21世紀 都市デザインの課題


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東城路(歩行者モール)
 
澤木昌典


大邱中心部と東城路(青色部分)
大邱駅から南へ約900mにわたって続く歩行者モールが東城路(トンソンロ:地図の青線部分)である。周辺には3つのデパートのほか、ブティックなどの商業施設が数多く集積し、大邱都心の繁華街を形成している。東城路の中央付近の1街区西側にある地下鉄中央路駅は、平成 15 年 2 月 18 日に犠牲者 196 名を出した放火による地下鉄火災事故のあった駅である。


歩行者モールは湾曲しながら、さらに西へ韓方薬の問屋街である大邱薬令市(ヤクニュンシ)へと続くが、これらの2つの道はかつて李朝時代の大邱邑城の城壁があったところである。

東城路

東城路の夜の様子

東城路の露店のワゴン

東城路へ通じる横丁では街路市場が開かれている

東城路では中央部に露店やフラワーポットが並び、その両側を人々がそぞろ歩いている。当日は日曜日であったので、午前はやや閑散としていた通りも午後からは人通りが増え、夜になるとさらに増えて雑踏の感を呈した。日本の中心市街地が忘れかけている町の活気に、久しぶり触れた気がした。

露店はステンレス製で規格が統一されているものが多く、日除けの傘も含めて、市当局が規格等を定めて許可し営業させているようで、整然とした街並みを形成している。しかし横丁に目をやれば、そこには韓国の他都市で多く見られる露天商や商品の陳列台がそこかしこに並び、こちらも活況を呈している。人々のエネルギーを感じられる町である。

旧市街に残る韓屋,韓式住宅


大邱タワー周辺に見られた韓式住宅の街区

ビルの林立する都心部に残る韓屋


大邱の韓式住宅の平面図(全現美博士論文より)

都心部に残る昔ながらの塀がつくる路地空間

焼肉レストランとして残っている韓屋

  大邱市の都心部からその周辺部にかけて、韓屋や韓式住宅(図)というL字型の平面を持つ瓦葺きの平屋建ての住宅様式が残存しているのを見ることができる。

  韓屋は韓国の伝統的な庶民住居形式の一つであり、通り景観としては大門と塀が特徴である。一方の改良韓屋とも呼ばれる韓式住宅は 1930 年代半ば以降に集中的に建設され、韓国全土に普及した形式であり、こちらも大門と塀が特徴であるが、この様式の普及には日本の植民地時代の朝鮮総督府が定めた市街地取締規則 (1913 年 ) や朝鮮市街地計画令 (1934 年 ) が影響を与えたという。

  大邱中心部の旧城郭内には、韓屋および韓式住宅がわずかながらいくらか残っている地区があり、そこには塀で形作られた路地からなるヒューマンスケールの道路空間が残存している。しかし、これらの住宅は、近年取り壊されるものが多く、その跡地が店舗や駐車場に変わり、市街地の様相は大きく変わっている。

韓国の伝統的な居住様式を継承し、かつての市街地景観を特徴付けていた韓屋ならびにその市街地の環境を大邱の地域資源として保全していけないものかと考える。焼肉レストランとして残っている韓屋の一軒を訪ね、内部を拝見した。日本でも町家などの再生利用が盛んになってきている。韓国の韓屋もそうしたリノベーション手法によって、大きく生まれ変わる可能性を秘めている。



大邱ワールドカップ競技場


大邱スタジアムへのピッチへと向かう JUDI メンバーたち

良く整備されたピッチ

2002 年の FIFA ワールドカップの会場の一つである大邱ワールドカップ競技場を訪問した。グループリーグでの韓国−アメリカ戦(1−1で引き分け)、3位決定戦の韓国−トルコ戦(2−3で韓国は惜敗)が行われた競技場である。

  ピッチに向かう通路で、ピッチに足を踏み入れんとする JUDI メンバーのシルエットに、試合前の緊張感のようなものを感じたのは私だけか…。芝はよく手入れされ、朝露に濡れていた。

韓国と日本のこれから(澤木 version)


大邱の市街地で見かけた日本の大正時代の和洋折衷洋式を伝える住宅。大きくなったカイヅカイブキが印象的。
 大阪大学の鳴海研究室と韓国の交流は、これまでにも永く深い。大邱については、 2001 年に「韓国都市の住居集合環境における屋外空間の構成と評価に関する研究」で博士号を取得した全現美さんが韓式住宅地区と集合住宅地区とをその研究対象としていた。また、現在も大邱出身の慎鮮花さんが大学院に在学しており、今回の大邱セミナーに際しても帰国し支援してもらっている。韓国との深い学術交流は当研究室に限らず、今回のセミナー参加メンバーである関西大学の丸茂研究室や大阪大学の小浦研究室でも同様であり、今回のセミナー、そして DUDI 設立を契機に今後もより一層の交流を深めていくことになることを期待している。

  私が韓国の都市において関心をいただいているテーマの一つに韓国の住宅および住宅地と緑との関係がある。韓国では国土計画の基本目標の一つに自然との調和が挙げられている。韓国には自然は遠くにあり、ありのままの状態におくという自然観があり、塀で囲まれた住宅には樹木はあまり植えられてこなかった。しかし、ソウル郊外のニュータウンの戸建て住宅地などを訪れると、オープン外構の庭の洋式の住宅にマツを主木とした植栽を施した、いわば韓洋折衷様式のような住宅地景観が展開している場所がある。大邱での塀崩し運動の行く末とも関連して、韓国の戸建て住宅街の街並みや外部空間が今後どのような方向に展開していくのかが興味深い。あわせて、日本に比べて計画的な開発が政府や自治体の強い力で遂行される傾向にある韓国において、自然環境をうまく取り入れた環境共生型の住宅地区や新市街地がどのように形成されていくのか、非常に興味深く見つめて行きたいと思っている。

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