大阪駅北地区国際コンペを考える
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大衆芸能と仮設建築による集散都市

現代計画研究所 江川直樹

 

提案の背景について

 現代計画研究所の江川です。 今日のセミナーはJUDIの会員以外の方が大勢来られているようなので、 まず私のことについて紹介させていただきます。 私は建築デザインと都市デザインを仕事にしていて、 実際にものを作っている立場です。

 今回のコンペに参加する上でいろいろ考えました。 鳴海先生からは「都市のあり方を示す再開発のあり方を示せ」というお話がありましたが、 私は実はそういう提案をしませんでした。 何故かというと、 今、 あそこにハードなものを作る気になれなかったからです。 もっと言えば、 まちをつくっていくシステムやそのためのインフラより、 今大阪が出来るのは何かということを考え、 その視点からの提案にしようと思ったからです。 いつも考えていることが、 この場所なら出来ると思ったこともあります。

 提案の背景のひとつには、 「大阪を世界に知ってもらう」ということがあります。 佐々木さんも言われたように、 世界の中の大阪の知名度は低いですよね。 ですから、 大阪を世界中の人に知ってもらいたいと思いました。 大阪には大阪だけしかない魅力がいっぱいあります。 それを知ってもらうために、 とにかく来てもらうことが大事です。 今の大阪は、 たこ焼きとタイガースというある種の固定イメージしかないのが全国的庶民レベルでの現状です。 別にたこ焼きとタイガースが悪いと言うわけではありませんが、 それだけじゃなくてもっときめ細やかで人情味溢れるまちを人々に知ってもらいたいと思います。

 提案の二つ目の背景としては、 私は建築の設計をしていますので、 これからも建築の設計をする環境の中で楽しめたらいいという思いがあります。 世界中の建築の設計をする人に楽しんでもらえる場をここで提供できたらいいなと思いました。 プロだけでなく、 学生や市民の人たちにも建築に対する夢や未来をアグレッシブに感じ取ってもらえればいいと思います。 建築の学生はよく世界のいろんな集落や建築を見に行きますが、 そのきっかけとなるような場所がつくれたらということをずっと思っています。

 第三は、 大阪は芸人のまちだということです。 吉本興業だけでなく、 もっといろんな芸能が大阪にはあります。 言ってみれば、 庶民が気楽に楽しめる芸能があちこちにあるまちです。

 そうした芸能の世界と建築がどういう風に結びついたら、 大阪に人が集まってきてくれるのか。 それが出来れば、 日本の人だけでなく海外の人も惹きつけるでしょう。 また、 そうした結びつきが、 更には、 世界にまで広まって欲しいと思いました。 こうした私の思いが提案の基本的な背景です。


大衆芸能と仮設建築による集散都市

 こうして考えた提案が、 「大衆芸能と仮設建築による集散都市をつくろう」というものです。 仮設建築博覧会をこの場所で開いて、 世界中の建築家が参加できることにするのです。 もちろん全部の場所で開催するのではなく、 場所の一部を使って4年に1回開いていきます。 作られた仮設建築は、 閉幕した後に解体して世界中に持っていけるようにします。 大阪は、 そういう世界的なイベントが開かれるまちだと印象づけることが目的です。

 世界にはイベントでまちのイメージを打ち出しているところがあります。 例えばモナコはいろんなイメージが持てる都市ですが、 小学生でもすぐに答えられるのが「F1グランプリがあるまち」というイメージでしょう。 カンヌなら映画祭です。 大阪でも世界中の人がすぐにイメージできるイベントができないかと考えて提案したのが、 この仮設建築博覧会です。 日本の建築には民家などの骨太なものや数寄屋のように華奢なものが入り交じっていますが、 仮設建築は骨太感と華奢な感じの両方が具現化できる空間だと私は思っています。

 そして、 こうした場所にいろんな芸能を演じる人たちに来てもらって、 世界大衆芸能博も同時に開催します。 これは仮設建築の中で演じてもらわなくてもいいと思っています。 芸能は箱の中だけでやるものではありませんから。 もっと新しく考えて、 囲うだけの空間の中で演じるとか、 ランドスケープを利用しての舞台でも何でもいいでしょう。 というのも、 今、 劇場空間が廃れていて、 どこもどんどん閉館に追い込まれています。 ですから、 古いイメージの劇場だけでなくもっと新しい演劇のあり方を考える空間にもなっていけたらと思います。

 私たちの世代でしたら、 寺山修司や唐十郎が出現していろんなパフォーマンスを作りだし、 私たちをわくわくさせてくれたものでした。 劇団四季も仮設劇場を使ったりしてそうした革新的な側面があったのですが、 最近ではどうでしょうか。

 また、 大衆芸能の盛んな場所というと、 アフリカやインドネシアのバリ島を思い出します。 それらはその土地の気候風土や文化的背景によって成り立つのですが、 大衆芸能をメディアで知ることによって現地に行ってみたい気持ちになることもあるでしょう。 映像では得られない生の魅力に触れるために、 それが行われる場所に行く。 大阪北ヤードがそうした気持ちを起こさせる場になることも可能だと思います。 ここまで話すとちょっとこじつけ的だと思われるかもしれませんが、 「集まりそして散らばっていく場所」の魅力をここで発揮できたら面白いと考えています。

 ですから、 この場所は固定的なものを作るよりも、 しばらくは仮設的な建築を使い回ししながら、 仮設というものの意味を考えたいと思います。 同時にハードやインフラの意味も考えたいものです。 日本は地震国ですから固定的なものを作ろうとしたら、 相当にしっかりしたものを作らなければいけない。 ですから今、 繊細で華奢な感じは年ごとになくなりつつあり、 我々自身の感性もスポイルされつつあるんじゃないでしょうか。 実際、 ものづくりの現場にいると常にそういうことを考えさせられます。 だからこそ、 消えつつある日本建築の繊細で華奢な部分、 竹や紙といった素材への憧れもかえって意識するのかもしれません。 現実の建築の世界ではやりにくいことを、 あえてこの場でやってみてはどうか。 それが私の提案です。 私自身はそんな場があれば建築家として面白いと思います。

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