日本の原風景の源流を探る
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

 

承・二兎を追うブータン

 

「民族衣装」と「英語」

 このブータンという国をお伝えするにあたって、2つの大きなポイントがあります。

 一つは民族衣装に代表されるように、伝統文化をきちんと守ることが徹底しているという点、もう一つは小学校から授業は全て英語でなされているという点です。

 国語以外はインドから来ている教師が、英語で教えているということでした。ですから子どもたちにあちらの言葉で「こんにちは」と声をかけると、“How are you?”と英語で答えてくれます。小さな頃から英語を使っているわけです。こうしたアイデンティティあるいはローカリティーと、英語教育というグローバリティーというものに、きちんと国として政策を打ち出して対応しています。その点、日本に比べると非常にシャープです。目標がはっきりしているということがわかるわけです。


なぜ守るのか、何を守るのか、何を求めるのか

 ブータンは1970年まで鎖国をしていました。北側の10億人の中国と南側の13億人のインドから雪隠攻めにされたら、人口70万人くらいの九州程度の広さの国ですから、あっという間に踏み潰されてしまうわけです。「なぜ守るのか」について言えば、これは鎖国と同様に国を守るためだと思います。そこで自分たちのアイデンティティを守るには鎖国しかないと、そういう政策をとってきたのでしょうが、1970年以降、解除しました。

 「何を守るのか」については、例えば“ゴ”や“キラ”といった民族衣装の着用が義務付けられていたり、建物のデザインは伝統的な様式を守らなければならないなど、伝統なり自国の綿々と続いてきた文化に大きな価値を置いています。その価値と誇りが社会を最も安定させるものだとして国の施策として展開しているわけです。

 そこで「何を求めるか」ということですが、GNPではなくGNH、つまりGeneral National Happiness(幸福の総量)が大事であるとしています。一人当たりの国民総生産を競うというのではなく、ハピネスを求めるのだということがこの国の国是となっているということでした。これには感動いたしました。


二兎を得られるか

 ローカリティーとゴローバリティーという二つの方向を一度に求めているわけですが、はたして本当に得られるのか、そのまま国を守っていけるのかが問題です。それは、この守る思想の根底に何があるのかということです。

 実際、本当に不便です。国自体が不便だし、情報も少ないし、食べ物も少ないし、決して裕福ではありません。日本のGNPの50分の1だと言っていましたが、我々から見れば確かに経済的には裕福ではないわけです。

 しかしこの国がきちんと守ろうとしているもの、それはなかば、強制されて仕方なくついて行っているのではないか、と初めは思っていましたが、現地では国民一人ひとりのなかに浸透しているのを感じました。最初それを支えているのは何なんだろうと不思議に思っていたのですが、「仏教」ではないかと思い当たりました。かつて日本も明治の時代に西洋化を試みて、日本の伝統文化をないがしろにしました。確かに日本人も敬虔な仏教徒であったとは思いますが、都市化がどんどん進み、西洋化が進むことによって、もう一方の日本固有の伝統文化を、少しないがしろにしすぎたように思います。

 しかし、教育を英語でやるまでにはいかなかったということもあります。

 この国には仏教という思想が背景にあるのではないか。この強さを持っていれば二兎を追うことはできるのではないか、ほんのわずかな滞在期間ですが、私の感想としてはそんなことを思いました。

画像ch26
大人の民族衣装
 
 これが伝統的な民族衣装です
画像ch27
伝統的な農家
 
 これは400年ほど前の農家です。

画像ch29
現在の農家
 
 これが今の農家で、我々が泊まったところです。基本的な構成は殆ど変わっていません。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