質疑応答
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大変なエネルギーのいる仕事だと感嘆しながら聞いておりました。 最初に住宅市街地整備総合支援事業(住市総)のアミをかけてから動くという話がありましたが、 連鎖のまちづくりの最初の仕掛けとしてはどんな風に線引きしているのですか?
まずは適切なエリア設定をすることが非常に大事だと言えます。 一般的には住市総や密集住宅市街地整備事業でアミかけしていますが、 自然地形や基盤の様子、 町内会などコミュニティの様子を重ねながら区切りやすいゾーンを決めています。
ただそれぞれの事業制度には概ね何ヘクタール以上ないといけないという縛りがありますので、 その面積に合うようにしています。 住市総事業の場合は25ヘクタール以上という縛りがあったのですが、 今はその制約はなくなりました。
なお密集住宅市街地整備事業を使った東大利地区の7千m2の事例を紹介しましたが、 なぜこんな形なのかという質問をよくされるので説明しておきます。連鎖のまちづくりの最初の仕掛けは?
田端(大阪芸大):
千葉:
東大利・住宅形式図、 整備計画図 |
さらに言うと、 道路をはさんだ北側のゾーンはもともとの事業計画には入っておりませんでした。 しかし、 北側の地主さんも参加され道路を整備して北に抜けることにした方がいいということになり、 このゾーンも整備計画に入りました。 ただ、 ミニ開発が盛んに行われている地区は事業に入れても無理がないので外しました。
このように、 いろんな要素をからませながら整備地区を決めていっています。
田端:
よく分かる説明、 ありがとうございます。 ただ、 この地区の場合、 整備地区だけじゃなく回りの地区も整備が必要なところです。 なのに、 なぜそこが選ばれたのかというところをもう少しうかがいたいのですが。
千葉:
住市総事業の場合、 タネ地があることが大きな要因です。 広大な工場跡地の回りに密集市街地が広がっている現況ですから、 跡地整備と密集市街地整備をリンクさせてやった方が効果が上がるだろうと考えました。 エリア設定は工場が移転するという情報をキャッチした上で作業に入ります。 普通なら、 まず整備をしなければというところから入るのですが、 住市総の場合は住宅の大量供給という名目もありますので、 工場が移転するという情報を聞いたときからその地域の作業が始まります。
大阪市内に淀川リバーサイド(40ヘクタール)や高見フローラルタウン(50ヘクタール)という住宅地があります。 淀川リバーサイドの場合は密集工場群が移転する際、 順次その土地を買っていくところから始まりました。 この住宅地も住工混在で老朽化した住宅が密集していて、 基盤整備が全くされていない地域でした。 土地を買収するのに十数年かかりましたが、 いろんな要素をからめて整備していきました。
高見地区は大きな工場跡地ができたので、 そこで住市総事業を展開したものです。 もともと周辺は防災上の問題もあった地区ですので、 改良事業も一緒にやっていきました。
どちらも整備の必要性が高かったゾーンですが、 そこに工場跡地があったので整備事業の可能性ができたという展開です。 事業としては、 とてもきれいに実施地区が決まった例と言えます。
連鎖型のまちづくりのポイントは、 自力更新事業がうまく進んでいくかどうかに尽きると思います。 同時に連鎖誘因システムがうまくかみ合うところは成功すると言えるだろうと理解しました。
例えばロジ・コートが連鎖しなかったのは、 どこかにうまくいかない原因があったからだろうと推察されます。 うまくいくところといかなかったところは、 何で決まるんでしょう。 また、 計画者側はまちづくりを連鎖させるために何を考えれば良いのでしょうか。
千葉:
核心を突いた質問ですね。
任意事業の欠点は、 計画の担保性がないことだと申し上げました。 思った通りのまちが出来る保証は何もないわけです。 従って、 うまくいくところとうまくいかなかったところの差が出てくるのは当然とも言えます。
どういう場合にうまくいくのかという条件についてはうまく言えないのですが、 最後に述べた五つの要因がうまくかみ合えばうまくいくと言えるんじゃないでしょうか。 特に私が強調しておきたいのは、 パートナーシップの存在です。 事業推進者の中でも地方公共団体がやる気になれば、 相当なことが出来ます。 進まないのは地方公共団体が熱心じゃないからと言い換えてもいいぐらい、 その熱意は大きなポイントです。 もちろん、 公共団体の熱意だけあればうまくいくというものでもなく、 偶然性が事業の行く末を左右することも大きいのですが。 この偶然をいかに確率の高いものにしていくかが問われ、 その計画技術がこれからの課題の一つです。
