議論
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司会(岸田):
ここからの時間は、 今日のまち歩きの印象や今の発表に関する意見交換をしたいと思います。 また、 今日は地元である船場にお住まいの方にも参加していただいております。 まずは、 今も船場のビルを自宅として住まわれ、 「船場賑わいの会」の活動をされている藤井さんにご意見やご感想をひとこといただけたらと思います。
私は昭和6年生まれで、 戦争中の疎開を除けばずっと船場の空気を吸って生きてきました。 この会場の中では一番船場の空気を大量に吸った人間だと思います。 私の親父も船場の丁稚上がりでしたから、 二代続けて船場にお世話になっています。 もう私も73歳で、 死ぬまでに船場にご恩返しをせねばと思ったのが、 70歳直前だった5年前です。
とは言え、 まちのために何をすれば最善かよく分からなかったし、 私が落語が好きなので、 手軽にまずは、 船場に生まれたと言っても良い上方落語から人集めをしようと始めたのが、 「船場賑わいの会」活動です。 5年たち次はどう広げるか、 考えているところです。
最近、 産学連携とか産学官民連携というテーマがよく新聞に出るので、 この一週間私はそのレポートを読んでいました。 みなさんいろんなことをなさっているとビックリしています。
ただ、 「産業や経済の立場」から考えると、 船場の再生は急には難しい。 盛んだった昔が際立つだけ、 少々の努力では間に合わぬと思うからです。 「立場」を遊びに移して「賑わいの会」を始めたときも、 仲間からは「やめとけ」と忠告されました。 私もやらないのが一番楽だとは分かっていたのですが、 やりながら考えようと、 微々たる活動を続けて参りました。
私がやったのは、 例えると「点火」です。 活動の延長線上でまちづくりに関心と意欲がある方とのつながりができればいい、 と思っています。 「賑わいの会」のマッチにあと15人ほど有志がかがり火を持って集まれば、 私もその一人に加わり直して何かできると考えます。
今日の発表は建物の話が主体でしたが、 私は船場復興の起動エネルギーになるのはハードよりもソフトだと思います。 落語もそうしたソフトの一つですが、 幸い船場には、 偉人が残してくれた「学、 文、 芸」のソフト資産と文化力がずいぶんあり、 それを使って何かできると考えています。 こうした考えは、 山崎正和さんの「やわらかい社交都市」など、 多くの方の発言に表われていて、 これからの都市はハードではなくソフトで再生するべきだ、 という議論が好きです。 しかし、 「言うは易く行うは難し」は金言で、 「船場再生」にも典型的に当てはまります。
ですから、 これからの都市再生は「産・学・官・民連携」は当然として、 地元に住む人、 働く人、 遊ぶ人が入った複合体でやるべきだし、 そんな皆さんの関心に訴える「地場運動」でなくてはいけません。 そのためには、 建物を含めた都市計画や税制、 経済特区、 ソフトを使った賑わい作りなど、 総合的な目配りが要ります。 「個別から全体へ総合する協同」を目指すと、 船場再生の大きなきっかけになっていくんじゃないでしょうか。
私も大阪生まれの大阪育ちですが、 今日は生まれて初めてに近い感覚で船場を歩いて、 やはり相当変わってきているという印象を持ちました。 禿さんもファサードに注目した発表をされていましたが、 私も船場を歩いてみて、 人が動いているのが見えるファサードを見たとき、 新鮮な感じが致しました。
今まではファサードと言えば石貼りやタイルという建築の素材でとらえていたものが、 人がショップにいるとか、 レストランでくつろいでいる姿という「人」が主体のファサードが出てきているようで、 これからもそうしたものが増えればいいと思います。
もうひとつ思ったことは、 船場のシンボルって何だろうということです。 確かに大阪の中で船場が知名度がないことは私も感じていましたし、 船場センタービルがそうだとしたら「次もまた来よう」と思わせるだけのシンボルにはなっていないと思います。 今日歩いてみて「人で賑わっている」と感じたのは唯一心斎橋だけです。 心斎橋のように南北の通りは人通りがありますが、 東西を結ぶ道修町、 南久宝寺町は寂れている印象です。 5〜6間の間口の建物をうまくつないで東西の通りがシンボルになるような、 うまいまちづくりができないかなと思いました。
ヨーロッパはファサードは変更せず、 都市の雰囲気や景観を維持していますが、 日本あるいは船場ではそういうわけにはいきません。 これには、 税制などによるインセンティブや法的規制などに彼我の違いが考えられます。 現存する建物に手を加える場合、 建物の外観部分をそのまま残し、 内部だけを取り壊して、 便利に建て直すには当然余計な費用がかかります。 ところが、 ビジネスや商売では採算を度外視することはできませんから、 外観をそのまま維持するには難しい点があろうかと思います。 そういう違いがある中で、 どうしてアムステルダムと船場の写真を「町並みの連続」というタイトルで掲載されたのか、 できれば補足説明をしていただけたらと思います。
禿:
アムステルダムに限らずヨーロッパの古い町は、 建物の外観は変わらないもの、 町の景観は変わらないものだというのが住んでいる人の常識です。 日本の場合は、 建物は個人の所有物だという立場が優先されることから、 町並みは個人の自由に出来るということになります。 ヨーロッパとの違いは大きいと思います。
ただ、 日本では個人の自由でありながら似たような形に出来上がって来るという現象があることに私は注目しました。 出来上がる過程では経済的な側面や社会的な影響を受けながらも、 〈水平連続窓〉の形のビルが多いといったことです。 ヨーロッパとアプローチは違っても同じように町並みが連続するという意味合いで二つの町を比較した次第です。
最後にこの愛日会館の紹介をさせていただきます。 ここはけっこう予約をとるのが大変な所でして、 地域のみなさんにいかに愛され、 よく使われているのかが分かります。
有名な愛日小学校は北のほうにありますが、 校区の集会所として地域の方々がつくられた会館なんだそうです。 現在も地域の方々が管理され、 いろんな催しに使われています。 日頃は地元の会社の方が商品の展示会を催したり、 集会や研修に使ったりと様々です。 また会社関係以外では、 地域の人の習い事の教室に使われることも多いそうです。
そんな地域に根ざした場所を今日は使わせていただいたことを、 みなさんに紹介しておきます。
今日は船場という地域に密着した調査を発表しました。 こうした調査は他の大学でもやっていると思いますので、 将来、 お互いに発表交流会をやれたらいいと思っています。 今日はみなさまご参加ありがとうございました。
船場再生は、 産学官民共同で
藤井秀昭(船場賑わいの会):
最近のファサードおよび船場の印象
高原((株)HTAデザイン事務所):
なぜアムステルダムと船場の比較写真があるのか
玄道(歴史街道推進協議会):
アムステルダムと船場(『船場を読み解く』P. 61、図20)
禿さんの資料の中に「アムステルダムと船場」(『船場を読み解く』p. 61、 図20)という比較写真が掲載されています。 アムステルダムは運河沿いにファサードが並ぶ町並みで、 近年 は「あれっ」と目を引くファサードが点在していて新しい景観を生み出しています。 ベルギーのアントワープの都市再生の現場を見ると、 ファサードだけは壊さないようにして内側は全部作り替えています。
今日の会場〜地域に根ざした愛日会館について
岡絵理子(大阪大学):
最後に
鳴海(大阪大学):
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