路を、 工場跡地を買収する前から作っておいたことが大きな要因です。 土地買収ができるかどうか分かる前から道路を確保しておいて、 買収の目処がついた時に初めて道路をつないで事業を進めたんです。

 このように都市計画としてきちんと立てないと事業は出来ないのかというと必ずしもそういうことはなく、 その気になって先を読みながらやればこんな任意事業もできるということで紹介しました。 私の考える「連鎖型面整備制度」構築のためのモデルと考えています。

 都の「街区再編プログラム」は時間の都合で割愛します。


(4)まとめ

 ここで私が言いたかったことは、 必ずしも都市計画の仕組みを使わなくてもいろいろ出来るということです。 都市計画をうまく使うことは事業にとって必要なんですが、 任意事業でも相当なことができます。 ところが、 市街地整備事業の中で任意事業は公共性が低いと見られています(そこで最初の「公共性」の問題が出てくるのです)。 私はその評価に不満があります。 むしろ、 点の小さな事業を広げていくことこそ市街地の整備事業では大事にしなければと考えております。

 しかしながら、 任意事業の課題を最後に指摘しておくと、 計画の担保性がないという点です。 つまり、 やれるところしかやらないわけですから行き着く先が分からないという性格を持っています。 どう評価すべきかが定まっていないところがあります。 評価の方法も考えるべきでしょうが、 決して公共性の低い事業だと切り捨てるべきものじゃない。 むしろ、 まちづくりの手法として有効に使うべきだと思う次第です。

 以上で私の話を終わります。

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