ですから、 成功へと導くためには最初の地区指定が重要な要素となりますし、 可能性のある地区を早く読みとる能力が大事だと思います。
任意事業を手がけた時に私たちが驚いたのは、 アミかけをした地域を全部しなくてもいいんだということでした。 それは画期的な制度でした。 と言うのも、 法定事業の改良事業ではアミかけをしたところは全面買収して最後まで計画しつくさなければならず、 一筆一棟たりとも残してはならないからです。 それに比べ任意事業はやれるところだけやったらよろしいという性格ですから、 よく言えば柔軟性に富むし、 悪く言えば無責任な制度だと言えるでしょう。
まちづくりは必要のないところまでやることはないので、 こうした制度を上手に使うことが必要だと思います。 効果のあるところを重点的にやって、 地域のツボさえ押さえればあとは民間や権利者が動いてくれるだろうという期待を持って、 連鎖する仕掛けや仕組みを作っておく、 そんな手法が大事だと思います。
うまくいかなかった例もたくさんあり、 任意事業の効果に疑問も出ていますが、 だからといってこういうやり方が無駄だとは思いません。
もうひとつ私が言いたいことで、 こうした事業の計画論をどう考えるかという問題があります。 マスタープランを作成して全てのものは予定調和的にこうなるという絵を描き、 それに向かってどんどんやっていく手法も一時ありました。 しかし、 必ずしもそうしたやり方をとらないでもよい計画論があるんじゃないかと思っています。 計画論を問い直すことも、 今後まちづくりに必要な作業だと思います。
とても共感の持てる話でした。 小規模な単位の連鎖が作られるやり方については私も共感するところです。 それぞれの単位でやる気のないところをさわっても意味がなく、 やる気のあるところを探してそこをモデルとして地区に連鎖させるというお話は、 とても重要な指摘だと思います。
その場合の課題としては、 計画の担保性だと言われましたね。 その時の関係性の中で注目したいのは、 小規模単位の住民組織(組合や協議会)です。
各住民組織間でうまく連携が行われれば、 地区での自己組織化により、 地区の秩序が生まれてくるのではないかと思います。 そうした住民組織について何か特徴的なことがあれば教えて頂きたいと思います。
千葉:
久保さんも私と同じような研究をなさっておられて、 私も久保さんの話に共感することが多いです。
今私たちが行っている整備事業の主体についてですが、 公共団体、 地元の団体が主で特別な組織があるとは思いません。
密集地区でやったときは、 もう一般化していますが協議会方式を採用しました。 最初は地主さんたちのみが手弁当でやっていた組織ですが、 後に行政、 公団、 コンサルタントを交えて4者の組織になりました。 神戸駅前で住市総事業をしたときは、 すでに神戸市が協議会方式を作っていましたので、 それに則って地元からいろんな提案を受けました。 協議会から行政に何回も提案が出されてきましたので、 そのなかで行政と事業体が協議してやれるものを採用していったという次第です。
川西市の能勢口駅前地区の場合は、 協議会はなく行政主導でやった事業ですので、 地元が組織を作ったかどうかについては聞いておりません。
これからこういう事業を拡大していくためには、 先ほども言ったようにパートナーシップが重要となります。 とりわけ、 地元の住民組織のほか、 NPO活動が注目されると思います。 NPOとパートナーシップを組むことで、 新しいまちづくりの新しいやり方がつくれるのではないかと私は期待しているのですが、 そのNPOがまちづくり協議会なのか別の活動をしているNPOなのかはわかりませんが、 まちづくりはハードを更新するだけではなく福祉面などいろいろなソフト部分も必要ですから、 いろんなNPOネットワークを組み込んで事業を多面的に展開していく時代になっていくと思います。
今日のお話をうかがって、 これはスローフード型のまちづくりだと思いました。 今までの再開発のやり方がスピーディにパパッとやってしまうファストフード型だとすれば、 連鎖のまちづくりは地域の素材を生かして時間をかけてうま味を出していくやり方だと思います。
ただ、 そのまちづくりの中では時間概念をどう捉えているのかが気になりました。 計画の担保性がないと言われましたが、 普通何かを計画するときはだいたい何年以内に完成するという計画期間がセットになっていますよね。 その点、 連鎖のまちづくりは計画期間がなく、 永遠に続くものだと考える性質なんでしょうか。
先ほどロジ・コートは連鎖に失敗したとおっしゃいましたが、 あれがタネになって20年後に花開くのであればそれは連鎖のまちづくりに成功したと言えると思うんです。 連鎖のまちづくりで、 時間の概念はどういう風に考えていらっしゃるのでしょうか。
千葉:
任意事業で一番困ることはまさにその点で、 鋭い質問だと思います。 「いつまでやり続けるんだ」と言われる性質を持っているんです。
今、 公的な事業制度を使って行われた事業は、 10年経つと全て事業評価を受けるシステムになっていて、 事業を継続すべきかどうか審査されます。 その中で、 こうした連鎖型のまちづくりは「どこで終わりにすべきか」を決めるのが大変難しいのです。 例えば淀川リバーサイドは昭和54年(1979年)からやっていますのでもう23年にもなる事業ですが、 それでもまだ終わりません。 何を持って終わりとするかを決めないといけないのですが、 その辺はまだ明快ではありません。
任意事業はだいたい10年を目処にするといわれていますが、 10年で終わった事業はあまりなく、 20年ぐらいかかるのが普通です。 また、 途中でやめてしまった事業もたくさんあります。 つまり、 地区がもう動かなくなった頃合いを見はからって「そろそろ終わりにしようか」と終息してしまうのが一般的ですね。
「備えるべき五つの要件」の中で「(5)持続的展開」をあげていますが、 任意事業には事業の持続性をどうはかって、 いつまでに何を仕上げればいいかという計画性が今のところないんです。 ただ、 今はそれをどう評価していくかが考えられ始めていますので、 そのうち事業の評価システムも出来上がっていくと期待しています。
私としては任意事業の計画期間は20年ぐらいだと思っていますが、 サステイナビリティ(持続性)の面から考えると、 本当にそこで終わって良いのかどうかは疑問です。 しかし、 今はそれに明快にお答えすることは出来ません。
付け加えておくと、 コーポラティブ住宅(ロジ・コート)が連鎖していかなかったのは、 誘引システムを十分用意できなかったこと、 特に公共団体とタイアップできなかったことが大きいと思います。
ところで、 このまちづくり手法をスローフードにたとえられたのは、 大変分かりやすくていいですね。 私もどこかで使わせてもらおうと思います。
今日千葉さんがおっしゃったまちづくりのキーワードは、 以前このセミナーで私が発表したイギリス・マンチェスターの都市再生のキーワードとよく似ています。 マンチェスターの場合も、 マスタープランを捨ててガイドラインを作ることから始まる革命的なまちづくりでした。 要するに、 事業の公共性を何で測るかが核になるわけですが、 今までのまちづくりが最初の目的が達成できたか、 あるいは投資に見合う利益が出たかという計測できる物差しで評価されてきたのに対し、 それで本当にいいまちが出来たのかどうかをマンチェスターではもう一度見直してみたらしいのです。 その結果、 むしろまちが悪くなったという結論に達して、 今までの計画期間を決めてやるまちづくり手法を捨て、 エンドレスにしてしまったんです。 そんなやり方にすると、 公共性の評価システムも変わらざるを得ません。
日本ではまだそんなやり方に対して評価する論理を持っていませんので、 なかなか難しい面があります。 しかし、 既に先進国では今までのまちづくりの手法を大きく改変している事例が多くあることについては、 我々も勉強しなくてはいけないところでしょう。
今、 日本では盛んに税金を使う事業を評価する作業が行われていますが、 その評価の仕方に相当問題がありますよね。 そうしたことについて反論できるように勉強の必要もあると思っています。
今日の千葉さんのお話は、 評価の枠組みを見直すという意味でも貴重な報告でした。 分かりやすく説明していただいて、 ありがとうございました。 では今日はこれで終わります。
連鎖するために必要なことは何か
増永(神戸松蔭):
まちづくりの主体である住民について
久保(久保都市計画):
連鎖のまちづくりにおける時間の概念とは?
森川(アーバンスタディ研究所):
これからのまちづくり手法とその評価のあり方
鳴海(大阪大学):
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